464 最初の晩餐



 「メシだー。降りてこーい!」



 しばらくしたら長男のデーツと長女のアリサが食堂にやってきたんだ。


 「よし。ちゃんと降りてきたな。えらいぞ。デーツはここ、アリサはここに座れ」


 「「‥‥」」


 そこにはすでにバブ婆ちゃんとクロエも座っていたんだ。


 「アレク‥‥あんたこれぜんぶ作ったのかい?」


 「ああ今日はちょっと少なめだけどな」


 「あんた!あとから食費出せって言ってもあたしゃ出さないからね!」


 「あははは。いいよ婆ちゃん。メシは俺の責任で作るからさ」


 「それならいいのさ」


 ごくんっ

 ごくんっ


 デーツもアリサも口には出さないけど料理を凝視してるよ。

 クックック。楽しみだな。まあたぶん無表情を装うだろうけどね。



 夜ごはんはチューラットのハンバーグ(ツクネ)に粉芋のマッシュポテト、カーブのマリネを1プレートに盛りつけたもの。

 スープはカウカウのミルクで溶いた芋のポタージュ。

 パンは柔らかく焼いたソフトタイプのバゲットが2切れ。

 デザートはコッケーの卵で作ったプリン。



 「いいかお前ら。今日から朝ごはんと夜ごはんはみんなが揃ってから食うからな。誰か1人でも来なかった食えないからな。

 あと嫌いなもの。口に合わないものは無理に食わなくていいぞ。ただ代わりは出さないけどな。

 あと食ったらお皿は水場に下げておいてくれると助かる。

 慣れたら皿洗いも当番を決めるからな」


 「なんでお皿なんかを洗わなきゃいけないのよ!」


 「なんでも家族で助けあってやるんだよ。家事も分担なんだよ。

 自分だけ楽して家族にやらせるのが正しいことなのか?」


 「だって‥‥」


 「まあ慣れてからだ。いきなりあれやれこれやれじゃお前らも困るからな」


 「「‥‥」」


 「メシは家族全員揃わないと食えない。これがルールだ。ルールを守れない奴はあとで兄ちゃんから制裁だからな」


 「デーツ。歳はお前が俺より2歳上だ。

 この1年お前が俺に勝ったら俺が弟になってやるからな」


 「‥‥」


 「アリサとクロエはずーっと俺の妹だ。俺はお前らを何があっても守るからな」


 「‥‥」


 「婆ちゃんは‥‥」


 「部屋に入ってくんじゃないよ!」


 「入んねぇーよ!」




 「クロエちゃんはお兄ちゃんが守ってあげまちゅからねー」


 「「「‥‥」」」


 何か言いたいようだけどさすがに食事に目がいってるな。食事前に説教はダメだよな。


 「よし。じゃあ食うぞ」


 「いただきます」
















 「言えよアリサ」


 「フン。言えばいいんでしょ!イタダキマスー!」



 「言えよデーツ」


 「イタダキマス」



 「言えよバブ婆ちゃん」


 「あたしもかい?」


 「当たり前だろ!」


 「うるさい子だねアレクは。言えばいいんだろ。いただきます」




 「クロエちゃんはお兄ちゃんが代わりに言ってあげまちゅよー」


 「せーの。いただきまちゅー」


 「「「‥‥」」」



 「よーしじゃあ食え。

 クロエちゃんはお兄ちゃんが切り分けてお口に運んであげまちゅよー」


 「「「‥‥」」」









 食事は3人みんなの口に合ったみたいだ。

 クックック。みんな黙々と食ってたもんな。


 かなり少なめに盛ったクロエもほぼ完食してくれたよ。



 バブ婆ちゃんが1番素直だったよ。


 「アレクあんたすごいさね。あたしゃこんなうまいもん初めて食ったよ」


 「そうかい。そりゃよかったよ」


 ニコニコと笑うバブ婆ちゃんだ。



 プリンはアリサが目を輝かせて食ってたよ。


 「アリサ。それはプリンだ。美味いだろ」


 「フン。不味くはないわね!」


 「そっか。食ってくれるだけで兄ちゃんはうれしいよ。デーツはどうだ。食えたか?」


 ハンバーグもスープもパンもプリンもぜんぶ平らげた食べたデーツがコクコクと頷いていたよ。



 「クロエちゃんも食べてくれまちたねー。お兄ちゃんはうれしいでちゃよー」


 「「「‥‥」」」







 「それと少しずつ家族ルールを決めていくからな。

 メシのときは今日は何があったとかどんなことをしたとか教えてくれたら家族の気持ちも1つになるからな」


 「「「‥‥」」」


 「俺とバブ婆ちゃんはお前らの応援団だ。だからほしいことや困ってることはなんでも言えよ。兄ちゃんは全力でお前らを守ってやるからな。当座どうだデーツ。なんか欲しいものはあるか?」


 「‥‥青色ノ絵ノ具ガホシイ」


 「わかった。明日用意してやるからな」


 「ヘッ買エルモノカ」


 下を向いたデーツが意味深な笑いを浮かべたんだ。

 でもなわかってるよ青色の絵の具が高いってことは。

 あれ青色の宝石を細かく砕いて作ったんだろ。江戸時代の日本でも絵師が青色を描くのは財力のある寺社じゃなきゃできなかったからな。


 「デーツ。兄ちゃんはやると言ったらやるからな」


 「ヘッ」



 「アリサはどうだ?なんかほしくないか?」


 「早くあんたが出てってくれることよ!」


 「ばーか。たった1年くらい我慢しろい。1年したら居てくれって言っても出てくからな」


 「だったら今すぐ出てってよ!」


 「はあー?何言ってるんでちゅかねーアリサお姉ちゃんは。聞こえないでちゅよねークロエちゃん」


 「バカにしないでよ!」


 ガタンッ!


 立ち上がったアリサがそのまま帰ろうとしたんだ。


 「アリサ待て」


 「な、なによ!こ、こ、怖くなんかないんだから‥‥」


 「お前メシ食い終わったらどうするんだっけ?」


 「わかったわよ。ごちそうさまっ!」


 「よし。えらいぞアリサ」


 「デーツは?」


 「ゴチソウサマ」


 「ごちそうさま!」


 「おおーバブ婆ちゃんえらいぞ」



 「クロエちゃんはお兄ちゃんと言いまちゅよー。ごちちょーちゃまぁー」


 「「「‥‥」」」



 「ああ。ふだんはこんな感じでいいからな。

 ただ今日はもう1つ覚えてもらうぞ。ついてこい」


 「‥‥」


 「なによ?」


 「なんだいアレク?」


 「クロエちゃんはお兄ちゃんと行きまちょうねー」



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