369 のんのん村へ贈りもの



 「よし。今朝の朝稽古はここまで」

 「「「おつかれさまです」」」


 騎士団員さん6人と並んでの朝稽古も終わった。


 「はぁはぁはぁ。ありがとうございました!」

 「坊主がんばったな」

 「あざーす。明日もよろしくお願いします。あっ、明日は泊まりだから明後日だ。よろしくお願いします」

 「「「じゃあな坊主」」」

 「はい!」


 騎士団の6人が手を振ってくれる。

 朝からいい汗をかいたよ。これは毎朝が楽しみだな。



 教会前っていうか時計台前にはシャーリーとミリアが待っていた。


 「この時計台って‥アレクよね?」

 「ああ。昨日の歓迎会のあとにな」

 「やっぱり!あんた普通じゃないわよ‥(シャーリーには悪いけど‥そんなアレクは私も好きにな)」

 「なんだよミリア!俺のどこが普通じゃないんだよ!なんか言ってやってくれよシャーリー!」

 「うん!アレクの変態!」

 「え〜っ!?」

 「なんで獣人の子どものお腹の匂いを嗅いでんのよ、この変態!(私のお腹だったら許してあげるわよ。きゃー私も変態かも!)」

 「(うんシャーリーも変態よ‥)」

 「(えっ?!マジ?声漏れてた?)」

 「(うん‥)」


 「キャー変態!」


 バチーンっ!


 痛い痛い!なんで俺が殴られるんだよ!


 「なんで殴るんだよ!」


 「そりゃアレク、あんたが変態だからよ」

 「シルフィまで言うのか!」





 「2人には米の栽培について俺が説明したのを聞いててほしいんだ。そしてそれを見える形、文字で残してほしいんだよ」

 「誰が見てもわかるって形よね」

 「さすがシャーリー。そう。村の改良のとき、シャーリーがたくさん記録してくれたやつみたいにね」

 「わかったわ」

 「シャーリーとミリアで協力して形にしてくれよ」

 「私にできるかな?」

 「大丈夫。勉強もすごい頑張ってる2人だから。ミリアも何の問題もなくできるよ」

 「わかったわ。私も頑張る」

 「頼むね」

 「それよかさアレク。今日は外泊なんだよね?野営?」

 「ああ。たぶん遅くなるからそのままのんのん村に泊めてもらうよ。野営はないよ。俺1人じゃないから危ないって父さんたちに言われたもん」


 そう。野営はダメだって言われてたんだ。シャーリーと2人だけならいいけど、ミリアがいるからのんのん村やニールセン村の教会や村長さん家ならいいよって。たしかにミリアになんかあったらうちの村を含んだ大問題になるだろうな。

 ただうちのマリア母さんとシャーリーのお母さんは「うちならいいのよ」「うちもいいのよ。むしろ歓迎よ」って言ってた。そこにアンナのお母さんも混じって「うちもいいのよ」って何の話なんだろう?


 「きゃー外泊!ぜんぜん知らないとこって初めてよ」

 「楽しみー!」

 「「ねー!」」

 「(アレクのことだからたぶん何もないわよね‥)」

 「(ええ)」

 「(えっ?)」

 「(えっ?)」

 「「あははは‥」」

 「(もしやミリアあんた‥)」

 「(ごめん。どうしようシャーリー?)」

 「(いいわよ)」

 「(でも私はあの男と‥)」

 「(先のことは考えない!今を楽しむのよ)」

 「(そうね)」

 


 「じゃあ今日はまずのんのん村に時計塔を建てて田んぼの準備に行くからね」

 「うん。ノッカ村ね」

 「のんのん村?ノッカ村?なんでそんな名前なの?」

 「ああノッカ村は領都にもわりと近いだろ。デニーホッパー村より安全でしかも畠の土も良い土なんだよ。収穫もうちの村よりずっと良いしね。その上村人の半分は穏やかな狸獣人さんなんだ。だから村人みんなが穏やかなんだよ。村の言葉で穏やかなって意味が『のんのん』なんだ。だからのんのん村って言うんだよ」

