466 双子のガバス
【 アレクside 】
ホームステイ先の家から帝都学園までは徒歩30分程度だった。
走れば5分とかからないけどね。
一昨日はペイズリーさんに連れられて学園長に挨拶に行ったんだよ。
俺を紹介してくれる全校集会で挨拶ついでに俺が発表する内容を先に学園長に伝えておいたんだ。
先に知らせておけば先生たちが不快な思いをしないかなって思って。
【 帝都学園長side 】
「はじめましてノーツ学園長。王国のヴィヨルドから来たアレクです。1年間お世話になります」
古くからの悪友ペイズリーが連れてきたのは交換留学生のアレク君だった。身長150セルテ。どこから見てもふつうにふつうの小柄な男の子だ。
前皇帝陛下たっての希望。帝国留学という形で招聘したという彼。
昨年王国で開かれたという未成年者の武闘大会においてわが校首席のマルコ君やエルフの子どもたちを軒並み撃破して中原1位となったというこのアレク君。
だがそんな華々しい活躍をしたという肩書きをまるで感じさせない穏やかな印象を持つ交換留学生が彼だった。
「礼儀正しいね君は」
「いえノーツ学園長。ただの農民の倅です。帝国の礼儀を失していたら申し訳ありません」
初対面にみる農民らしからぬ礼儀正しい子どもという印象の彼。
日ごろから多くの大人と接し会話をしているのであろうな。ある種の小慣れた感は否めないものの、とても中原1位とかの強い武人という印象をまるで感じなかったのだが。
「ノーツ。マルコ君は学園でどのくらい強かった?」
「どのくらいだと?4年から頭角を表して今じゃ頭抜けて強いわ」
「クックック。そうか」
ペイズリー曰く現学園生ではアレク君にまるで歯が立たないだろうとまで言う。
「そこまでの子どもかペイズリー?」
「ああ。いずれ間違いなく中原に名を残す」
そんなことをうれしそうに言うペイズリーにも驚いた。
「そうか‥‥」
アレク君からはこんな詫びを言われた。
「ご紹介していただける最初の全校集会。そのとき俺は先生方が不快に思われるであろう不遜なことを言います」
「ん?何を言うんだい?」
「俺がいる1年間いつでもいいからかかってこい。全員ねじ伏せてやると言います」
「ぶっ。ワハハハハ」
それを聞いてさも安心したかのように大笑いをしたペイズリー。
しかも奴はそんな彼を煽るように言ったんだ。
「アレク君意外と骨が折れる強敵がいるかもしれんぞ」
「はいペイズリーさん。望むところです。強い奴と闘りたくて帝国に来たんですから」
「えっとノーツ学園長先生、子どもが偉そうなことをもう1つ言わさせていただきます」
正直言うと私もなにやらワクワクしてきたんだよ。だから。
「わはははアレク君なんでも言ってごらん。君の言うことは決して子どもの荒唐無稽な夢物話とは思わんから」
「ご配慮ありがとうございます。
万が一、俺の行動が原因で校舎の施設を破損したときにはもちろん俺が責任を持って弁償します」
「わははは。わかったよ。そのときは校舎を建て替えてもらうとするかな」
「はいもちろんです。よろしくお願いします」
さすがにこれは子どもの彼への賛辞として言ったつもりだったんだけどな。
アレク君が帰ったあと。ペイズリーに笑い話のつもりで話したんだよ。
「楽しみな子どもだなペイズリー。さすがに校舎を建て替えてくれとはアレク君に言い過ぎたか?」
「いやノーツ。彼の保有する資産はわが国の並の商人でも敵わないぞ」
「それは‥‥?」
まさか彼があのアレク工房そのものだとは知らなかったよ。
本当に校舎を建て替えられるほどの財力があるとは思わなかったからさ。
それにしても武闘に熱を上げつつ商いにも取り組む。これは楽しみな子が来てくれたな。
本学園生徒に良い影響が現れてくれたらいいのだがな。
【 再びアレクside 】
ワイワイガヤガヤ
わいわいがやがや
ワイワイガヤガヤ
初登校。
留学生歓迎の全校集会だ。
おおーっ。さすがに3,000人からの生徒が揃うと多いよなぁ。
壇上の椅子に座って学園長先生の話を聞く俺。
拡声魔法が広い講堂の隅々にまで声が行き届いている。
生徒のなかに‥‥やっぱ長男のデーツはいないな。長女のアリサはうん、ちゃんといるな。
この3,000人の中だったらアリサの魔力量ならちゃんと修行すれば6年までにトップも目指せるんじゃないかな。
