498 賢人会
「この部屋の先にはな、わしのような元皇帝やペイズリーやイーゼルのようにわしの腹心だった元騎士団長、元海軍提督、魔法士団長、元ギルド長、元大臣、元外交官といった帝国を動かしておった者たちがおる。全員元がつく爺さん婆さんばかりだがな」
オヤジに連れられて来たのは帝都内にある王宮の一室だった。
わいわいガヤガヤ
ワイワイがやがや
うわっ!マジでおっさんに爺さん婆さんばっかだよ!ゴリラ軍団のボス猿ばっかじゃん!
あっ!?そういやオヤジもゴリラ顔じゃん。動きもゴリラだし。良かったよアリサやクロエがゴリラに似なくって。2人ともかわいいのは人族の母ちゃんに似たからなんだな。
「誰がゴリラだ。誰が魔獣だと、てめー!」
「痛い痛い痛い!頭ぐりくりしないで!」
「「誰がおっさんだと!」」
「「誰が爺さんじゃと!」」
「「誰が婆さんじゃと!」」
あわわわっ!こわっ!ゴリラの巣に放りこまれたのか俺。完璧にアウェイだよ!
大きな円卓には30人くらいの中高年者。
おっさん、爺さんに婆ちゃんがずらりと並ぶ。
チッ!オヤジに騙された。メイドさんなんて1人もいないじゃん!
「いるぞ。控え室にだがな」
「オヤジ騙しやがったな!」
「ワハハハハ嘘はついとらんぞ」
「こやつ‥‥」
「平然と‥‥」
「前皇帝をオヤジだと‥‥」
「「「‥‥」」」
ワハハハハハ
わははははは
ガハハハハハ
あははははは
なんか知らないけど受けてるぞ?何がおもしろいんだ?
でもさ。クソー!騙された!悔しーーい!
あっ知ってる顔も2人いた!
「やぁアレク君慣れたかい」
「イーゼル艦長!」
「こないだは儲けさせてもらったの」
「テーラー顧問!」
「「なんじゃイーゼルもテーラーもこの小生意気なガキンチョを知っとるのか!」」
「はははおもしろい子ですよアレク君は」
「そのとおりじゃ」
「アレクサンダーとペイズリーがわざわざ王国から連れてきてガキンチョか‥‥」
あちこちから聞こえるこのワード。しかも動物園の見たことのない動物を見るような視線‥‥居心地悪いな。
「(あそこにおる爺いはわしの前の皇帝、その隣は3代前の皇帝だ)」
「(すんげぇー爺さんじゃん)」
「「悪かったの!」」
ワハハハハハ
わははははは
ガハハハハハ
あははははは
「して‥‥皆揃うたかの。では始めるか」
口髭を胸あたりまで下げた老人が声をかける。
肌の色こそ浅黒いけど見た目も雰囲気も思いっきりテンプル先生寄り。長身痩躯のダークエルフだ。
うん、この爺さん、間違いなくコウメの爺ちゃんだ。
スッ
スッ
スッ
スッ
スッ
!!!
ワイワイしてた爺さんたちがコウメの爺ちゃんの一声でスッと引き締まった。
なにこのギャップ!しかも明らかにただもんじゃない雰囲気を醸し出してるよこの人たち!かわいい爺さんや婆ちゃんたちじゃないじゃん!怖い年寄りゴリラ連合じゃん!マジでチビりそう……。
「「「‥‥」」」
ワハハハハハ
わははははは
ガハハハハハ
がははははは
「「こりゃおもしろいガキンチョだわい」」
「「そうよのぉ。孫みたいなもんじゃがの」」
ワハハハハハ
わははははは
ガハハハハハ
あははははは
「して。今日来てくれたアレク君より皆に菓子の差し入れがあるぞい。食いながら話すかの」
「「「おおー菓子があるのか!」」」
「「「話題の王国由来の菓子じゃの」」」
「「「よいのよいの」」」
定番のクッキーやガレット、フィナンシェ、ビスコッティなどの焼き菓子を差し入れたんだ。
爺さんたちは絶対喜ぶだろうから土産分も用意しておくと良いぞってオヤジが言ったからな。30人分の土産用焼き菓子も紙袋に入れて持って来たよ。
あっ、このお菓子の詰め合わせ紙袋もこれからミカサ商会で売ろうかな。
「「「こ、これは‥‥」」」
ぽりぽりぽりぽり‥
「「「甘くて食感もいいのぉ」」」
ガリガリガリガリ‥
「「「美味いのぉ」」」
サクサクサクサク‥
ぽりぽりガリガリと焼き菓子を無心で食べ始めた爺ちゃんたち。あれ、案外かわいい爺ちゃんたちじゃん。
「お主‥‥ほんに物怖じせぬ子どもじゃの‥‥」
「えっ!?あはははは‥‥」
コウメの爺ちゃんが大人がやる、いつもの生温かい目で俺を見ていた……。
「コウメはどうじゃ?」
「俺のやってる狂犬団に入ってもらう予定ですよ」
「そうかい。楽しい学園になるように頼んだよ」
「はい!」
「して。アレク君、わしらはの、なんの権力もないただの年寄りの集まりなんじゃよ。
ただ国を愛する気持ちだけは昔と変わらんがの」
あーそうだろうな。爺さんたちの顔はどれもやりきった感が顔にちゃんと表れてるもん。カッコいい爺いだな。いつか俺もこんなふうに歳をとりたいな。
「それでな、この集まりは賢人会と言うての、皆で思うままに話し合う会なんじゃよ」
えっ?それって言いっぱなしってこと?
