241 30階層休憩室 認識の共有



 「「「お帰りー」」」


 「「「ただいまー」」」


 「「「どうだった?」」」


 「まあまあかな。アレク君がデュラハンに足突かれたけどね」


 「さーせん」


 「「くくく、アレクー」」


 「あ〜それな。アレク小ちぇから馬上のランスを捌ききれなかったんだろ?」


 「あはは‥はい」


 オニール先輩なんでわかるんだろう。


 「ハハハ。そりゃ高いとこから何度も突かれたら捌ききれねーだろ。足腰ガクガクになるしな」


 そう言ったオニール先輩はパンパンと腰を叩いた。


 「あはは‥その通りですオニール先輩」


 「まぁあんま心配すんな。デカくなりゃそのうち対応できるって」


 「そうだぞアレク。あとは普段から騎乗した奴やデカい奴と闘って慣れることだな」


 「はい」


 「ギャハハ。アレク、オイみたいにたくさん食ってりゃそのうちデカくなるぞギャハハ」


 「アレク、食べ過ぎてゲージみたいに太ってもダメなの」


 「リズ、オイたち鰐獣人はこれでも太ってないんだぞギャハハ」


 「超太ってるの。ねーアレク」


 「わかんないけど、でもこの太さはすごいっす」


 「「「デカっ!」」」


 「オメーら、くすぐったいぞ」


 リズ先輩と、なぜか混ざってきたセーラも含めて3人でゲージ先輩の片脚の太腿に手を回したけど、丸太に手を回してる気分だよ。太ってるかどうかはわかんないけど、やっぱすげぇわ。



 ガジガジ ガジガジ

 ガジガジ ガジガジ


 「痛い、痛い、なぜ噛む?やめろリズ!お前もか?セーラ!ギャハハ」


 リズ先輩、なんで噛みついてるんだよ!

 セーラお前もだよ!

 意味わかんねーわ!



 でも先輩たちの言うように体格差は如何ともし難い。

 てか今はもっともっと経験を積まなきゃな。



 「その疲れもあるから、今日から3日はここでのんびり過ごしたいけど、タイガーいい?」


 「アレク君、食糧は大丈夫ね?」


 「はい、ぜんぜんいけます」


 野菜はもっと欲しいけど肉はたくさんあるからね。


 「ああ、3日はいいな。俺たちブーリ隊も少し身体を休めたいからな」


 「だよね」


 「ここからはますますリズとセーラさんの存在が大事になってくるからな」


 「タイガーの言うとおりなの。だからリアカーで寝るのは大事なの」


 「あーリズ!お前ついに認めたな。でもリアカーでお前だけ寝るのは卑怯だぞ!俺も載せてくれ」


 「リアカーは1人乗りなの。だからオニールは歩くのが当たり前なの」


 「なんでだよ!卑怯だぞ!」


 「リズ、オニール‥‥」


 「「お前らなぁ」」


 タイガー先輩、ビリー先輩が呆れていた。




 「フフ。さて、両隊揃ったから今後の予定の確認や真面目な話を先にしようか」


 先に真面目な話からとマリー先輩が言った。


 「アレク君食べながら話せるような軽いもの、何か作ってくれる?」


 「はい」



 カトラリーを使わずに話しながら食べられるもので、お腹もそれなりに満足するもの。

 とりま手で食べる揚げものかな。

 油は後で使うし。

 ポテチ以外にまだみんなに振る舞ってないもの。

 これはもうアメリカンドックの1択だよな。



 アレク袋のホットケーキミックスで衣を用意。冷蔵して残しておいたソーセージを串に刺して、たっぷりの衣を付けて揚げるんだ。

 ソーセージもホットケーキミックスもどっちの量も節約できるし、油で揚げるからけっこうお腹も満足するんだよね。

 なにせオーク10体から採れた油もたくさんあるからね。


 アメリカンドック。

 あの衣の甘さとソーセージの塩っぱさが、口の中で適度な甘塩っぱさになるから、俺けっこう好きなんだよね。

 アメリカンドックは屋台グルメの代表だしね。


 あっ、でもアメリカンドックって呼ぶのはやめとこうかな。転生者ということがバレバレだから。と言っても今さらなんだけどね。

 でも俺と同じような転生者って何処かにいるのかなあ。




 「お待たせしました。ソーセージのパンケーキ揚げです」


 「おおーなんかうまそうだな」


 「いやこれはどう見てもうまいだろ」


 「本当だね」


 「絶対美味しいやつなの」


 「「「アレクお母さん、いただきまーす!」」」



 だからお母さんじゃないって!




