223 26階層に続く回廊


 25階層休憩室。

 翌朝は、腸詰めのソーセージを作った。

 ソーセージって俺けっこう好きなんだ。

 焼いてパリッとした皮も好きだし、ボイルしてジューシーになったものも好きなんだ。

 ボイルしたソーセージは、ボイルしたお湯自体にも味がするから、余った野菜を入れてスープにすると、一石二鳥的にもなるからね。

 ソーセージを作ってて思い出したけど、トマトケチャップも作らなきゃな。

 作りたい調味料もまだまだたくさんある。



 朝ご飯はそんなソーセージを、これも昨日焼いたコッペパンで挟んだホットドッグ。

 少し表面を焼き直してカリッとしたコッペパンに甘酢タマネギーと刻んで炒めたキャベッツーを下敷きに、ぶっ太いソーセージを挟んだホットドッグ。

 ケチャップはないけど、それなりに美味しくできたよ。

 ソーセージを茹でて味がついたスープには残り野菜を入れてコンソメ少々で味付けしたスープ。

 シンプル朝ごはんだけどね。



 バゲット(フランスパン)サイズの大きなホットドッグ。1人2つも作れば十分かな。もし足りなかったらダメだよな。逆に余ればまたパン粉にしたらいいし。

 ヨシ、プラス10本、いや余裕みて40本ソーセージを作ろう。

 バゲット並に大きなホットドッグを40個用意したんだけどね…。


 「アレク、もうないの?」


 「あー俺もっと食いたかったなぁ」


 「俺も」


 「私もなの」


 マジか!ジャンボホットドッグを40個作ったはずなのに、足りなかったよ。

 みんな大食いチャレンジャーかよ!



 「アレク君、25階層でまだこんなにいっぱい食べられるのは幸せだよ」


 「本当だぞアレク。俺たちは幸せだよ」


 「そうなの。少し足りなかったけど、とっても幸せなの」


 「「「ああ、俺たち(私たち) は幸せだ」」」



 「よかったです」


 「「「お母さん、ありがとう!」」」


 だからお母さんじゃねえ!



 学園ダンジョンは楽しいなぁ。

 探索中は神経をすり減らすようにピリピリして闘って。休憩室では心の底から大笑いして。

 ああ生きてるって実感するよ。


 思い出すのも辛い入院中と、3歳までの地獄のような日々。

 それに比べて今の幸せな日々。

 こんな日々が続くようにこれからも益々頑張っていかなきゃな。




 ▼




 「アレク、索敵はすっかりできるようになったな。

 基本はもう大丈夫だ。

 要は敵よりも先に見つけるだけなんだからな。階層が変わるほど、それは大事になってくるぞ。あとは、躊躇なく判断することだ。僅かな躊躇いが生き死にを分けるぞ。これは学園ダンジョンを出てからも大事なことだからな」


 「はい、キム先輩」


 たぶんその通りなんだろう。

 キム先輩のアドバイスはすっと俺の胸に入った。

 さすがに、キム先輩のように家業がプロの暗殺者(未だに実感はないんだけど)の人と闘りあうことはないかと思うけど…。


 「これからは俺の動きで気になったことはすぐに聞いてくれ。実地で教えていくからな」


 「はいキム先輩」


 ああ、これってやっぱり。

 キム先輩も俺の人生に欠くことのできない師匠なんだよな。



 ――――――――――――――



 次の目的地30階層に向けて、26階層へ続く回廊を小走りに進む。

 今度は俺たちボル隊が先行だ。

 相変わらず、明かりが灯る回廊が真っ直ぐに、或いは直角に右へ左へと曲がってはまた真っ直ぐに続く広く長い回廊。



 キュッキュッ キュッキュッ キュッキュッ…


 規則正しい戦闘靴の足音が回廊を静かに響かせる。


 「アレク君、この靴はとっても歩きやすいわ」


 「ああ、グリップの効きもいい。いい靴だな」


 「あざーす」


 「アレク、とっても良い靴だけどみんな同じ色なんだね」


 「?」


 あーそうか!

 戦闘靴の概念自体がないから、みんなが同じ靴だということが素朴な疑問に繋がるんだ。

 じゃあ、あれだな。皮を染めたら、黒い戦闘靴、茶色い戦闘靴、紺色の戦闘靴といろいろ作れるな。

 さすがにカモフラージュを考えると、赤い靴や黄色い靴、金ピカの靴は作れないけど…。


 「セーラ、学園に戻ったらまた考えるよ。ちなみに何色の戦闘靴がいいの?」


 「えーっとね、えーっとね、白とかピンク色の靴とか…」


 女子はそんな靴があれば履きたくなるのかな。

 ピンク色は無いけど白は雪山に限定すればアリかな。


 「えーっとあとね、7色の虹みたいな靴とか?」


 「はい却下」


 「え〜」


 無いわ、7色の虹カラーの戦闘靴は無いわー。

 あーでもこの世界にしっかりとした靴ってないよな。お金持ちは革靴だけど、庶民は木靴そのものとか布を木や鉄板なんかで覆った程度のものしか履いてないもんな。裸足も当たり前だし。

