421 円卓No.6 苗木を育てる
それは狐仮面(アレク)が1番テーブル(円卓)に向かう直前のこと。
モンデール神父、ディル神父、シスターナターシャ、ミカサ・ウィンボルグ、サンデー・ウィンボルグ、サミュエル学園長の6人が囲む円卓に隣席からテンプルが訪れた。
「サンデーちゃん隣に座ってよろしいかな」
「ええ先生こちらにどうぞ」
第2部披露宴
中庭のメイン会場に集う1,000人余りの多くの冒険者。彼等の歓談もあって。
第1部と変わらぬ熱気とそれ以上の喧騒が迎賓館を包んでいた。
ワハハハハハハハ
わははははははは
ガハハハハハハハ
がははははははは
ワハハハハハハハ
「ではあらためてロジャーの結婚を祝って乾杯」
「「「乾杯!」」」
「未成年者初の中原の覇者狐仮面君に乾杯」
「「「乾杯!」」」
「サンデーちゃんや。狐仮面君の作る料理の数々はどれもほんに旨いもんよのお」
「ええ先生。私も初めて食べるものばかりよ」
「これらは明日からミカサ商会とサンデー商会で売り出すんじゃろ?」
「「はい」」
「ミカサよ。いよいよアレク工房だけでも中原中でやっていけるんではないかの」
「でしょうな老師。このまま数年もすれば王国でも指折りの大商会となりましょうな」
「どうじゃなミカサ。狐仮面君をサンデーちゃんの若い旦那に据えれば?」
「ワハハハハ。それができればどんなに嬉しいことでしょうな。
ミカサ商会の屋号まるごと換えても惜しくない。孫娘の幸せを第1に思う年寄りにはそんな未来があれば嬉しいと思っておりますよ」
「おぉ!お爺さまからも許可が得られたぞ。どうじゃサンデーちゃん」
「フフフ。狐仮面君が望んでくれるなら彼からはお婆さんになる私になんの異存もないわ」
「そうか!サンデーちゃん」
「でも先生。狐仮面君がそんな簡単な道を望まないことは先生もよくご存じのはずよ」
「わはははは。すまんなサンデーちゃん。ミカサもすまんかったな。冗談にしてはお主らに対して失礼な物言いをしたの」
「「いいえ先生(老師)」」
「さて‥‥。モンデールよ消音魔法をしてくれんかの」
「はい?ええ老師」
パーンッッ!
シーーーーーーーン
モンデール神父が手を叩くのと同時に、6番テーブル(円卓)の周りから喧騒という名の音が消えた。
それは同じ空間にあって6番テーブルだけが音のない世界に入った瞬間だった。
「うむ。さすがモンデールよの。これで大声を出さんでも皆に声が通るわい。
ああ、ついでにわしも認識阻害の魔法もしとくかの」
パーンッッ!
「これで誰ぞがこのテーブルを覗いても口元から言葉を読み取ることは不可能じゃよ」
「いとも容易くこんな高度な魔法を!老師も大概なものね!」
「ナターシャちゃん歳の甲じゃよ。何せお主の数倍は生きておるからの」
わははははは
ふふふふふふ
「さて。今日はこのヴィヨルドの地に運命の糸に導かれて狐仮面君と縁のある者が揃うたからの。まあその中でもわしが最も若いがの」
「「まあ先生ったら」」
「ナターシャちゃん、サンデーちゃんよ、お主らの狐仮面君との付き合いに比べたらわしが1番ひょっこじゃからの」
フフフフフ
ふふふふふ
「さて。消音をしてもらったのは他でもない。これからの狐仮面君のことじゃ」
「「「‥‥」」」
「狐仮面君の先の春休み。
サンデーちゃんの護衛との名目でロジャーとわしが狐仮面君についてアザリアに行った話は皆も知っておるの」
「「「はい」」」
「ますばモンデール、ディルその方らに言うておく」
「「はい‥‥」」
「アザリアに向かう馬車で初めて狐仮面君に会うたとき。わしは息を飲んだぞ。それはヴィヨルドの先代、今のヘンドリックも薄々感じておろう」
「「‥‥」」
「その上で言う。アザリアに巣食う賊はむろんじゃがアザリア領都騎士団でさえもはや狐君に敵う者など1人もおらなんだ。
それはディルとここにはおらぬホークの2人の指導の賜物じゃろ」
「さてさてなんのことかいの老師」
「よいよいディルよ。誰にもこの会話は聞こえてはおらんわ。外からはわしらの口も読めぬように認識阻害もしておるからの」
「さすが老師よのぉ。じゃがなんのことやらさっぱりわからぬがの。ハハハハ」
「わはははは。いや実はの。その旅の折、わしは狐仮面と握手をしたんじゃよ」
ハッ!