 「うほっ!こりゃ旨いなー!」


 「揚げパンケーキも甘くて美味しいねー」


 「ああ、パンケーキの甘さと肉の塩っ気が意外によく合うね」


 「甘塩っぱくて美味しいの」


 「アレク君、これも古文書からなの?」


 「は、はい。適当にアレンジしましたけど。あはは」


 「アレク君すごく美味しいよ。これもお店で出したら絶対人気がでるよ」



 「「「うま〜い!」」」



 ソーセージのパンケーキ揚げは大好評だったよ。

 言い難いからもうアメリカンドックって言ってもいいかな。


 揚げものの油。

 普及するまでは高級だったけど、俺が発現した土魔法の圧搾技術が浸透したんだ。

 だからデニーホッパー村はもちろんだけど、こっちのヴィヨルドでもだんだん油を使った料理が普及してきた。

 トンカツ、から揚げ、コロッケ、魚フライ、イカメンチ。揚げもの料理は最高だよね。




 ――――――――――――――




 簡単な食事をしてから話が始まった。


 「今年の探索はこれまでと様子が違うって思うのよね」


 「「「ああ(うん)」」」


 シャンク先輩とセーラと俺以外。


 先輩たちが2度以上経験している長期の学園ダンジョン探索。

 そんな6年の先輩たち、みんなが頷いた。


 「たしかに出てくる魔獣の数も多いよな」


 「20階くらいで出てくる奴らが15階くらいで出てくるもんな」


 「あとボル隊でわかったんだけどね、ゴブリンソルジャーが進化してるわ」


 「「「!!」」」


 「マリー、倒せなかったんだな?」


 「ええ、100メル以上距離をあけて慎重にあとをついてきてるわ」


 「厄介だな‥‥」


 「ええ」



 進化したゴブリンソルジャーを放置することは後々に危険を及ぼす。これは学園ダンジョンに限らず、広く中原世界で認識されている。



 ◯ゴブリンソルジャーの進化


 進化したゴブリンソルジャーを放置することは厳禁である。

 会敵後に生き残った個体はゴブリンサージェント(軍曹)へと進化する。

 以降、生き残った進化の度に青銅級冒険者から赤銅級冒険者、鉄級冒険者、銀級冒険者同等又はそれ以上へと力を持つ者になるからである。

 進化をしたゴブリンソルジャーの呼称は以下のとおり。


 ゴブリンソルジャー(兵士)

 ゴブリンサージェント(軍曹)

 ゴブリンキャプテン(大尉)

 ゴブリンコロネル(大佐)

 ゴブリンジェネラル(将軍)


 個体そのものの進化はもちろん、魔獣を意のままに指揮できる能力を有する。

 放置することは極めて危険。




 「今はサージェント(軍曹)くらいか?」


 「だと良いけどな‥‥」


 「キム、まさかキャプテン(大尉)か‥」


 「‥‥可能性はある」


 「おいおいおい‥‥」


 陽気なオニール先輩でさえ言葉が出ないでいる。


 「ちょっとシャレにならないね」


 みんなが沈黙している。


 「これからどこで襲ってくるかわからないから一層注意してね」


 「「ああそうだな」」



 オニール先輩が言う。


 「進化した奴は魔獣に細かな指示を出せるから怖いよな」



 キム先輩が言う。


 「アレクが闘った魔獣はすでに陣形を組んでたからな」


 「何!?」


 「アレク、みんなに説明しろ」


 「はい。29階層で囲まれたときです。

 俺が前衛のときコボルト50体を先駆けにオーク10体も2列縦隊になって突っ込んできました」


 「コボルト50にオーク10かよ!」


 「2列縦隊の意味は?」


 「俺の雷魔法を知ってたと思います」


 「先駆けと本隊を盾にして最後尾で叩くつもりだったんだな」


「はい。でその最後列にミノタウルスとサスカッチが居ました」


 「陣形を組んだのは間違いなくゴブリンソルジャーの指示だな」


 「「「ああ(ええ)」」」


 「よくお前1人で対処できたなぁ」


 「はい、予測されてましたけど雷魔法で倒しました」


 「「「フッ。あれな」」」


 「アレク君、サスカッチ?」


 「はいサスカッチです」


 「えっ?!実在したの?サスカッチ?本当?」


 ビリー先輩がめっちゃ食いついた。


 「ビリー、なんだよそのサスカッチって?」


 「サスカッチはね、幻の魔獣って言われてるんだよ。ほとんど見つからない魔獣だね。

 獣人かもとも言われてるね。別名、雪男。最後の記録では100年くらい前じゃないかな」


 「へぇー強いのか?」


 「ミノタウルスが歯が立たないって言われてるよ」


 「それってお前‥‥めちゃくちゃ強いじゃねぇか!」


 「アレク、大丈夫だったのか?」


 「あはは。殴られて腹の中、全部ぶち撒けましたけど‥」


 「オメーよくそれで済んだなギャハハ」


 「はは。セーラのおかげです‥」


 「そうね。セーラさんの治癒魔法のおかげよ。でもセーラさんがいなかったらゾッとするわね。少なくとも戦闘中、私のキュアではとても間に合わなかったわ」


 「あはは‥」


 「アレク、さっきのデュラハンの刺突もな」


 「さーせん。本当にセーラのおかげです。セーラありがとう!」


 「そんな‥いいよアレク」


 セーラが少し顔を赤らめて微笑んでくれた。



 「アレク君、サスカッチとは会話できた?」


 「はい。話せました」


 「なんて?」


 「『お前の勝ちだ』って言ってました‥」


 「そう‥‥会いたかったな」


 ビリー先輩曰く、サスカッチは学術資料としての価値も高いんだよとけっこう熱く語っていた……。



 サスカッチとミノタウルス。アイツらどうなったかな。今ごろ元気にしてるといいな。



 「ゴブリンソルジャーそのものの進化はもちろん怖いけど、他の魔獣を意のままに操れるのは怖いわね」


 「ああ。これからは野営も更に気をつけないとな。下手すれば学園ダンジョンで死人が出ることになるぞ」


 「それは学園のためにも絶対に避けたいね」


 「まずは野営から気をつけなきゃいけないの」


 「ええ。リズの言う通りよ」


 「でもよマリー、お前らはいいじゃんか!アレクのあの男子寮があるからな」


 「ないものは仕方ないの。こっちの野営は一晩中オニールが起きてたらいいの」


 「ああ、それはいいねリズ。僕も賛成だよ」


 「俺も賛成だ」


 「オイも賛成だ」


 「くそー!お前ら寄ってたかって俺をいじめやがってー!」



 ワハハハハ

 あはははは

 ギャハハハ

 ふふふふふ



 うん、いい雰囲気だよ。ブーリ隊の先輩たちが一致団結してることがよくわかった。




 ――――――――――――――



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