259 リッチ(後)




 ズルッズルッズルッズルッズルッズルッズルッズルッズルッ‥

 ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー‥


 次から次へと現れるゾンビ群は、リッチの示す両手の行方にあわせて進路をブーリ隊に向ける。


ズルッズルッズルッズルッズルッズルッズルッズルッズルッ‥

 ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー‥


 そんな35階層主のリッチとの闘いは一向に終わる気配をみせなかった。リッチとの闘いというよりはゾンビ群との闘いではあるが。


 タイガーの鉄爪。


 ブンッ!

 ブンッ!

 ヴァー‥グウゥゥゥ

 ヴァー‥グウゥゥゥ


 オニールの槍。


 ザンッ!

 ザンッ!

 ヴァー‥グウゥゥゥ

 ヴァー‥グウゥゥゥ


 ゲージの尻尾。


 ブンッッッ!

 ブンッッッ!

 ヴァー‥グウゥゥゥ

 ヴァー‥グウゥゥゥ


 

 もはやタイガー、オニール、ゲージのそれぞれが無言でひたすら刃を振り続ける。


 ハーハーハーハーハーハー‥

 はーはーはーはーはーはー‥

 ハーハーハーハーハーハー‥


 そんなさ中でも、リッチを守るゾンビのほんのわずかな隙間を狙ってビリーの矢が放たれる。


 シュッ!

 ブチュッ


 「ホッホッホ。何度射られても痛くも

 痒くもありませんよ」


 肩に刺さった矢を事もなげに引き抜くリッチ。余裕綽々の構えは相変わらずのリッチではある。




 それでも、何かに気付くビリー。


 (うん、そろそろだね)


 開戦以来じっくりリッチを観察していたビリーが、ここで初めて大声を出した。仲間たちを鼓舞する気魄の大声だ。


 「みんなあと少しだ!がんばれ!一気に叩いてくれ!」


 「「「了解ー!」」」


 「はーはーはー、なんかわかんねぇが‥ビリーの言うことだもんなぁ」


 「ハーハーハー、オメーや俺とは出来が違うぞビリーは。ギャハハ‥」


 「フーッフーッ、ああそのビリーの指示だ。最後のひと踏ん張りいくぞー!」


 「「「おおっ!」」」




 本陣でも。


 「リズ、もうすぐだからね。頼むよ」


 そう微笑んだビリーにコクコクと頷くリズ。

 

 「任せてなの」







 「おやおや、弓の上手い指揮官のお子は楽天家か夢想家ですなぁ。あるいは最期の悪足掻きですかな。して‥‥どこに勝機がありますかの?ホッホッホ」


 「ははは。気付かないのかい?君の盾であるゾンビたちがここに来て、発現する数が減ってきているだろ?」


 「ホッホッホ。愉快、愉快、実に愉快。私の魔力は充分ですぞ。まだまだ尽きることはありませぬぞ」


 「うん、それはそうだろうね」


 「ホッホッホ。そうでしょうとも」


 「じゃあなぜゾンビが出てこないんだい?」


 ここでリッチも初めて気づく。たしかにゾンビ群の数が減っていることに。そして2人の間に交わされるこの会話中も、タイガー、オニール、ゲージの刃はゾンビを削り続けていた。



 「な、な、なにを馬鹿な‥」


 「じっと君を見ててわかったんだよ。君は無詠唱でゾンビを発現できない。君がゾンビを生み出すのには、詠唱とその両手の動作が不可欠だからね」


 「な、な、なぜそれを‥」


 ニコニコとしていたリッチから笑顔が消えた。


 「腕が上がらないだろう?それは君がたいしたことないって高を括っていた僕の矢のせいなんだよ」


 「な、な、な、なにが起こっておる?!」


 リッチは必死の形相となり両腕を上げようと試みるが‥‥もはや腕はわずかにしか上がらなくなっていた。

 ゆっくりと、それでいて確実にリッチの腕は肩から本格的な石化が始まっていたのだ。


 「この矢にはね、ミニコカトリスの体液が塗られているのさ。だから君の腕はだんだん石化したってわけ。そして唇もね。だんだん喋り辛くなってるよね。だから無詠唱もできない君の盾はもう現れないよ」


 「く、く、く、クソガキがーーー!」


 憤怒の形相となるリッチ。いつしかゾンビ群はその過半数が消えていた。


 「リッチの君は、魔法も何かダブルは使えたはずだよ。僕たちを弱者と油断していたんだね。君が今から他のゾンビに乗り移ろうにももう手遅れだよ」


 何重にも重なってリッチを守っていた当初の肉の壁はもはや見る影もない。



 「ついでながら言うけど、今から君を射るこの矢は聖水仕様だよ」


 シュッ!


 ブチッ

 ギャャャァァァァァーーーー


 「な、な、な、なんだその矢はー!」


 肩に刺さった聖水仕様の矢は、リッチの断末魔の叫びの中、即座に内部から崩壊を導き始めた。


 「リズ、最後は任せたよ」


 コクン。


 「ホーリーアロー!」


 リズの聖魔法ホーリーアローがリッチの身体を貫いた。


 ギャアアアアアァァァァァーーーーー‥‥






 後には魔法使いの尖り帽子だけが残されていた。


 「ファイア」

 ボウッ





 「アレク君が作った面白い矢は使えるね」


 「ん、すごいの」


 「これ去年よりもかなり早いよね」


 「ん、去年は立てないオニールをゲージが担いでたの。今年はオニールがまだ喋れるくらい元気なの」


 「ははは。そうだね」



 ギギギギギーーーーー


 休憩室の扉が現れる。


 「さあ飯だ飯だ!過去最高の飯だー!」


 オニールの明るい声が響いた。




 ――――――――――――――




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