500 面接
「この面接では簡単な職歴等の前歴をお聞かせいただき、いくつかの質問をさせていただきます」
進行のメルル先輩が言った。
「はい」
「はーい」
「はいよ」
へぇー3人の返事からして違うよな。
商業ギルドの応接室で子どもたちを教えてくれる先生の候補3人を面接したんだ。
当然この世界には教員免許なんてないから、誰が何を教えてもいいみたい。
今度作る学校では字の読み書きができて、簡単な計算ができることを最低として、人ととしての善悪を理解できるようになってもらいたいんだよね。
サラさん、メルル先輩、俺の3人が面接官なんだ。今日の3人がみんな良い人だったらいいな。
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「メルルさん。これからは面接も数こなすことになるわ。話す内容も吟味したものを紙に落としていってね。今日の3人以降、誰でも面接ができるような形が作れるといいわね」
「はいサラ先生」
「よろしくね」
ああマニュアル化だな、これは。やっぱサラさんすごいな。
メルル先輩もすっかりサラ先生の助手的立ち位置になったよ。
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初めての面接は3対3の集団面接。
今日の3人は商業ギルドからの紹介なんだ。メルル先輩は名前と年齢は聞いてるらしいよ。
どんな人かって?そりゃ商業ギルドの紹介だからね、それなりに能力のある人なんだろうね。
「今日は私どもが開校する養護施設と初級学校の先生の募集に応募いただきありがとうございます」
ぺこり✖️ 3
深く頭を下げるサラさん、メルル先輩と俺。
ぺこり
同じように深く首を垂れる年配の女性が1人。
ぺこっ
ぺこっ
ごく軽く頭を下げる女性が2人。
「それではお名前とこれまでのお仕事を教えてください。では右のあなたから」
「はい」
深くお辞儀をした女性が微笑みで応えたんだ。
柔和な顔立ちの高齢の人族女性。
服も木靴もかなりくたびれてるな。生活環境が厳しいのかな。
「私はメアリと申します。永く北区の教会のシスターをしておりました」
あっ、あの悪徳神父のところだ。
「メアリさんはどうしてシスターを辞められたのですか?」
「はい。女神様の教えに反する神父様に失礼を承知で諫言を続けておりましたところ、辞めてくれと言われましたの」
「‥‥そうですか」
「でもまさか子どもたちを奴隷商に引き渡していたなんて‥‥。
もっと私がよくみていればと後悔してます……」
「それはメアリさんに責任はないですよ」
思わず俺も声に出していたよ。
「今は何をされてるんですか?」
「今は何もしておりません。お恥ずかしいことですが貯えもほとんどありませんので」
「「「‥‥」」」
ああメアリさんはうちの村の師匠やシスターナターシャと同じだ。着の身着のままで無償の奉仕する人だ。
「近くの商会の帳簿をみたり、子どもたちに字を教えるお礼としていただくわずかばかりの野菜で今は生き繋いでおりますのよ」
「失礼ですが満足な食事をされておみえですか?」
「いいえ。正直私も教会の炊き出しに頼った暮らしをしておりますの」
「お辛いですね」
「いいえ。これもまた女神様からのお導きだと思い、日々を精一杯勤めておりますので」
そう言った元シスターメアリさんが心からの笑顔を見せた。
コクン
コクン
コクン
これはもうサラさんもメルル先輩も俺も3人が互いを見合わせて頷くしかないよ。
「メアリさん、ご家族はおみえですか?」
「いいえ。女神様にお仕えしておりましたので今も独り身でございます」
「こちらに来ていただけるとすればいつから可能ですか?」
「そうですね‥‥帳面を見ている商会や字を教えている子どもたちがいますから急に辞めてはご迷惑でしょうから‥‥1月ほど後でしょうか」
背筋を正した元シスターのメアリさんが俺たち3人の目をしっかりと見ながら話をした。
(これは良い人がきてくれるよ!)
「それでは次に中の方、お願いします」
「はーい」
10代後半の人族の女性が応えた。かわいいなぁ。快活そうな見た目、服装はラフ。この年代の女性らしいものだね。
「シャルルよ。私は2年前の帝都学園の卒業生よ。あら、あなたは見覚えがあるわね」
メルル先輩を指差してそう言ったシャルルさん。遠慮なしだけど不思議と嫌な感じはしないな。
「はい、お久しぶりです。先輩は卒業後何をされていたんですか?」
「私?卒業してからずーっと何もしてないわ」
「ご家族から何か言われませんか?」
「ええ、そうなのよ。父は帝都騎士団の分隊長なの。だから私みたいな娘は世間体が悪いみたいね」
「‥‥そうなんですね」
「私が何もやってなくって遊んでばかりいるから、最近はますますうるさいのよ」
「今回の応募はどうしてですか?」
「私じゃないの。この募集もどこかから聞いてきたみたい。遊んでばかりいるんだったら行ってこいってね。だから‥‥あんまり期待しないでね」
「わかりました。来ていただけるとしたらいつからお越しいただけますか?」
「いつでもいいわよ」
(ある意味正直だな。でも‥‥ないな。うん)
「では最後に左のあなた」
20代後半〜30代前半の人族の女性が応えた。身なりのしっかりとした人だな。
「ペギーよ」
「ペギーさんの職歴を教えてください」
「隣の娘さんと同じよ。私も仕事をしたことはないわ」
「これまでは何をされてたのですか?」
「私、親から譲り受けた小さな商会をやってたのよ。人を3人くらい使ってね。だけどこの冬に夫が若い女を作って逃げたのよ。だから商会も潰れてね、今は家しか残っていないわ」
「お子さんはおみえですか?」
「いないわ。ダンナが逃げたから‥‥それだけが救いよね」
「どうして今回応募されましたか?」
「お金を稼がなきゃいけないでしょ。私何もできないけど字は書けるわ」
「わかりました。
来ていただけるとしたらいつからお越しいただけますか?」
「そうね、いつでもいいわよ」
(直感で‥‥うん、さっきの女性よりさらにないな)
「では最後に皆さんに質問をします。
よく聞いてください。
3人の子どもがいます。1人は獣人の子ども。あと2人は人族の子どもです。
① 獣人の子どもには家族も家もありません。何日も食事を摂っていませんからお腹が空いて屋台からツクネ串を盗んだところを捕まりました。このままですとこの子どもは犯罪奴隷になります。
② 2人めの子どもも家族も家もない、人族の浮浪児です。仲間が多いため、助けあってなんとか生きています。将来の見通しはもちろんありません。
③ 3人めも人族の子どもです。家族もいて家もある貧民街の子どもですが大人の争いに巻き込まれて重傷です。
あなたはどの子どもを助けますか?
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