406 阿鼻叫喚

 406 阿鼻叫喚


 註) 本編は後半に身体損失の描写が入ります。本編内容を読まなくても問題はありません(作者)




 「アレク、その‥‥ボル隊では絶対に勝てないのか?」


 「はいヒューイ先輩。階層主ゴリラに間違いなく一方的にやられます」


 「じゃあ、どうしたら?」


 「扉が開きませんからどうしようもありません」


 「開かないのか?」


 「はい。ボル隊が階層主との戦闘中は絶対にこの扉は開きません」


 「じゃあどうしたら開くんだ?」


 「開くのはたぶん5人全員が倒れたと判断されたらですね。そのときに扉が開くはずです」


 「ま、まさか殺されるとかはないよな?」


 「どうでしょう。学園ダンジョンと謳い何十年も学園生しか入れないんです。だから‥‥過去の記録から死ぬことはまずないかなって思います」


 「そうか!よかった!あいつらちょっとくらい怪我するならいい薬だよ」


 「いえ。ヒューイ先輩それは違います!」


 「えっ?なにが違うんだ。だってお前いま死ぬことはないって言ったよな?」


 「ええ。たしかに死ぬことはないって言いました。それでも部位欠損とかはよくあることです。実際去年の俺らは重傷多数。俺も死にかけましたから」


 「マジか‥‥」


 「ヒューイ先輩。さっき先輩たちにも言いましたけど、それはあくまでも学園10傑レベルのことですからね」


 「それって‥‥やっぱり俺たちはそんなに弱いのか?」


 「はい。ヒューイ先輩を前に言い難いんですが、実戦で1年10組と闘っても先輩たちは絶対に勝てません」


 「まさか‥‥それほどまでに‥‥?」


 「まともに10傑になったユーリ先輩やライラ先輩ともし実戦で、それも6対1で闘っても先輩たちは間違いなく負けます」


 「そうか‥‥やっぱり俺たちの武闘祭対策は間違いだったんだな」


 「はい。言い難いんですけど。

 ダンジョン4階層で戻る選択をしていればいい思い出で終われたと思います」


 「‥‥」


 「先輩たちが死ぬ前に扉が開くことだけを祈りましょう」






 「それでも何か‥‥俺ができることはないだろうか?」


 「はい。なにもありません。残念ながら」




 【 ボル隊side 】


 ギギギギギーーーーー



 「「「広っ!」」」


 ボル隊の5人が思わずハモるくらい5階階層主の部屋は大きな空間だった。

 窓の一切ない全面壁仕様。高さを含めてバスケットコート1面がまるまる入るくらいの大きさの部屋だ。

 なぜか明るい室内。アレクやセーラならばこれも去年と同じだと思うだろう。


  ごくんっ

  ごくんっ

  ごくんっ

  ごくんっ

  ごくんっ


 「おい‥‥」


 「ああ‥‥」


 「「「デカいな‥‥」」」


 5人が瞬きを忘れたかのように、ただ一点のみを見つめる。

 それは最奥にある椅子に座っている階層主だった。

 身の丈4m。ゴリラだった。


 フーッ フーッ フーッ


 静かな室内に響くゴリラの鼻息。


 「よ、よし。お、俺たちの強さを見せてやる」


 「「「お、おお‥‥」」」


 自然と。

 無意識のうちに震える声と身体。



 ギーーーーーーッ


 ガシャンッ


 開けたときは手動。

 階層主ゴリラのみに意識がいっている彼らのその背後で。自動扉のように、扉が勝手に閉まった。ご丁寧にもオートロックのように施錠する音まで響かせて。


 ガシャンッ


 ゴリラは扉が閉まるのを待っていたようだ。


 施錠する音に合わせて。視線を5人組に向けながらゆっくりと立ち上がるゴリラ。


 フーッ フーッ フーッ


 真っ赤に血走る目。全身を覆う暴力と言う名の気迫はこれまでに倒してきた魔獣たちとは明らかに違うものだった。


 「リ、リーダーだ、だ、大丈夫だよな?」


 「あ、ああ。だ、だ、大丈夫だ」


 ゆっくり立ち上がったゴリラが胸を叩きドラム音を響かせた。


 ボコボコボコボコボコボコボコ‥


 室内に響き渡る重低音。相手を威嚇するドラミングだ。


 そして。


 ウガガガーーーーーーッ!


 部屋いっぱいの咆哮。ゴリラの叫び声が響きわたった。


 「「「ヒッ」」」


 立ちすくむ5人組。



 ダンッ!