「アレクも言うようになったよねー」
「あははは。それもこれもシルフィ先生のおかげです。はい」
「わかればよろしい」
でもそれは間違いないよ。今の俺があるのはホーク師匠から繋がったシルフィのおかげでしかないからさ。
魔力量を含めた探知のしかたはキム先輩に出会えたおかげだし体内魔力の操作はリズ先輩とテンプル先生の助言。
直近ではマル爺から伝授してもらったものも大きいな。
そんな周りの人たちの影響で今の俺があるんだ。
「‥‥ではアレク君。一言どうぞ」
「は、はい。」
あー緊張するよ……。
「みなさんこんにちは」
しーーーーーん
講堂内で座ってる学園生全員にむかって俺は言った。
「みなさん立ってください」
しーーーーーん
「先にみなさんに言っておきます。俺がこの学園を去る1年後。
みなさんは俺がこんにちはと言えばすぐに返してくれますし、立ってと言えばすぐに立ち上がってくれるようになります」
ザワザワザワザワ
ざわざわざわざわ
ザワザワザワザワ
「学園1位のマルコ君の代わりにきたのが俺です。
当然この中で1番強いのも俺です」
ザワザワザワザワ
ざわざわざわざわ
ザワザワザワザワ
よーし。だんだん敵意が満ちてきたぞー。俺も少しだけロジャーのおっさんの真似しよっと。
シューーッッ‥‥
もわんもわんもわんもわんっ‥
「(あ、あれ?なんだ?)」
「(こ、怖い。あいつ見てると震えが止まらないわ‥‥)」
「(な、な、なんか寒い‥‥)」
「(あ、あ、あいつの魔力か‥‥)」
「(あう、あう、あう、あう‥‥)」
「「「‥‥」」」
他者の魔力に敏感でそれでいて未だ弱者の生徒はその場で失神していくか腰が抜ける者多数……。
これ一般の人だったら逆にわからないと思う。
「いつでもどこでもいいぞ。
俺と闘りたい奴は堂々と名乗ってかかってこい。
ただ闇討ちとか卑怯なことはするな。卑怯なことをする奴には倍返しするぞ。
学校を傷つけたり他の人に迷惑にもなることをするな。
あと1つだけ約束だ。闘って俺に負けたら今後逆らうことは一切許さない。以上」
しーーーんとなった講堂内だったよ。
教室に入るまでは紛れて襲ってくる奴はいなかった。さすがは帝国学園生だよな。
▼
教室に入ったんだ。
3年1組1番が俺。この50人が俺の新しいクラスメイトだ。
あれ?みんななんで後ろで固まってるの?
歓迎会でもしてくれるのかな?
気づかないフリしてとりあえず1番前の真ん中に座ろう。
「ちーす」
「「「‥‥」」」
あれ?みんな下向いてるよ。ガクブルしてる子もいるし。なんだよ!俺いじめっ子じゃないぞ?
約2人からはむき出しの敵意を感じるけど。
と。
くるな。
シュッ!
シュッ!
後ろから吹き矢が飛んできた。
カンッッ!
カンッッ!
さっと振り返り腰の脇差の鞘で払う。
「「えっ?」」
気配も消さずに吹き矢なんてバレバレだって。しかもこれ毒矢だな。てことは‥‥。
ダンッッ!
すぐにその場から吹き矢筒を手にした2人組の腹を鞘付きのままの脇差の先で突く。
「ゴフッッ」
「ゲホッッ」
ダンダーーーーーンッッ!
そのまま2人を蹴倒した俺。
ササササーーーーーッッ
潮が引くみたいに。2人の後ろには誰もいなくなった。
キャーーーーーッッ!
教室内の女子から悲鳴が上がる。
双子?
そっくりの2人はモブそのものだった。
「(お前ら名前くらい名乗ってからだって言っただろ?
海洋諸国か?どこの一族だ?)」
一応周りには聴こえないように配慮してあげるんだけどね。
「(名前は?)」
「(ドン・ガバス‥)」
「(トン・ガバス‥)」
「(席次は?)」
「(3年1組1番‥)」
「(3年1組2番‥‥)」
「(ああ元のな)」
「「(‥‥)」」
「(それとガバス一族か)」
「「えっ?知ってるのか?」」
「(知ってるも何も主要5氏族の1つだろ)」
ガバス一族なんて初めて聞くけど。俺姫が言ってたこと適当に言ってるんだけなんだけどね……。でもたぶんそうだよね?
「「(な、な、なぜそこまで‥‥)」」
ビンゴー!
「(これ先に毒が塗ってあるよな。お前ら当然毒耐性はあるよな?)」
「「(えっ?!ちょっ、まっ‥‥)」」
ザスッッッ
ザスッッッ
2人の頬を吹き矢で撫でたんだ。
「「ギャアアァァァアアァァァ‥‥」」」
ガタガタガタガタガタガタ‥‥
「(なんだよ?耐性ないのにこんなもん振り回してるのかよ?
