164 準決勝 タイガー戦


「「「アレクおめでとう!」」」


「アレク、1年の10傑入は5年ぶりだって!」

「エルフ以外では10年ぶりだってよ!」

「ダーリン凄い!」

「僕も感動したよ」

「みんなありがとう!」


「アレク、女神様もお認めだよ。お前の努力の結果だ!」

「「そうよ、そうよ!」」


「悔しいけど、俺もお前を誇りに思うぞ!」

「俺もだ!」


「モーリス、ハンス‥お前ら‥」



 ちょうどそんなふうに俺が感極まっているところへマリー先輩が来た。


「アレク君おめでとう!あと1つよ、頑張ってね。もう1回闘ろうね!」

「は、はいー!マリーせんぱーいっ!」(くんかくんか)


 立ち去るマリー先輩の残り香を吸い込むように俺はくんかくんかしていたという。


「あいつ獣人か!尻尾振ってるよ‥くんくん匂いまで嗅いでるよ」


 冷静にセバスが告げる。


「「アレク‥お前やっぱり‥」」


 セロとセバスが顔を見合わせて頷いた。


「「変態だよ‥」」



 盛り上がった仲間の空気も急速に冷めていったらしい‥。





 準々決勝

 セーラに勝って4強になった。

 いよいよ決勝をかけて戦うのは昨年も10傑2位のタイガー先輩だ。



「アレク、お前と闘るのを俺も楽しみにしてたぞ!」


 タイガー先輩はデカかった。既に180㎝は優に超える身長に、筋肉質な体躯。予選で闘った獅子獣人のライラ先輩と同じ、全身筋肉って感じの獣人だ。同じ全身筋肉のレベッカ寮長とはまた違ったタイプの筋肉。すぐにも動き出しそうな躍動感のある筋肉だ。


「1年1組アレクです。タイガー先輩よろしくお願いします」

「6年1組タイガーだ。クラス分けのときから上がってくるとは思ってたけど、早くもここまで来たな。俺も強い奴と闘れるのは嬉しいよ」


 ニヤッと鋭い牙(犬歯)を見せながら笑うタイガー先輩。


 うん。見ると両手の5指に木爪を装着してるな。ある種オーソドックス。獣人ならではの装備だ。


「タイガー先輩は魔法は発現されないんですよね?」

「ああ俺はコレだけだ」

 そう言いながら、両手の木爪をクロスして見せるタイガー先輩。

「ああそうだったな。アレクは魔法や剣術を使わず、体術のみで俺と闘る気なんだよな」

「はい」

「フフ。相手の得物に合わせて闘るアレクの負けん気。俺は好きだぞ。でもな」


 タイガー先輩は俺を諭すように言った。


「ふだんハンスと体術の練習をやってるよな?」

「はい」

「10回闘って10回ハンスに勝てるか?」

「いえ、勝てません‥」

「俺はハンスと10回闘って10回勝つぞ」

「でも俺‥‥」


 そう、我儘なのはわかっている。文不相応なことも。

 でも俺は相手の土俵でも勝ちたいんだ。


「じゃあアレク、体術の前に魔法や剣で格闘を闘ろう。それで俺を満足させてくれたら、体術のみも受けるぞ?」

「わかりました」




「アレク、いつもの魔力じゃ剣が折れるわ。もっと魔力を込めて」


 何も言わずに俺の横を飛ぶシルフィ。

 獣人相手にこんな真面目な顔をするシルフィは、初めてかもしれない。


「わかったよシルフィ」


ブワーーーーンッ!


「1年1組アレク君対6年1組タイガー君の準決勝。はじめ!」


 ダッ!

 ダッ!



 合図と同時にタイガー先輩に詰め寄る俺。

 俺と変わらぬ瞬発力で俺に詰め寄るタイガー先輩。

 突貫の俺とほぼ互角の疾さだ。


 ブンッ!


 そのまま木爪を振り下ろしてくるタイガー先輩。

 しなやかな体躯から繰り出されるのは想像以上、圧倒的な暴力装置の表現だ。


 ブンッ!!


