389 逆転
「すいません騎士団長‥」
「俺がやりました騎士団長‥」
「俺もです‥」
俺が矢で射った騎士団員5人中3人の男が名乗り出た。
「ま、まさか‥‥。い、いや‥確かに噂には聞いていた。が‥‥まさか本当に賊と結託している騎士団員がいたとは‥‥」
「「「申し訳ありません!騎士団長‥」」」
そのまま押し黙ったワグネル騎士団長。やがて意を決してテンプル先生の前に一歩進んだ。そして膝をつき、さらには帯刀する刀を外したんだ。
土下座をするようにテンプル先生に頭を下げた。
「噂には聴いておりました……。私は老師の言に激昂しつつも、もしかしてという思いも拭いきれませんでした。だが‥‥老師の話どおりでした。英雄ロジャー殿のいうとおりでした。私は力もなく心も弱い男でした。
この者たちの弱さは‥‥まさしく私自身の弱さです。
ご領主の想い、民の想いを裏切った私に全責任はあります」
ワグネル騎士団長はテンプル先生の前で己の刀を両手で押し戴いて言ったんだ。
「どうかどうか私の首で。此度だけはご容赦いただきたく伏してお願い申し上げます」
あーたしかに。このままいけば領都騎士団の解体は必至だろうな。
「老師!違います!団長に責任はありません。すべては私の責任です。賊の誘いにのった私自身の弱さです。どうか私の首で勘弁してください!」
「私もです!」
「私もです!」
ワグネル騎士団長の横で、刀を下ろし相次いで土下座をする3人の騎士たち。
そこへ水樽ジュニアが音もなく刀を振り翳そうとするが。
ガツンッッ!
すかさず分け入ったロジャーのおっさんが腰の刀で水樽ジュニアの刀を止めた。そしてそのままジュニアの刀を払い上げたんだ。
カキーーーンッッ
ジュニアの手を離れた刀が明後日の方向に吹っ飛んだ。
「おい若造。2度はないぞ」
眼光鋭く水樽ジュニアを睨むロジャーのおっさん。それはロジャーのおっさんの魔力そのものを浴びせる勢いの眼力だった。
「うっ!ううっ‥‥パパー!助けてパパー!」
青い顔をして水樽の背後に隠れる水樽ジュニア。水樽を盾にブルブルと震えている。
じゅわわわぁぁぁぁ‥‥
ありゃあー親子ともどもお漏らししちゃったよ……。水樽ジュニアは強いかなって思ったのは気のせいだったな。
と、そこへ。
「もうよい‥‥そこまでじゃ‥‥」
そこにはブルブルと震える手足でなんとか立ち上がるご領主アネキア・ド・アザリア様がいた。
スッと近づいたサンデーさんはなんの躊躇いもなく、そのままアネキア様の身体をお支えしながら先生のそばまでお連れしたんだ。
「久しいの。テンプル老師‥‥いや、テンプル先生。此度の不始末、それはすべて私が招いたもの。どうか私の首で赦してはくれまいか先生」
「ご領主様!」
「「ご領主様!」」
「「「ご領主様!」」」
それは騎士団員のみならず謁見の間に集うほとんどすべての家臣の叫びとなった。多くの者は流れる涙を拭こうともしなかったんだ。
「ああ大丈夫だ。ご領主様には3月も前から解毒薬を飲んでもらっている。秘密裡にな」
ロジャーのおっさんがこう説明した。曰く、代々「病弱」と言われるご領主様には歴代の伯爵家より薬が盛られていたそうなんだ。
ご領主様が病弱なのは伯爵家が都合よく政ができるよう「生かさず殺さず」に仕込んでいたんだって。
「アネキア。心配せんともよい。あとはわしに任せよ。昔から教え子は間違え、教師はそれを正すもんじゃよ。早う元通り元気になれ。またわしと修練をしようぞ。馬に乗り旅もしようぞ」
「はい‥‥はいテンプル先生‥‥」
そこにはご領主アネキア様を労わるテンプル先生がいた。
「サンデーちゃん、ご領主様を寝所へお願いできるかの。誰か、誰か早う。久しぶりに立ってアネキアも疲れたじゃろう」
「さてあらためて話に戻ろうかの。此度の一件、わしとロジャーは王家からの要請に基づき参上した。理由もわかるの。永く密偵も調査をしとるからの。不正に携わった者は逃れられんと思うことじゃ。ああ、このあとすぐに王都の法務省からも人がやってくるからの。
今回の一件には誘導魔法を発現できる者から調査尋問が入るからの。ことの真相はすべて詳らかとなる。チューラット1匹たりとも逃れられんよ」
誘導魔法!
ああ3人組のマジックラブのお姉さんたちに教えてもらったやつだ。どんな悪党でも誘導されて素直に尋問に応えるっていう魔法だよね。
「さて‥‥伯爵家などある一定の地位がある者は誘導魔法を拒否することができると王国令で決められてはおる」
一瞬ホッとした顔を見せる水樽親子。
「現行犯を除いての」
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