ベルーシュ一族みたいに根性なしだな。あああそこはもう潰れたっけ)」
「(に、兄ちゃんこ、こいつ‥‥)」
「(あ、ああヤ、ヤバすぎる‥‥)」
シュッ!
俺自分の左手の甲も撫でたんだ。
「(えーっ。ぜんぜん大したことないじゃん!こんなんだったらデグー一族の毒のほうがはるかに危ないじゃん)」
ダンジョンのおかげで俺それなりに毒耐性もあるからね。
「「(お、お、お前はなんで‥‥)」」
「(お前?)」
「(あ、あなたはなんでか、海洋諸国のひ、秘密を‥‥)」
「(ああ俺はアイランド一族のキム先輩の弟だ。イシルとトマスは兄弟だからな)」
「「(ま、ま、まさか‥‥)」」
ガタガタガタガタガタガタガタ‥‥
2人がみるみるうちに顔面蒼白になってきたよ。震える脚で勝手に反省正座してるし。
教室内の他の生徒はそんな俺たちを遠巻きに見守っている。
「(なんだよ?毒でブルってるのか?
それとも‥‥
これからお前らに与えるトマス仕込みの拷問が怖くなってビビってんのかよ?)」
うん。これは完全にブラフ。
俺拷問なんてしたことないしやり方も知らないし。
「「(ゆ、ゆ、許してください‥‥)」」
ジョーーーーーッッ‥‥
ジョーーーーーッッ‥‥
「(あちゃー2人とも漏らしやがって。すぐに着替えてこい。1時間めの授業が終わったらあらためて来い。わかったな)」
「「(サーイエスサー!)」」
脱兎のように教室を飛び出してかけていく双子。毒浴びててこのスピードなんだろ。だったら最初から正面から闘ればよかったんだよ。
でもさ‥‥
やったやったよ!ついに闇に隠れてモブを演じる学生になれたよ!俺かっけーーー!
「アレクお前気づけよな。みんな引いてるよ‥‥」
あっ!しまった‥‥
ヒソヒソヒソヒソ‥
ひそひそひそひそ‥
「(3年首席の2人が手も足もでない‥‥)」
「(しかも桁違いに強い‥‥)」
「(狂犬かオークよ‥‥)」
「ほーら言わんこっちゃない」
「さーせんシルフィさん‥‥」
【 双子のガバスside 】
更衣室で下着を替えた2人が出向いたのは保健室だった。
「あれ?1年生お前だけか?先生は?」
「先生は職員室ですよ。今は僕しかいません」
「1年お前エルフだろ?これ毒だけど治せるよな?」
「カンタンですよ。そんなことくらい」
「「じゃあ頼むよ」」
「キュア!」
「「ありがとな」」
「先輩たちひょっとして留学生のアレク先輩と闘って返り討ちに遭いました?」
「「な、なぜそれを?」」
「やっぱりね。
でアレク先輩は強いんですか?」
「「ああ‥‥」」
「ありゃ強いなんてもんじゃねぇよ」
「マルコさんでも敵わなかったんだろ」
「「化けもんだな」」
「そうですか」
「化け物だってソニア」
「楽しみねコウメ」
肩に座る精霊とそんな会話があることにまるで気づかない双子であった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
クラスでも自己紹介をしたんだ。
「えーと王国ヴィヨルド領から来ましたアレクです。
向こうの学校では不本意ながら狂犬とかゴニョゴニョと呼ばれてました。
首席だったマルコ君に代わってこの学園に来ましたから当然この学園でも首席で1年通します。
文句のある人、勝負したい人はさっきのお友だちと同じです。いつでも歓迎します。遠慮なくかかってきてください。
たださっきも言いましたが1つだけ約束があります。
俺に負けた奴はそのあとの1年は俺の言うことに従うこと。たったそれだけです。
ああ逆に俺が負けたら勝った人の言うことはなんでも聞きます。
学園を辞めろと言われればすぐに辞めますからね。
あとクラス代表ですから困ったことがあればなんでも俺に相談してください。仲間だから俺がなんとか解決するように努力しますから。
では1年よろしくお願いします」
しーーーーーん
「よろしくお願いします」
ガタッ!
ガタッガタッ!
ガタガタガタガタガタッ!
「「「よろしくお願いします!」」」
よーし。これで話がさらに広がるな。3,000人に喧嘩を売ってやったよ。
「アレクあんたマリーに似てきたわね」
「えー俺マリー先輩みたくあんな戦闘狂じゃないよ」
「あんたのそれが戦闘狂っていうのよ!
それとここ完全にアウェイだからね」
「うん。楽しみだよ!」
「たしかにそうよね!」
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