 「へぇー」

 「うちの村とのんのん村とニールセン村の3つは近くて仲良しの村なんだよミリア」

 「そうなんだね」

 「でも狸獣人さん?」

 「ああ。村人の半分くらいは狸獣人だよ。もちろん獣人と人が仲良く協力して暮らしてる村なんだよ」

 「うちの村でも人と獣人は仲良いしね」

 「そうよ。猫獣人のアンナは憎らしいけど友だちだし」

 「憎らしい?」

 「それはいいのよ」

 「?」



 「アレクやシャーリーたちの村もそうだけど、人族と獣人族が仲が良いって‥‥言葉悪いけど珍しくない?」

 「ああそうだね」

 「うちの村でもそうだけど獣人差別はほとんど無いのは少ないんじゃないかな。だいたい忙しくて差別なんかしてる暇もないしね」

 「そうよねー」

 「差別はないけど獣人の子どものお腹を嗅ぐ変な人族はいるけどねー」

 「くっ!」


 フフフフ

 あははは



 シャーリーが明るく笑っている。ミリアも笑っている。

 だけど領都に住む貴族のミリアには人族と獣人族が対等に仲良く暮らしてるなんて、まだちょっぴり理解し辛いのかもしれないな。


 「俺のいるヴィヨルドなんか普通に人族と獣人族、ドワーフ族が暮らしてるよ。差別なんかぜんぜんないし」

 「だよね。ヴィヨルドは特に差別が無いって言うもんね。

 サウザニアはあんまり言葉に出さないけど差別がぜんぜんなくは無いとは言えないかな。去年行った王都では人族の選民意識はすごかったし‥‥」

 「そんな差別なんか無くなったらいいのに」

 「そうだよなぁ」

 「それでもやっぱりアンナはダメよ!」

 「えっ?!シャーリーお前アンナと仲良いじゃないか?」

 「ち、ち、違うわよ!ア、アンナの妹のお腹の匂いを嗅ぐのはダメよって言ってるのよ!この変態!」


 バチーンっ!


 痛い痛い!

 フフフフフ

 わはははは


 久々だけど3バカを含めてみんなでバカ言ってた領都学校のころを思い出したよ。3バカは今ごろ元気にしてるかな?



 ゴロゴロゴロゴロ‥


 時計を載せたリアカーを曳いてのんのん村に向かう。シャーリーとミリア用にリアカーの後ろに椅子を付けたんだ。ちょうど馬車の後ろで足をぶらぶらさせてる感じ?いいよなぁ。俺も乗る側になりたいよ。



 ゴロゴロゴロゴロ‥


 デニーホッパー村から南へ下る。

 ノッカ村(のんのん村)は領都サウザニアからは4エルケ(㎞)と近い。徒歩で1時間くらいの距離のため、稀には野盗も現れるけど基本治安も悪くないんだ。うちの村からも普通に歩けば半日で着く距離だし。時計を積んでる今日はゆっくり進んでるんだけどね。

 お昼前には何の問題もなくのんのん村に着いたよ。絶対魔獣が襲ってくるイベントが発生するって期待してたのに……。残念賞!




 ▼




 「こんにちは」

 「「こんにちは」」


 「おおアレク君久しぶりだねー!」

 「「「アレク君久しぶり!」」」


 あっという間に集まってきてくれたのはポンコーさんたち村の青年団のみんなだ。狸獣人と人族が半々くらい。ずんぐりとした狸獣人さんたちは久しぶりだけど‥‥みんなぷっくりしてて、ちょっぴりかわいいな。