 うん、これは良いアイデアが浮かんだぞ。

 帰ったら、運動靴とかスリッパ、ビーチサンダルとかいろいろ作ろう。






「!来る」


 タッタッタッタッ タッタッタッタッ タッタッタッタッ…



 微かな音がする前の索敵。

 即座にその場で停止。

 後ろ手で表現するのは両手のOKサイン。

 うん、これは隊の仲間の手を借りることは……ないな。



 「アレク」


 「はいキム先輩。5体、ホブゴブリンよりは強い……コボルトが5体です」


 「ヨシ正解だ。少し判断が遅いがな。どうする?」


 「はい。俺の雷魔法でいきます!」


 「任せた」


 うん、コボルトは数がゴブリンほど多くいないんだよな。ゴブリンと10回会ってもコボルトと会うのは1、2回なんだよな。数は少ない。そのかわりゴブリンよりは強いけど。



 ◯コボルト

 身長100㎝前後。二足歩行の魔獣。

 犬に近い見た目から、過去には犬獣人の派生とも思われていた(現在ではゴブリンの亜種とも考えられている)。

 ホブゴブリン程度の知能を有している。

 個々は青銅級冒険者程度であるが、数が増えれば厄介な魔獣。

 常に数体から10体ほどで行動する。冒険者から奪った刀、槍、矢、鎧兜などで武装している。

 食用不可。



 タッタッタッタッ タッタッタッタッ タッタッタッタッ…


 直線が続く回廊で。

 だんだんと見えるようになってきたのは小さなゴブリンほどの体長の魔獣。コボルトだ。



 遠目にも顔が犬のようにも見える、小さなゴブリンのようなコボルトが5体。

 全員が古びた刀を抱え、中には兜まで装備した者まで。


 タッタッタッタッ…


 軽やかな足どりはゴブリンの比ではない。

 その顔といい、足どりといい、たしかに犬獣人と間違える人族がいても不思議じゃないな。

(だから余計に獣人差別にもつながるんだろうけど)


 50メル40メル30メル20メル…


 だんだんと近づいてきた。うん、ゴブリンよりは断然早い。ワーウルフやブッシュウルフと比べてもそれほど遜色のない速さだ。


 ガウガウガウガウ…


 キキーーッ!

 キキーーッ!


 ここで5体の内、両翼の2体が急速に立ちどまり、矢を構えた。

 2体が中長距離戦で3体が近接戦か。


 でも矢を放つヒマは与えないよ。

 コボルト2体が立ちどまり矢を構えたのと同時かやや優勢の内に、俺も雷魔法を発現する。


「スパーク(放電)!」


 人差し指から直進性のある火花が飛び散る。


 バチバチバチッ

 ヒュッ!


 指先から雷がコボルト5体を直撃する。

(気持ちの上では指先から放たれるレー◯ガンなんだけどね)


 ビリビリビリビリッ!


 ガーッ ガーッ ガーッ…


 ドサッ ドサッ ドサッ ドサッ ドサッ


 頭頂部から煙を出して倒れるコボルト5体。

 コボルトたちは何が何だかわからなかっただろうな。


 所持している刀は錆つき、弓矢も矢尻は錆ついた代物。それでも、金属は回収しなきゃな。

 刀や兜、矢尻などの金属、鉄や青銅を回収しておく。


 「シャンク先輩すいません。また金属だけ貰っていきます」


 「うん、わかったよアレク君」



 「アレク、カッコいいね。あのポーズ!」


 そう言ったセーラが指鉄砲のポーズをとる。


 「おぉーセーラ、わかる!?かっけぇよなぁー」


 「もうちょっとねセーラ、こう顎をひいて仰反る感じでね…丈◯郎さんみたくね…はいいくよ」



 「「ばああぁぁぁーん!」」



 2人並んで指鉄砲のポーズをとる俺たち。



 「ねぇーねぇーシンディ。またアレクがバカなことやってるよー」


 「また何かの妄想してるんだよシルフィ」


 「「ばっかよねー」」


 なんかね、2人の精霊がブツブツ言ってるみたいだけど聴こえないよ。

 うん、何にも聴こえない…。



 「…よし。行くぞアレク」


 「はいキム先輩」


 ヒソヒソと、マリーとキムも話し合う。


 「キムは大人よねー。もうアレク君を上手くあやしてるし」


 「フッ。アレクはしばらくほっとけばいいんだよ。その内、目が覚めるからな」


 「そうよねー」



 コボルトを筆頭に、何度か戦闘をしながら半日かけて26階層へ続く回廊を進んだ。

 過去の先輩たちによれば、ここから26階層を2日程度で進んでいけば良いと言う。

 途中の野営もこれまで以上に危険になるため、だんだん睡眠不足にもなるという。


 「見えてきたぞ」


 前方が明るくなってきた。

 26階層に到着だ。



 ――――――――――――――



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