613 バンダルスコーピオン



 ギギギギギーーーーーッッ!







 ガチャン!


 開けた扉が自然と閉まったんだ。

 その後にはオートロックのように扉の鍵が閉まる音の演出までしていたよ。


 念のため、ガチャガチャとしてみたんだけど、開く雰囲気は皆無だった。

 てことは‥‥やっぱこの部屋の主を倒さなきゃダメなんだろうな。


 部屋は縦長。テニスコート2面分くらいの広さがあった。天井からの高さは学校の体育館くらい。3階建の屋根くらいかな。


 最奥に。

 この部屋の主がいた。


 「クックック。アレクよ。大ハズレを引いたわ。まさかバンタルスコーピオンがおるとわな」


 ルシウスのおっさんが自嘲気味に笑ったんだ。


 「こいつは強いのかおっさん?」


 「そうさな。万全の騎士団員の上位20人がいてもその1/3は犠牲がでる。できるものなら闘りたくはない相手だな」


 「ふーん」


 部屋の最奥。

 この部屋の主として待ち構えていたのは、自動車サイズのバンタルスコーピオンだった。




 ◯ バンタルスコーピオン


 体長3〜5メル。ロブスターのように対の大きなハサミを持つ前脚に、4対の後脚。鍵状の尻尾の先端は猛毒を持つ。


 低重心の身体に反り曲がる尻尾の外観が半月(バンタル)を思わせることから、バンタルスコーピオンと名付けられたダンジョン屈指の強力な魔獣。

 食用可。甲殻類特有の味わいは高級食材の1つでもある。





 「全身銀色ってことは外皮(殻)はミスリルじゃろうな。しかもこいつは脚も速いぞ。

 わしはまだ走れぬ。

 アレクよ。お主はお主が生き残ることだけを考えろ」


 「ああ。帰ったらおっさんに直飲みじゃねーマヨネーズ料理を食わしてやらなきゃいけないからな」


 「ガハハハハハ。そいつは楽しみじゃわい」


 「おっさんは上から火魔法を頼むわ。いくらミスリルとはいえ、さそりである以上、火は苦手だろうからな」


 「なにを言っ‥」


 「円柱!」


 ズズズーーッッ!


 そう言った俺はおっさんを隆起させた円柱の上に載せたんだ。高さ6メルの円柱。この高さならバンタルスコーピオンの攻撃は受けないだろう。


 「何をしとる!?お前も上がらんのか!?」


 「だってこいつに勝たないと帰れないじゃん。おっさん、まぁ観ててくれよ」


 「ならんならん!死ぬことは絶対にならんぞ!」


 「誰がこんなとこで死ぬもんか!」


 「それならいいが‥‥無理はするでないぞ」


 「しねぇよ!(てか無理しないと勝てないだろ)」


 「さあアレクいくわよ!」


 「おぉよシルフィ!」


 よっしゃ。まずは小手調べからいくか。


 「エアカッター!」


 ヒュンッッッ!



 ガガガガッッ!


 鋭利な風の刃がバンダルスコーピオンの身体を直撃したんだけど、ただ金属音を響かせるだけだった。

 バンダルスコーピオンには8本の後脚があるからふんばれるんだよね。だいたいミスリルの鎧だからキズもないし。

 バンダルスコーピオンには俺たちの風の刃も、そよ風のように通り過ぎたんだろうね。


 「んじゃ次は土魔法だ。煉瓦バレット!」


 ダンダンダンッッ!


 ガンッ! ガンッ!


 銃弾のように。煉瓦をバンダルスコーピオンにぶつけたよ。

 だけど、これも衝突時の金属音が響くだけだった。凹みもしなければびくともしない。さらには大きな鋏で煉瓦を粉砕してやがる。


 カチカチカチカチカチカチ‥‥


 細かな牙のような歯を鳴らしながら向かってくるバンダルスコーピオン。それは疾走する馬みたいに。驚くほど速かった。


 「うわっ!やべぇ!」


 咄嗟に避けたんだ。


 バンダルスコーピオンの俊敏に動く身体に激突される→捕獲されて蟹並みに強力な鋏の餌食になる、または尾っぽの毒針で動きを止められる。

 最悪の絵図はすぐに浮かび上がる。


 危ない危ない。油断してないけどさ、同じような甲殻類だけど蟹と違って四方八方自由に動けるんだよね、バンダルスコーピオンって。てかサソリって甲殻類だったっけか。


 「じゃあ今度は水魔法。熱いお湯はどうだ。

 ボイリングスプラッシュ!」


 ジャャャァァァーーッッ!


 アツアツのお湯を噴水のようにぶつけたんだ。


 ガクッガクッッ!


 一瞬、8本の脚の幾つかが地面から離れた。


 「おっ、いい感じじゃね?」


 地面で踏んばる8本の脚も水が加われば十全にいかないんだよな、きっと。

 高圧噴水ならひっくり返すこともできそうだな。


 「でも熱いお湯は効いてないわよ」


 「うん。そうだね」


 熱湯なのに全然効いてないんだよな。てかこのサソリは「熱い」とか喋らないし。


 「じゃあ火もいっとくか。ナパーム!」


 ゴオオオォォォッッッ!


