249 野営陣地設営
その後も何体かのファイアバードやオークを倒しながら先を進む。
鳥の羽根も食糧のオーク肉もストックは充分だ。
背負うポーターではとても持ちきれない量の肉もリアカーなら軽くその3倍は積める。
冷蔵冷凍保存もできるし。
これでまた10日分以上の食糧ストックができたよ。
道中には火を吹くトカゲや毒霧を吐くトカゲも現れた。愛嬌のかけらもない醜悪な顔をした魔獣だった。
ミューレさんとこのトカゲ(サラマンダー)の愛想を見習えよなって言いたくなるよ。
このあと何度も襲ってきたファイアバードは食べられないから、魔石と羽根と爪だけ採っておいたよ。
ファイアバードが現れるたびに目の色を変えて風魔法をぶちかますシルフィとシンディをマリー先輩と2人で微笑ましく見てたのは内緒だよ。
――――――――――――――
回廊が見えてきた。
「 順調に来たわ。今日はここまでね。アレク君、野営陣地をお願いできる?」
「わかりました」
ズズズーーーーーッ
ズズズーーーーーッ
まずは外堀と内堀を掘る。ブーリ隊が渡れる梯子も用意して‥。
ズズズーーーーーッ
先にブーリ隊の野営陣地(男子寮)を発現した。
ゴブリンソルジャーに射られた経験から、格子の窓は外から射られても絶対に大丈夫な、さらに頑丈にした造りだ。
1人用の歩哨ボックスもさらに頑丈な造りにしたからね。
連絡手段として糸電話も用意してみたんだ。
歩哨ボックスと食堂の間の数メルくらいならふつうに通じるけど、食堂同士はどうかな。500メル近く離れるけど、意外にうまくいくような気がするんだけどね。どうだろう。
とりあえず使用法を書いた板を置いとこう。
野営陣地(男子寮食堂)。
2階建の高さの柱を支えるのは直径1メル強、丸くて頑丈なもの。ツルツルでねずみ返しもつけてあるから下からの侵入はできないよ。もちろん2重の堀はさらに深く掘ってあるし。
発現するほど慣れてきた。精度も高い。
ここまでの発現はもうすっかり慣れたもんだよ。
ブーリ隊の野営陣地には、リアカー用に専用のリアカー置き場を作った。土魔法で囲った土蔵だね。
最後にお約束の魔除けの像を2体設置した。
いつものレベッカ寮長のポージングポーズ像と今日からはもう1体。
オニール先輩像だ。
昨日やってもらったポーズを忠実にそのまま再現してみたよ。
槍を背に担いで、歌舞伎の見栄を切るようなポーズ。左手は「かかってこいや」と挑発してるようなやつだ。
「ぷっ、アレク君、これって‥‥あははは」
「アレク、お前‥傑作だよ‥‥クククッ」
え〜笑う要素は無いんだけどなぁ。
槍で睨みを効かす守り神なんだけどなぁ。
「わぁーアレク、オニール先輩カッコいいね!」
「おおーセーラわかるか!このカッコよさが」
「うんうん、カッコいいよ!」
でも一方では
「ばっかじゃなーい」
「子どもよねー」
いつもの2人が酷評してるけど、聞こえない聞こえない。
「フッ」
シャンク先輩は何にも言わず、ただ鼻で笑った。
シャンク先輩、実は心に黒いものを持ってる気がするんだけど。気のせいなのかな。
「アレク君この糸が繋がったコップは何?」
「これ糸電――、糸会話器って言うんですよ。糸を結んで会話できるんです。歩哨と食堂の間は問題ないんですが、食堂同士は距離があるからやってみないとわからないかな」
「へぇー」
「あとで試しましょう」
「おもしろそうね」
「はい!」
▼
野営陣地設営の様子は500メル後方のブーリ隊からも見えていた。
ズズズーーーーーーッ
ズズズーーーーーーッ
「「「おお、すげえー」」」
「2段階で堀ができてたね。これは内堀と外堀だね」
「この堀?けっこう深くないか。落ちたら上がれないぞ。飛び越えるのも厳しそうだな」
「私の重力魔法でも一気にこれだけの規模は発現できないの」
「だよね、ふつうは」
「おっ、次は野営陣地だな」
ズズズーーーーーーッ
「ギャハハすげぇな」
「やっぱり男子寮そのものだぞ!」
「柱もめちゃくちゃ高いの。2階建の屋根くらいあるの」
「ああ、ねずみ返しも付いてるね。これはたしかに野営も安心だね」
「さすがアレクだなギャハハ」
「でも、なんちゅう魔力量なんだよ!」
「ん。土魔法を使えるヒューマンの子どもでここまでの子はいないの。大人の人族にも、魔法使いにもドワーフにもいないの。エルフの精霊魔法でさえたぶん敵わないの。アレクのはまさに人外の規格なの」
「リズ、そんなアレク君はやっぱりアレなんだね」
「ん。アレなの。変態なの」
「「「変態な」」」
アレク本人は気づいていないが、仲間たちの間でこの「変態」は人外の仲間アレクに対する最大限の賛辞になっていた。
後方のブーリ隊からも、アレクが野営陣地を発現していく様子が見える。
「何か人みたいな像もできたな」
「どーせまたレベッカさんじゃないのか。俺はイヤだけど」
「あっ、できたみたいなの。みんな手を振ってるの」
「ヨシ、俺たちも行こうぜ」
「「「おおー」」」
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