ハッ!
ハッ!
ハッ!
即座にハッと驚愕の思いを浮かべるモンデール、ディル、シスターナターシャ、ミカサの4人。それはほんの一瞬のことではある。
「ちなみにのこの春の王都会議の折。
ああこの武闘大会の開催が決まった会議のことよ。
その時出席しておったヴィンサンダー領の家宰と歳若い領主の2人とも握手したがの‥‥」
「まさか‥‥老師‥‥」
「心配せんでもよいわナターシャちゃん。わしもお主らの1番若い仲間じゃからの」
「はい老師」
それはこれから話す内容を悟ったシスターナターシャが、初めて満面の笑みをテンプルにむけて浮かべた瞬間である。
「ナターシャちゃんは相変わらず美しいのぉ。あの朴念仁の娘とは思えぬわ」
「まあ老師ったら」
わははははは
フフフフフフ
「握手をした狐仮面君からはあの懐かしい男の持つ目に見えて強い魔力と、その妻の持つ目には見えぬが深い魔力が確かに感じられたよ。それはそれは強くも心暖かいものがの。
それと比べての‥」
こくん
コクン
こくん
コクン
こくん
「もうここのおるお主らは気づいておるのじゃろ。ああサンデーちゃんだけは別か」
「‥‥さすがよのミカサ」
「はい老師」
「愛する孫娘よりもお主の朋友ディルとの約束を重んじたか」
「当然のことです老師」
「サンデーちゃんや。爺さまは紛うことなき真に正しい漢よのぉ」
「はい老師。でもお爺さまが言われなくてもわかりましたよ。だってただの3歳の農民の子らしからぬ立ち居振る舞い。さらには農民の子の周りにいるにはあり得ない傑物の皆さま方。
そこからたどり着く推測は1つしかありませんからね」
笑みを浮かべながら円卓の周りを見渡し堂々とした受け応えをするサンデー。
「そうきたか!いやいやこの席に座る者たちとまったく変わらぬよ。サンデーちゃんも充分に傑物じゃて。わははははは」
「老師‥‥それではやはり」
「ああモンデール。あの若き領主からは家宰の魔力しか感じなんだ」
「「「‥‥」」」
「あの若い領主は真っ赤な偽者じゃの。
そして本物は‥‥いや言うまい。
ここまでよくぞ隠しとおしたなモンデール。お主に最大の敬意を表する」
「もったいないお言葉です‥‥」
モンデール神父の瞳に光るものが浮かんだ。
「モンデールが救い、ディルとナターシャが育てた苗木。ミカサとサンデー、さらにはここにはおらぬホークが水をやり、植え替えたヴィヨルドの地でさらにサミュエルが育てた。お主らすべての者に敬意を」
テンプルが深く頭を下げた。
「「「老師‥‥」」」
「ロジャーとタイラーの2人も薄々気づいておる。そしておそらく前領主ヘンドリック経由で現領主のジェイルもな」
「「「‥‥」」」
「あやつらが味方であろうことは疑いようもないわの」
「「「‥‥」」」
「それも踏まえてじゃ。お主らの後ろ盾と狐仮面君自身の力で動乱を未然に防いだアネキアでの功績を合わせればもはや隠さんでも良いじゃろうて」
「「「はい‥‥」」」
「アネキアの疑惑はたとえヴィンサンダーの領主といえど誘導魔法を拒むことはできまい。誘導魔法から家宰の犯した罪のあれこれ、特に本来の領主がなぜ死んだのかが明らかになるじゃろうからな。
もう苗木を復権させてやっても良いのではないかの?」
「どうじゃモンデール」
「はい」
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