「ああそうじゃよ。引退したわしらにはもうなんの決定命令権もない。まぁ中にはまだ顧問だのと言った肩書きで残っておる者もいるがの。
いずれにせよわしらは、もはや責任もない年寄りじゃからこそ言いっぱなしでいいんじゃよ。
そんなわしら年寄りの提言を聞くも聞かんのも現皇帝たち姿勢者の自由なんじゃ。
まあ年寄りの戯言を許容するのも帝国の強さと思わんか?何せわしらただの爺さん婆さんじゃからの。
「よっただの爺さん」
ワハハハハハ
わははははは
ガハハハハハ
あははははは
この風通しの良さはすごいな。さすがは中原最強の一角だな。王国中どの領を探してもこんなことは絶対やってないよ。
「して。まずは貧民街の件じゃの。お主貧しい貧民の子どもや浮浪児を集めた施設を作ったそうじゃの」
「はい作りました」
「作ったってお主もまだ学園長じゃろ?」
「はい3年1組です」
「「「‥‥」」」
「金はあるのか?」
「金はありませんけどなんとかなるかなって思ってます」
「「「なんとかなるだと!?」」」
少し不穏な声も聞こえたんだ。だけどペイズリーさんが声かけしてくれたんだ。
「王都発のアレク工房という名前。みなさんも聞いたことがあるでしょう?」
「「「ああ」」」
「「「何かとおもしろいものを出しておるよの」」」
「「「王国の有名な商会、ミカサ商会の一部じゃの」」」
「アレク君はそこの代表もしておりますから、単純な保有資産だけでも帝都の主だった商会の同等か上でしょうな」
「「「なんと!?」」」
「ホントかガキンチョ?アレク袋は?」
「俺が作りました」
「わしの孫娘たちがやっておる積み木は?」
「俺が作りました」
「メイプルシロップは?」
「俺が見つけました」
「「「‥‥」」」
ワハハハハハ
わははははは
ガハハハハハ
あははははは
「なるほど!アレクサンダー、おもしろい子どもを連れてきたの」
「でしょう」
「して。貧民の子どもや浮浪児。これは帝都全体で増えておるのかの。アレク君どうかの?」
「俺こっちにきてまだ1か月なんですよ。だからはっきりした数字はわからないけど、仲間の狂犬団員は増えてるって言ってます」
「「「狂犬団?」」」
「「「なんじゃそれ?」」」
すると再びペイズリーさんが説明してくれたんだ。
「帝都学園に入学したその日にアレク君が言ったのは『俺に文句があるならかかってこい。1人でも何人でも相手になる』ってね。それで今彼の意のままに動く全学園生3,000人が狂犬団員かその傘下だそうですよ」
「「「‥‥」」」
ワハハハハハ
わははははは
ガハハハハハ
あははははは
「すまんなアレク君。話の腰を何度も折って。貧民街はどうじゃな?」
「あの‥‥そもそもなんですけど貧民街の人って正確には何人いるんですか?それと帝国、帝都の正確な人口、種族別、男女別、年齢別の統計ってあるんですか?」
コクン
コクン
「それはペイズリーやイージスが在職中なら何度も言っておったの」
「「はい」」
「正直な数か‥‥それはどうじゃろうな。どうしてそう思ったのじゃアレク君?」
「だって中原最強の帝国なんですよ。ザクッとした数じゃなくって正確な数を刻めたらもっと強くなりますよ。
せっかく紙が普及してきたから戸籍からちゃんとしたものを作ったらいいんじゃないかなって。
誰が何年の何月何日にどこで生まれた、死んだ。住んでるところはどこだって。それがちゃんとわかれば国はさらに強くなるんじゃない?」
「なぜ強くなると思う?」
「だって正確な統計があれば税収も正確になるし、だいたい悪いことした人もいつ何をしたってはっきりわかるじゃん」
「「「‥‥」」」
言いっぱなしでいいと聞いたから、思いつくままを言ったんだ。少なくとも今のヴィンサンダー領ではこんなことは絶対できないから。
「あとさ、最近思うんだよね。ダンジョンは別として森にいる魔獣の正確な分布図ってあるのかなって。
正確な数を冒険者ギルドで把握できたらいいじゃん。魔獣も増えたら増えたで警戒も早くからできるよね。
冒険者ギルドって登録してる人の数は把握してるって思うけど採ってきた魔獣ごとの集計ってとってるのかな」
「魔獣ごとの集計はとってないの」
「魔獣はいるよりいない方がいいと思うけど、もし本当にいなくなったら安全だって喜んでいいのかな。仕事無くなったら冒険者が困らないのかな。あと魔獣肉をあてにしてた食堂の人も生活できるのかな」
「「「おもしろいことを言うの」」」
「特に魔獣を食糧としてあてにしてたらいなくなったら困らない?
