130 卑怯な手
「死ねー」
両手剣を振りかざしたフォックスが俺を前に、不自然に自分自身をかがみ込んだ。
その先には、2人組の舎弟。
1人が周知から身を隠すようにし、もう1人が膨らんだ口元から小筒を押し当てる。放たれる吹き矢。
ヒュッ!
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「アレク君。複数のゴブリンと対したときはゴブリンアーチャーに気をつけるんだよ」
ヴィヨルドに来る前。ニャンタおじさんが教えてくれた。
攻撃のすぐ後に気をつけろと。
「アレク、油断はするなよ」
精霊魔法を身につけたあとも。
ホーク師匠の地獄の修行では、忘れられない悪夢のようなこともあった。
弱いカエル魔獣の巣に放り込まれたときだ。あのときは矢よりも早い毒べろ攻撃に晒された。
身体中に吹き付けられたカエル魔獣の臭い毒液。洗っても洗ってもその臭い匂いは数日取れなかった‥。
(あのときはシルフィも俺に近づかなかった)
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そんな経験が俺にはある。だから油断はしないし、あの蛙の毒べろの速さに比べたら吹き矢程度の速さにもぜんぜん対処できる。
ヒュッ!
吹き矢が近づく。
タンッ!
吹き矢を刀の腹で受ける。そして拾いざまに吹き矢をフォックスに投げつける。
「グアーー」
一気に目がとび、倒れるフォックス。
痙攣して涎を垂らしている。
「ここまで!勝者アレク」
あのガキ、すげぇ‥‥
鎮まりかえった訓練所は一気に歓声又は悲鳴に包まれた。
なんじゃそれー
くそー金返せー
呆然としている副ギルド長をロジャー顧問が一喝した。
「サーマル、だからお前はダメなんだよ、みかけで判断し過ぎだ」
そこには項垂れたままのサーマル副ギルド長がいた。
「お前らもフォックスが目を覚ましたら言っとけ。この件を蒸し返したら俺が許さねーってな」
「「わかりましたー」」
狐獣人の舎弟が直立不動で返答した。
「アレクだったな。ちょっと来い。ヒロコもな」
そのままギルド長室の部屋に行く。
ドカっと椅子に腰掛けたロジャー顧問。
「アレク、お前のことはグレンから聞いてるぞ。あとディルの爺さんからもな」
(あーやっぱり‥)
「俺がヴィンランドギルドの顧問ロジャーだ。よろしくな」
「よろしくお願いします」
「アレク、今日のことは俺からは何も言うことはない。お前も気にするな」
「はい、わかりました」
「ただな、サーマルとは逆にお前にアドバイスするならな」
こう話し出したロジャー顧問。
「お前はもっといい意味で、見かけで騙せるようにならないとな」
「えっ?」
「いやだってお前、ホントに弱っちく見えるし」
うんうんとヒロコさんもうなづいていた‥。
頭の上のシルフィも笑っていた‥。
「ロジャー、何やら面白いことがあったって?」
そう言いながらギルド長室に入って来たのは、ギルド長のタイランド。ロジャー顧問と同じようなガタイのおっさんだった。
ボス猿が2頭いるよ!
「おおタイラー。お前ももうちょい早かったら儲かったのにな。俺とヒロコの2人で大儲けよ。ガハハ」
「クスッ」
小さく笑うヒロコさんの目が$マークになっていた。
▼
この2人の筋肉ダルマのおっさんたち。
ともに口は悪いが、さっぱりとした気持ち良いオヤジだった。グレンさんに通じるものがあると思ったが、飲み仲間だということも後にわかった。
これも後に知るのだが、ロジャー顧問は元王都本部のギルド長だったという。王都ギルドの、つまりは王国内のすべてのギルドを知る男だった。
ランクも白銀(特級)だったという。
「アレク、まずは初心者ダンジョンにでも行ってすぐに鉄級に上がってこい」
ロジャー顧問が言う。
タイラーギルド長も併せて言った。
「アレク、俺は儲け損ねたんだからな。ギルド長命令だ。お前は学園にいる6年の内に銀級に上がってこい。それでチャラにしてやる」
「おータイラー、それはナイスアイデアだな。もう一回儲かるな!ガハハ」
「なんだよ、それ‥」
「ヒロコ、グレンの話だとアレクは魔獣解体をかなりきれいにできるそうだ。人手が足らずに忙しいときは寮にでも連絡して、アレクを使ってやれ。アレク、今日は貸しだから断れねーぞ」
「はいはい、わかりましたよー」
「はいは1回でいーんだよ!ガハハ」
「よし、じゃあもう2人は行っていいぞ」
「「失礼しました」」
「ロジャー、実際アレクはどうだった?」
「ああタイラー、なかなか楽しみな素材だぞ。今で銀のケツくらいはあるな」
「そうか。どおりでディルさんが最後の弟子にするわけだ」
「ああタイラー、お前の弟弟子だな。フッ、アレクか‥アレックスに顔も似てるな‥」
こうしてまた一つ、新たな縁が結ばれていくことになるのだった。
次回 初級者ダンジョン
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