286 40階層休憩室食事会(後) お風呂もあるよ



 「今日の別腹も新作なんだよね?」

 「はい今日の別腹も新作ですよ」

 「楽しみねー」

 「とっても楽しみです」

 「楽しみなの」

 「「「うんうん」」」


 女子3人の笑顔はやっぱりいいな。とくにマリー先輩の笑顔の破壊力と言ったら半端ないわ。


 今日の別腹はクレープにした。夜ごはんのコンセプト理由がとにかくお腹いっぱいにしたいからというのもある。

 クレープもある意味粉もんなので、2枚3枚と枚数を重ねてお代わりしてるうちにけっこうお腹が膨れると考えたんだ。なにせみんな大食いだからクレープも3、4枚はふつうに食べるだろうからね。10枚とか食べる先輩も出てくるんだろうな。10枚って‥‥ざるそばのカウントじゃないよな。



 クレープには粉末のメイプルシロップを加えて甘めの生地にした。

 もちろん小麦粉だけじゃないよ。米粉をブレンドしてるからクレープのモチモチ感はさらに良くなってるよ。

 これに粉乳から作った生クリームっぽいクリームとアイスクリームっぽいアイス(氷菓)を添えた。

 本当はカウカウの生乳で生クリームやアイスクリームを作りたいんだけどね。これでも今ある食材の中からできる精一杯のぜいたく品を作ってるつもりなんだ。



 「なにこれ!薄いのね!」

 「はい、クレープって言います」

 「中に冷たいのも入ってるの!」

 「今日のクレープには生クリームとアイスが入ってます」

 「これがあのカチカチのパンと同じ材料とは思えません!」

 「でしょー!」


 うんうん、これはよくやった俺!思わずガッツポーズだ。


 食べる前の感想は予想どおり。とくにふだん教会にいるセーラには小麦粉がこんなふうに変身するんだから驚きだろうな。清貧を旨とする女神教教会にいる神父様もシスターたちもふだん食べてるのは冒険者の保存用並に堅いカチカチのパンだもん。デニーホッパー村のわが家でも3、4歳のころはこの堅くて不味いパンが当たり前だったもんな。


 「うっ!これは美味しいわ!」

 「生クリーム?も甘くておいしいの!クレープは最強なの!」

 「冷たいアイスもおいしいです!」


 セーラさんや。口のまわりがべたべたですよ。生クリームを拭きなさい。


 「「「美味しーい!」」」


 みんなが喜んでくれてよかったです。帰ったらクレープも広めていこうかな。


 「別腹はどうでした?」

 「「「おいしかったよ」」」

 「40階層でこんなに美味しいものを食べられるのは本当に感謝だよアレク君」

 「ああ本当だぞアレク」

 「あはは。俺も楽しんでますからね。こちらこそいつも残さず食べてくれてありがとうございます。でも今日はぜいたく続きですからね」

 「ん?なんだ?アレクさすがの俺たちももう食えないぞ。なぁゲージ」

 「ああオイも腹いっぱいだギャハハ」

 「私はもう少し食べられるかもしれません!」

 「何!?セーラに負けたくないぞ」


 オニール先輩とセーラって食べものはいつもなんか争ってるよな。どっちも教会の使徒なのに……。




 「じゃあ準備しますからちょっと待っててくださいね」

 「「「??」」」



 今日はついに休憩室の風呂が初披露となる。いままではさすがに魔力や魔獣を気にしながらの風呂はできなかった。だって魔力は風呂と水の発現はカンタンだけどお湯の温度を長時間保っていくのはちょっぴり不安があったからね。しかも風呂に入ってるときに空からガーゴイルが来たら裸で応戦とか笑えないよ。

 でも休憩室なら心配なし。しかもお湯の供給の不安材料はまったくなくなったからね。


 お風呂。

 この世界ではよっぽどの貴族でも毎日風呂に入れることはまずないんじゃないかな。まして庶民は部屋でたらいに入れたお湯と布で身体を拭くか、川に行水にいくくらいだから。10傑のメンバーで何度かお風呂に入ったことがあるのはマリー先輩かキム先輩、ビリー先輩くらいじゃないかな。かくいう俺もお風呂に入つたのは‥‥うんまったく記憶にないな。村にできた温泉くらいだよ。


 お風呂の水は万全っていうか使い放題だ。

 何せガタロを大量駆逐したからね。魔石もたっぷりあるんだ。

 1個のガタロの魔石で発現できる水は50Lくらい。家庭用お風呂の1/4くらいかな。でもそんな魔石がふんだんにあるからお風呂に使うお水くらいわけなく発現できるんだ。あとは温度管理。これもリズ先輩に習ったリズ鍋の応用。実地練習だ。

 まずは休憩室に男女別の脱衣所とお風呂を敷設する。お風呂は3、4人くらいがゆっくり浸かれるサイズにした。そして土魔法で発現した浴槽の底に保温効果の魔法陣を描いた。


 「リズ先輩保温の魔法陣はこれでいいですか?」

 「ん。上手にできた」


 お風呂傍には蛇口も付けたよ。なにせ水を生むガタロの魔石が大量にあるからね。まるで源泉掛け流しの温泉だよ。不思議なのは使った水。廃湯施設もいらないんだ。休憩室なのにお湯はダンジョンの床から自然と吸い込まれていくんだ。

 見えないけどひょっとして実は地面の下に掃除のおじさんやおばさんがいたらごめんなさいだね。


 「今日はお風呂に入ってください。こっちが脱衣所です。最初にこのシャワーで身体をきれいに流してから入ってくださいね。この蛇口をひねったら水が出ますから。お風呂は疲れもすぐにとれますよ」

 「すげえな。俺風呂は初めてだよ。さすがアレク、領主の息子だったんだな」

 「ああさすがだよな」

 「あはは。でも3歳からはデニーホッパー村の農民ですから風呂なんか入ってませんよ。あっ、でも村には温泉が出たんですよ。機会あれば先輩たちも寄ってくださいね」

 「へぇー温泉か。話には聞いたことあるけど気持ちいいらしいな」

 「村の温泉は休憩室くらいある大きな温泉なんですけど、気持ちよさは格別ですね。思わず声が出ますよ」

 「なんだよ声って?」

 「思わずあ〜とかう〜とか言ってしまうんです」

 「あはは。まさか声はでねぇだろう」

 「いや本当ですってオニール先輩」


 そんなことを言ってた少しあとで。



 「「「あ〜」」」

 「「「く〜」」」

 「「「おぉ〜」」」

 「ギャハハハハ」



 いろんな声が聞こえたよ。風呂に浸かると自然と声が出るんだよね。




 翌日の朝ごはんは日本食のど定番、塩むすびと豚汁を作った。味噌がないから塩味のオーク汁だけどね。

 魚や貝を獲った海辺ではハマボウフウを見つけたからこれもたっぷり入れた。食べられる植物は大切にちゃんといただかないとね。

 緑の葉ももちろん、大根みたいな根ももちろん豚汁に入れたんだ。

 豚汁っていうかオーク汁だけど、ごま油が隠し味だよ。豚汁もごま油で美味しくなるからね。

 そんな塩むすびと豚汁。みんなから大好評だったよ。



 楽しい2日間はあっという間に過ぎた。この2日はダンジョン探索の休憩室でも特に楽しかった2日間だった。

 でもね。まさかこの楽しさが夢のように急展開するとはこのとき誰も思わなかったんだ。


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