 一気に跳躍したゴリラがリーダーの目の前にいた。


 「なっ!?」


 リーダーの顔が触れ合うくらいの距離で。ゴリラは自身の顔を無防備にリーダーに近付けた。


 フーッ フーッ フーッ


 「えっ‥‥?!」


 そしてそのままその大きな右手を上から下に振り下ろした。


 ブンッッ!

 ガーンッ!













 一瞬。何か刺すような痛みがリーダーを襲った。


 「いっっ‥‥」


 無意識に感じる痛みに右手首を触るリーダー。


 「えっ?!な、無い?俺?俺の手首?」


 ブシューーーーッッ!


 レイピアを握っていたはずの手首が無くなり、あるはずの手首の位置から噴水のような血が溢れた。


 「あ、あ、あ、あああぁぁぁぁぁーーーー」


 ゴフッゴフッゴフッ‥


 ニヤッと笑うゴリラがリーダーの目の前で「なにか」をリーダーに見せる。

 そしてレイピアを掴んでいた「なにか」からレイピアを後ろに放り投げたあと、「なにか」を口に運んだ。


 モギュッ モギュッ モギュッ モギュッ‥


 「「「ヒッ、ヒイイイィィィィィーーーッッ!」」」


 「「「ダメだ!逃げろ!」」」






 そこから先は一方的な蹂躙の場、暴力装置の発動の場となった。

 

 しかし散り散りに逃げ惑う5人に逃げ場など‥‥どこにもなかった。



 ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ!


 「開けろ 開けろ 開けろ 開けてくれえええぇぇぇぇーーー」


 そう叫んだ学生の後ろからゆっくりと近づいたゴリラ。

 背中越しに学園生の左右の手をバンザイするかのように上げた。


 「は、離せえええぇぇぇーーー」


 ズボッッ‥

 ズボッッ‥


 腕ごと。そのまま1本、また1本と肩から腕を強引に引き抜いた。


 「ギャャャァァァーーーーッッ!う、う、腕があああぁぁぁぁぁ‥」


 ポイっ


 玩具遊びに飽きた幼児のように。そのまま打ち捨てられる学園生。


 「お、お、俺の腕‥」


 ズルッ ズルズルッ


 落ちた腕の根もとの方向に這いずり、それを肩に当てがう学生。


 「入れ入れ入れ入れ入れ入れ入れ‥」




 ブンッッ!


 「痛っっ!」


 次に標的となった学園生は片脚の膝から先があらぬ方向を向いていた。




 ガシッ

 ドンッ!

 グシャッ


 身体を掴まれた学園生は受け身をとる間もなく壁に放り投げられた。




 「く、来るな!」


 立ち塞がるゴリラの胸板にレイピアを必死に突き立てようとする学園生。


 チクッ チクッ チクッ


 ゴリラにとってそれは心地よいマッサージに近いものだったのだろう。


 フーッ フーッ フーッ


 しばし目を細めて、学園生のするに任せていたゴリラはやがて飽きた。

 レイピアを掴み、爪楊枝を折るごとく軽々とその刀身を折った。そしてそのまま学園生の腕もまた連続で折った。


 ポキッ

 ポキッ


 「ぎやあああぁぁぁ!」


 あっという間に使いものにならなくなった5個の「玩具」。それでも音だけは出し続ける。



 ギャァァァァァーー

 ぎゃぁぁぁぁぁーー

 ギャャャァァァーー



 階層主の部屋中に響きわたる阿鼻叫喚の叫び声。

 これに部屋の主は不快感を覚えたようだ。勝手に人の部屋に入り込んだ上に叫びだすとは何事だと。


 ウガッ ウガアアァァ‥


 フーーッ フーーッ フーーッ フーーーーッ


 不満げに再び椅子の前に戻ったゴリラが胸いっぱいに大きく息をすいこんだ。




 ウガウガウガアアァァァァーーーーーー!


 ビリビリビリビリッッッ!



 部屋中に響きわたるゴリラの咆哮。


 大音量。

 それは例年の学園生ならば誰もが耳栓をして尚且つ両手で耳を押さえるレベルのそれ。


 「あっ‥‥」

 「あっ‥‥」

 「ヒッ‥‥」













 突然訪れた無音の世界。

 しかしそこに平穏などあるはずもない。



 自身の身体にあるはずの手首がない者。


 自身の身体にあるはずの両腕がない者。


 片脚があらぬ方向を向いている者。


 片腕が肘から折れ曲がった者。


 「あははははは‥」


 既に正気を保つことができず、ただケタケタと笑い続ける者。


 ほんの数分の惨劇だった。


























 ギギギギギーーーーーッ


 「開きました」



 ―――――――――――――――




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