 バンダルスコーピオンを下から燃やしたんだ。真っ黒に焦げてもいいくらいに。

 でも、まったく変化がなかった。火の中、平気で歩いてるし。


 「そんじゃあ雷いっとくか。

 雷鳴 ライトニング!」


 ピカッ バリバリバリバリ‥‥


 今の中原では俺だけだって言われてる雷魔法を指先から発現したんだ。

 バンダルスコーピオンに向かって一直線に向かっていった最強の雷魔法だったよ。

 だけど……。


 バリバリバリバリ‥‥


 「「えっ!?」」


 驚きのシルフィと2人、まったく同じ反応をしたんだ。


 「「避雷針かよ(だわ)‥‥」」

 

 2本の鋏が基点となって避雷針のように雷魔法を地面に受け逃すバンダルスコーピオン。


 「ぜんぜん効いてないわ!」


 「ちょっとショックかも‥‥。

 でもさシルフィ‥‥こいつの格好、なんかカッコよくない?」


 バンダルスコーピオンの鋏を広げた姿が車高の低いイタリアの車を思わせたんだ。


 「ホントだ!」













 「「かっけー!」」













 「なにを惚けておる小童!」


 「あっ!さーせん‥‥」





 【 騎士団side 】


 「メイズ団長、下に降りる階段がありました!」


 「見つかったか!

 よし、ではすぐに向かおう」


 「「「はい!」」」



























 「ほらバリー君も早く。行くよ」


 「なんで行かなきゃならないんだよ!もう帰ろうぜ!先に進めば危ないに決まってるだろ!」


 「あなたまた‥‥。

 いいわ、それじゃあバリー君は残って1人で帰ったら?」


 「えっ?1人で?ウソだろ?」


 「嘘じゃないわ。嫌なら帰ったらいいのよ。

 みてごらんなさい。あなたが帰ることに誰か反対してる?」


 「「「‥‥」」」


 騎士団員、ポーターともに冷ややかな目でバリーを見つめていた。


 「どうしてだよ!?行けば危ないに決まってるだろ!誰か死んだらどうするんだよ!」


 「‥‥そうね。危ないわね。と言うかバリー君はアレクが嫌いだもの。

 だからバリー君。自分の行く先は自分の意思で決めなさい」


 「ううっ‥‥」


 「褌担ぎ君。おはんには友だちは1人もおらんでごわすな」


 「ふ、ふんどしかつぎ?変な名前で呼ぶな!

 てか、なんでそんな話になるんだよ!だいたい友だちなんかいなくても困るもんか!」


 「そうでごわすか。でも褌担ぎ君、それじゃあ窮地になったとき誰も助けてくれないでごわすよ」


 「うるさいうるさい!ブッヒー、お前ポーターだろ!?

 だったら黙って俺の言うことを聞けよ!俺を守ってすぐに帰るんだ!」


 「‥‥聞けないでごわすな」


 「なんでだよ!?俺は騎士団員だぞ!俺のほうが偉いんだぞ!」


 「ここにいるみなさんも騎士団員でごわすよ。しかも褌担ぎ君よりはるかに偉い騎士団長さんと副騎士団長さんもいるでごわす。

 褌担ぎ君この中の誰か、おいどんの言うことに反対する人はいるでごわすか?」


 「そ、そ、それは‥‥そんなこと関係ないだろ!てかなんであんなやつ助けるんだよ!?」


 「騎士団のみなさんは、おはんがずっと馬鹿にしてきたアレク関を助けに行くでごわす。誰1人それに反対する人はいないでごわす。

 なぜかわかるでごわすか褌担ぎ君?」


 「そんなの知んねぇわ!てか金でももらったんだろ!絶対そうだ!」


 「金?褌担ぎ君は本当に愚か者でごわすな。

 答えは簡単でごわす。騎士団さんもおいどんも、みんなアレク関が好きなんでごわす。アレク関が友だちでごわすからな」


 「友だち?はぁ?馬鹿じゃねぇか!」


 「いいでごわす。おいは褌担ぎ君と議論する気もないでごわすからな。だから、おはんは好きにすればいいでごわす。誰も止めないでごわすよ」


 「なんでだよ!ブッヒー雇われの冒険者なら俺様を守れよ!」


 「‥‥まだわからないでごわすか。なんで褌担ぎ君を守らなきゃいけないんでごわすか」


 「おはんは友だちでもなんでもない赤の他人。しかも雇い主でもない。おはんはおいどんの村で言う最底辺の弱者。

 友だちでもない他人の褌担ぎを護る理由はどこもないでごわす」


 「‥‥」


 「さあ早くアレク関を助けに。みなさん早く行くでごわす」


 「「「おおっ!」」」


 リアカーを担いだキザエモンが螺旋階段を降りていく。

 その後に続くのはキース、メンディ、ケント。そして騎士団員たち。







































 「お、お、俺様を置いて行くな!」



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