だったら今のうちから管理したらいいんじゃない?今月はここは禁漁とかにして。
それとブッヒーやカウカウ、コッケーみたいに繁殖させて魔獣を管理することってできないのかな」
「「「なるほどの」」」
「俺王国のヴィヨルドでキーサッキーを活用してもらうようにしたんだけど、それだっていずれキーサッキーがいなくなったら困ると思うんだよね」
「「「ふむ」」」
「だからさ、例えば食糧庁みたいな食糧に特化した国の組織があったらいいと思うんだよね。
ああ、俺昔の歴史とかが好きで勉強してるから」
「食糧庁か。たしかに大昔はあった記録があるの」
「そうやっていろいろやってけば貧民街の人って無くならない?
国として貧民街の人を支援して自立できたら結局国力が上がると思うんだよね」
「「「そうだわな」」」
「俺の住む王国はさ、ヴィヨルドは別だけど働かなくて威張るだけのクソみたいな貴族がけっこういるんだよね‥‥」
「「「クソみたいな貴族か!」」」
ワハハハハハ
わははははは
ガハハハハハ
あははははは
「王国だけじゃないけど、多くの国は爺いになっても手にした権力や金を手放さないじゃん。自分の一族だけ良ければいいって。
だからさ‥‥こんな爺さんや婆ちゃんが好きに話せる会。俺みたいなガキンチョの話を聞いてくれる帝国ってやっぱすごいよ。中原1強いはずだよ」
「「「‥‥」」」
「アレク君、お主はおもしろいな」
「「「おもしろい!」」」
「「「なるほどの‥‥」」」
「「「ああ。おもしろいわい」」」
爺さんたちに褒められたって嬉しかねぇわ!
「「「‥‥」」」
ワハハハハハ
わははははは
ガハハハハハ
あははははは
3代前の爺ちゃん皇帝が笑いながら言ったんだ。
「クックック。アレクよ。わしの15の孫娘はかわいいぞ。結婚するか?なんなら妾でもいいぞ。どうじゃ?」
えーっ!?
俺女の子と付き合ったこともないんだよ!そんな‥‥‥‥めちゃくちゃ嬉しいじゃん!
「あーだめだめ。こいつが好きなのはうちの次女みたいな3歳や4歳の幼女だぞ」
「「「‥‥」」」
「「「変態か!!」」」
「違ーうっ!俺が好きなのは赤ちゃんから3、4歳までの子のお腹の匂いを嗅ぐことだけだよ!できれば獣人の子の」
「「「‥‥」」」
「「「やはり変態じゃったか!」」」
「だから違うって!」
ワハハハハハ
わははははは
ガハハハハハ
あははははは
ガハハハハハ
あははははは
帰りに渡したお土産の焼き菓子はみんなが喜んでくれたよ。
「アレクよ。この賢人会は2月毎だからな。また再来月頼むぞ」
「言いっぱなしでよかったらね」
「ああ、じゃあ頼むぞ。それとなアレク‥‥」
「なんだよオヤジ」
「お前本当にクロエがいいのか?」
「ちげぇーよ!さっきも言ったけど俺が好きなのはあのお腹の匂いなの!もちろんクロエは妹でかわいいけど」
「アリサはどうだ?あいつもかわいいだろ」
「ああ、アリサはめちゃくちゃかわいいよ。でもアリサが腹の匂いを嗅がせてくれるかよ!
俺が魔力を伝えようと背中を触ろうとしたのでさえ、『触んな変態!』って言われたんだぞ!クロエだって最近は嫌がって嗅がせてくれないし‥‥うっ‥‥」
「そ、そうか‥‥」
「いいんだよ。アリサもクロエも俺のかわいい妹だから。
でもさ。俺もデーツみたいに彼女ほしいな‥‥」
「お前‥‥」
「あーそんな顔すんなよオヤジ!いつも大人はそうやってかわいそうな子どもを見る目で俺を見るんだから!」
「お前なぁ‥‥」
「さあオヤジ帰るぞ。飯の準備しないと」
「ワハハハハそうだな」
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