 空気を切り裂くような、風圧さえ感じるタイガー先輩の木爪の振り下ろし。


 ガツンッ!!


 魔力を込め、しっかりと両手で受けているのに掌も震え、刀を手放しそうだ。

 いつもの倍、しっかりと魔力を込めた木刀でさえ悲鳴を上げている。


 ブンッ!!

 ガツンッ!!


 ブンッ!!

 ガツンッ!!


 ブンッ!!

 ガツンッ!!


 タイガー先輩の爪の振り下ろしをただひたすら、受ける、受ける、受ける。


 徐々に後退せざるを得ない。

 下がる足首も覚束ない。


 ガクッ、ガクッ、ガクッ。


 これじゃダメだ。

 ゆっくり考える暇さえ与えてもらえない、重量感のある連撃。


 でも。

 このまま下がるばかりでは何も得るものはない。


「金剛!ふんっ!」


 俺は両脚をしっかりとふんばり、不退転の構えとなる。


 ハンスがことあるごとにすごいすごいとタイガー先輩のことを誉めていたが、これは本当だな。

 ハンスやウルの疾さと巧さに、圧倒的な強さを加味して。

 タイガー先輩がたしかに現学園No. 1獣人であることは間違いない。



でもこれはどう!


 ズズズーーンッ!


 タイガー先輩を狙って側面から即座に発現させた槍衾。


 パッ!


槍衾に触れることなくパッと後方に飛び下がるタイガー先輩。

 俺はすかさずエアカッター(風刃)の連撃も見舞う。


 ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!


 両腕をクロスして顔面から身体前面をガード。しっかりと覆うタイガー先輩。

 だが、その両腕はエアカッターで何発も抉られて鮮血がほとばしる。


 ダッ!


 急接近した俺は今度は木刀で連撃をする。

 スマイリー先輩が太刀打ち出来なかった中段からの連打だ。


 ババババババババーーーッ!


 その連撃を両木爪で丁寧にいなすタイガー先輩。


 トンッ!


 一気に7、8m後方へと下がったタイガー先輩。


 バッ!


 その上でばっと魔法着を脱ぎ捨て、木爪も投げ捨てたタイガー先輩。


「ヨシ!誰が何と言おうが、俺はお前を強者として認めるぞ!」


 体術を誘う低重心の構えとなるタイガー先輩。


「ありがとうございますタイガー先輩!」


 ポンッ!


 木刀と魔法着を後方に投げ捨てた俺もタイガー先輩に応える。


「来い!」

「お願いします!」













「勝者タイガー君!」


 体術の勝敗はすぐについた。

 体術(格闘術)学園No. 1強者の前に、俺はただただ防戦一方。

 勝負にさえならなかった。



「ぜーはーぜーはー」


 コートに仰向けになって倒れ伏す俺に、手を貸して起こしてくれたタイガー先輩。


「アレク、ダンジョンでは頼むぞ。お前と俺は、ここからは背中を生命を預け合う仲間だからな」

「はい!」




 完敗だった。

 が、得るものはすごく、すごくたくさんあった。

 この一戦は間違いなく俺を強くしてくれたと思う。




 ▼




 決勝はタイガー先輩とマリー先輩が闘った。これは去年も同じ組み合わせだったという。


 決勝ではマリー先輩の強さに圧倒された。

 タイガー先輩でさえほぼ防戦一方の展開だった。

 学園No. 1。至高とも言えるマリー先輩の強さだった。

 精霊魔法を十全に発現していた。





「シンディおめでとう」

「ありがとうシルフィ。シルフィももう少しアレクを鍛えなきゃね」

「そうよねー。わかった、アレク?」

「はいシルフィ師匠‥」





 ▼




 決勝戦のあとの3位4位決定戦。

 ここで俺は珍しい獣人と闘うことになる。


「おお、オメーが話題の1年坊主だな!」


 大きな声で現れたのは、タイガー先輩よりも背が高い190㎝ほどの背丈に短めの両手、俺の胴くらいある太腿の両脚。さらに目を見張る長くゴツゴツした尻尾の獣人だった。


 ゲージ先輩。

 王国には珍しい、鰐獣人だ。

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