162 スマイリー・フロスト


 敗者復活戦も終わった。

 いよいよ10傑を選ぶ最終予選が始まる。

 一部オリジナルルールを含んだトーナメント(勝ち残りトーナメント)だ。


 全学園生1800人。

 出場する生徒以外、皆が観覧席で見守る。


 ウワーーーー

 ワーーワーー


 歓声が聞こえくる。同じクラスの生徒の名前を呼ぶ声や好きな生徒の名前を呼ぶ声も。


(ヴィンサンダーの狂犬ー!)

(変態1年生アレクー!)

(覗き魔ー!)


 なんか違うくない?

 なんの声援?

 なんで俺だけ?

 止めてください‥‥‥。



 ううっ‥。


「なによアレク。なに泣いてんのよ!」

「だってシルフィ、だって俺‥‥変態じゃないもん‥‥」

「変態じゃん!」


「マジか?」



 もう本当にお部屋に帰りたい…。





「はーいみんな元気ー?6年芸術クラブのステファニーでーす。みんな聴いてるー?」


 うおおおおおーー!


 ステファニーちゃわーんわんわん!


 いきなりアイドル歌手のように登場した女子は‥‥‥。



「あっ!シルフィ!ステファニーちゃわんだよ!」


「‥だから変態なのよ‥」



 ステファニーちゃわーんわんわん!



 会場内、特に男子は大盛り上がり。もうおなじみとなった不思議な合いの手わんわんわんを繰り広げる。


 おおーやっぱステファニーちゃんはかわいいぜ。

 ヒューマンに犬系獣人の血が入ったミックス。

 小柄、つぶらな瞳が最高だよ!

 お尻のモコモコ尻尾をモフりたい!(変態じゃないよ)

 茶色の毛糸玉のようなステファニーちゃわん‥家でも飼ってたトイプードルのぷーちゃんの生まれ変わりだよ、きっと!

 ステファニーちゃんのつぶらな瞳で見上げられたら俺、たまらんだろうな。なんか守ってあげたいわー。



 訓練場内に湧き起こる合いの手。


 ステファニーちゃわーんわん!かわいいわん!


 俺も一緒に‥。


 ステファニーちゃわーんわん!かわいいわん!



「「アレク(君)‥」」


 一緒になってヲタ芸のようなかけ声を上げている俺をマリー先輩とセーラが呆然と見つめていたと言う…。





「はーい、じゃあ1回戦からいくねー。対戦者のプロフィールを簡単に説明するよー」



「1年1組アレク君ー!」


 えっ?いきなり俺?


「春のクラス分け試験で首席になったアレク君だよ。1年生で10傑最終予選にまで上がってきたのはすごいよねー。出身はお隣ヴィンサンダー領の農民の子だねー。村は夏にした花火大会がすごかったんだってー。

 2つ名はもう有名だよねー。領都学園でもみんなが知ってる2つ名は『ヴィンサンダーの狂犬』だよー」


 ぷっ‥ギャハハ〜


 狂犬!狂犬!狂犬!狂犬!狂犬!


 巻き起こる歓声‥。

 もうディスるのはやめてください‥‥。


「新しい2つ名もできたんだよねー『変態アレク』だよー」


 変態!変態!変態!変態!変態!


 ブーギャハハ〜〜


 観覧席中大爆笑となった。


 帰りたい、帰りたい‥‥。





「対するは、6年1組スマイリー・フロスト君」


 キャーーーーーーー

 スマイリーくーーん


 女子生徒の黄色い歓声がすごい。

 出たな、イケメン!


「去年もあと少しで10傑を逃したスマイリー君。スマイリー君は領都で司法官を勤める法衣子爵のお父さんたちご家族を離れてヴィンランドで1人頑張ってる頑張り屋さんだよー」


 キャーーーーーーー

 スマイリーくーーん



 はいはい、わかりましたよ。

 イケメンスマイリー先輩は住んでるのもお手伝いさんがいるお家なんですよね、きっと。

 農民の俺とは噛み合わないですよね。





「アレク、今日もギッタンギタンにするぞー!」

「おおー!ギッタンギタンだー!俺の味方はシルフィだけだよ!」

「そんなの当たり前じゃん!」

「シルフィは俺の1番の応援団だよ!」

「えー違うよ。イケメンが勝っても面白くないじゃん!やっぱりアレクみたいな変態が‥ププッ」


 シルフィは腹を抱えて笑い出した‥。



 くそー!


 貴族のイケメン先輩なんかに負けるもんか!

 俺は悪の親玉ダース◯◯ダーにでも何にでもなってやるぞ!