 「アレク君久しぶりねぇ」

 「シスターサリーお久しぶりです」


 シスターナターシャの親友でもあるシスターサリーは小柄なシスターだ。目元の涙袋が印象的、見た目がかわいいシスターだ。


 「ナターシャから手紙で聞いたわよぉ。ヴィヨルドの学園ダンジョンで活躍したんだってぇ」

 「いえいえ、あははは‥」


 「(またよミリア!アレクったら歳上の女の人に弱いんだから)」

 「(見てよあの鼻の穴が膨らんだだらしない顔!)」


 「今日は村に時計をくれるんだってぇ?」

 「はいダンジョンで出たドロップ品なんです。ヴィヨルド学園長からサウザニアのモンデール学校長へ友情の証としてもらった時計を金魔法で複製したものをお届けしにきました」

 「「「時計だー!」」」


 みんなの歓喜の表情がうれしいなぁ。


 「うれしいわぁ。この村には日時計しか時計がなかったのよねぇ。だから雨が降ったら時間もわからなかったのよぉ」

 「そうだったんですね」

 「みんなアレク君が時計をくれるんだってぇ」

 「「「おお!村にもついに時計だ!」」」

 「「「ありがとうアレク君」」」

 「「「ありがとうデニーホッパー村!」」」


 いつのまにかのんのん村の人がみんな集まってきていた。みんなが喜んでくれている。


 「じゃあ早速建てますね。時計塔だけでいいですか?」

 「そうねぇ。アレク君の村の宿泊所まではいかないけど、本当は食堂くらいの建屋が欲しかったのよねぇ。その上に時計があったらいいなぁってぇ。でも村にはそんなお金はないから仕方ないわねぇ」

 「シスター、アレク君に無理言っちゃダメだよ」

 「「「そうだよ」」」

 「ああ。チューラットのツクネ以来、アレク君とデニーホッパー村はのんのん村の大事な仲間だからなあ」

 「「「ああそうだ(そうよ)」」」



 でもね、俺はのんのん村の人たちが村が盗賊団に襲われてズタズタになったあと、手弁当で助けに来てくれた恩を忘れてないよ。もちろんシャーリーもね。



 「(あーやるわねアレク‥)」

 「(やるわねアレクが‥)」


 「じゃあうちの村の食堂の半分くらいの大きさで良いですか?」

 「いいって言うかうれしいんだけど‥‥ごめんねぇアレク君。今私が言ったことは忘れてねぇ」

 「じゃあうちの半分くらいの大きさでいきますよ。この教会の横でいいですよねシスター?」

 「いいけどぉ?」

 「アレク君本当に気にしなくていいんだよ?」

 「ポンコーさん大丈夫ですよ」

 「?」

 「「「??」」」

 「じゃあみなさん少し離れててくださいね。いきますよー」


 ダンジョンで何度も何度も発現してた野営食堂の上に時計塔を作るだけだもんな。うん、まったく問題ない。

 今度は煉瓦造りじゃなくって石造りの建屋にしよう。


 「ノームいる?」

 「なんじゃ?呼んだかの人の子よ」

 「珍しいことよの。人の子に呼ばれたわい」


 土中からノームが2体姿を現したんだ。俺1人で発現するよりもノームに手伝ってもらったほうが頑丈にできるからね。


 「今から石造りの建屋を発現するから手伝ってくれない?」

 「おいさおいさ」

 「そんなことくらい」

 「「おいさおいさ」」

 「ありがとうノーム」


 「じゃあいくよ!いでよ野営食堂、時計台バージョン!」




 ズズッ‥



 ズズッズズッ‥



 ズズッズーーンッ!




 だいたい30分くらいかな。屋上に時計塔がついた平屋建ての食堂が発現したんだ。うん、問題なし。簡単だよな。














 

 「「「‥‥」」」
















 「「「ええ〜!!」」」





 






 「(やり過ぎちゃダメだって言われてたよね?)」

 「(本当よ!やり過ぎなのよ!)」




 ―――――――――――――――


 いつもご覧いただき、ありがとうございます!

「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。

 どうかおひとつ、ポチッとお願いします! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る