 イケメンスマイリー先輩への飛び交う黄色い歓声の中、俺へのお笑い歓声にもめげずに、俄然ヤル気をだす俺だった。




 まずは1回戦30人から15人を選ぶ戦いだ。


「やあ話題のアレク君、よろしくね!キラッ」

(白い歯が眩しいっ!)

「はいスマイリー先輩」


 あら、貴族から握手してきたぞ?



「2人とも用意はいいかな?スマイリー選手は?」


「いいよステファニーちゃん。キラッ」


 くそーステファニーちゃわんにまで色目を使いやがって!


「アレク選手は?」


「わんわん」


「‥‥キモっ!」

(えっ?今「キモっ」て言った?)


「それじゃあ、はじめ!」



 左足を前に、半身の突撃体勢。

 右手でレイピアを構えながら、左手で魔法を発現するイケメンスマイリー先輩。


「ファイアバード、いけー!」


 ギュイイイーーン!

 ダッ!


 併せて突貫突撃を仕掛けるスマイリー先輩。


 ギュイイイーーン!

 シュッ!シュッ!


 手から火を纏った鳥を発現させたスマイリー先輩は火の鳥を俺に向けて急襲させる。併せて突貫で先輩自身も急襲。シュッシュッとレイピアの刺突を2段織り交ぜながら突っ込んできた。


 うわっ!


 格好だけのパフォーマンスイケメンかと思ったら、騙されるところだった。

 火の鳥も青みがかった高出力の魔力から発現されてるよ!

 この人、真面目に魔法も剣もやってるわ。

 そりゃそうか、武を尊ぶヴィヨルド領に留学までして学びに来てるんだもんな。


 ブゥワーーーンッ。


 半身の俺もすかさず木刀に魔力を纏わせる。


 ギュイイイーーン!


 ザンッ!


 一歩先に急襲してくる火の鳥を魔力を纏った木刀で一刀両断。

 返す刀でレイピアの連撃も迎撃する。


 カン カンッ!


 レイピアの刺突を左右に薙ぎ払う。


「へー、狂犬君はただの変態君じゃなかったんだね」

「先輩もただのイケメンじゃなかったんですね」



「ププッ!言葉はアレクの負けねー!」


 頭の上のシルフィが笑い転げている。


「くそーシルフィめー!」


 俺の頭を定位置に、寝ながら笑い転けているシルフィ。シルフィが定位置にいるってことは、そういうことなんだろう。

 そう、シルフィの助力が無くても大丈夫だってことは俺自身もわかってる。




「じゃあ先輩、今度は俺から。俺も遠慮なくいきますよ」

「いいよキラッ」


 ダンッ!

 シュッ!シュッ!


 左手のひらでこいこいと合図をするイケメンスマイリー先輩に向けて、突貫の接近からの刺突の連撃。


「やるねー変態君」

「そりゃどうも」


 シュッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!


 そこからの中段の連打、連打。休みなく連打の嵐をお見舞いする俺。


「ははっ。やるねー。おおっ、ま、ま、まだ上がるのか!」


 ダンッ!ダンッ!ダダダダーーーーンッ!


「ううつ‥」


 連打の剣速をどんどん加速。

 ディル師匠伝授の基本の切り返し修錬に、ホーク師匠伝授の神速の疾さを加えた剣だ。

 何の奇抜さもないオーソドックスな、それでいて神速の疾さだけは無二の俺の剣技だ。


 ダダダダダダダダダダダーーーーーンッ!


「うわっ。や、破れるっ!」


 ついには対応しこれなくなったスマイリー先輩の防御を破り、魔法着があっという間に紫色に変わった。




「1年1組アレク君の勝ち!」


「「「・・・」」」

 シーーーーン


 ウワーーーー

 オオーーーー


 沈黙の後。怒号、悲鳴、歓声に溢れる観覧席だ。


「ありがとうございました」

「負けたよ、アレク君。このまま頑張って10傑までいってくれよ!キラッ」

「はい!」



 あー爽やかだスマイリー先輩‥。

 爽やかさに負けた‥。



 ◯ 第6戦 6年1組 スマイリー・フロスト


 剣術 アレクの勝利。


 最終選30→15人へ



 対戦後、水晶玉に記録用に手をかざす。


 と‥


「123番123番おめでとうございます!たらららったらーーん!」


 まるでドラ◯もんみたいなBGMが流れた。


 おおーこれって‥あれ?うん、あれだ!

 ついにラッキーカードをひいたよ!

 すげぇーー!

 30人からの勝ち残りトーナメントだから、その2回戦で1人が不戦勝(ラッキーカード)になるもんな。


 やった!やった!やったー!



 でも‥‥落ち着いて考えてみたら‥‥こういうの当たるって物語の主人公じゃありえないよね‥‥俺ってやっぱりモブなのね‥‥。




 でも次勝ったら、文句なしの10傑だよな。

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