102 ウンディーネ
アレクが盗賊団の頭目と戦うほんの少し前に話は遡る。
「アレク!」
ヨゼフ父さんがわが家の方を指差して叫んだ。
丘の上。
わが家の方角から火の手が上がるのが見えた。
(大丈夫か!?)
シルフィが何も心配することはないと、ニッコリと微笑んだ。
「大丈夫よアレク。弟君にはウンディーネが憑いているわ」
「父さん、大丈夫だ。心配は要らない。向こうにはジャンとヨハンがいるよ」
【 ヨハンside 】
皆んなで隠れた地下室。悪い盗賊に見つかるといけないから、皆んなでジッと静かにしていたよ。幸い、盗賊は地下室を見つけられてないみたい。
でも、我慢できなかったチャーミーが泣き出した。
うわーん、こわいよー!
「おい、子どもの声がするぞ!」
「どこだ?出て来い!」
盗賊たちが騒いでいる声が聞こえるよ。
泣いてたチャーミーでさえもジッと我慢したよ。
こわい。ボクも泣きそうになった。
スザンヌお姉ちゃんの手をギュッと握った。
早くお兄ちゃんが助けに来てくれないかなあ。
「火を放て!」
盗賊団の声が聞こえた。
どうしよう?お家が燃えちゃうよ!
シューー
上から煙も溢れ出てきた。
ゴホッ ゴホッ
地下室の部屋の中に煙が入ってきたよ。
「外に出なきゃ!」
スザンヌお姉ちゃんが叫んだ。
ゴホッ ゴホッ
煙い!
お母さんも叫んだ。
「このままだったら焼け死ぬわ!」
アンナお姉ちゃんがおばさんを庇って声を出した。
「お母さん今出ちゃダメ!盗賊が待ち伏せしてるわ!」
スザンヌお姉ちゃんも言った。
「でもおばさんとお腹の赤ちゃんが‥」
煙もどんどん入ってきた。
地下室の扉の周りもすっごく熱くなってきたよ。外はたくさん火が燃えてるのかな?
どうしよう?
お兄ちゃん、早く助けて!
このままじゃみんな死んでしまう!
ジャンお兄ちゃんが言った。
「盗賊がいても俺がなんとかする」
「ジャン君!」
ジャンお兄ちゃんが外へ出ようと地下室の扉を手で掴んだ。
ジュッ 熱い!
咄嗟に手を離したジャンお兄ちゃん。
扉も燃えるくらいに熱くなってるんだ。
「このままじゃ本当に危ないな‥」
ジャンお兄ちゃんは一瞬戸惑ったみたい。
「ジャンお兄ちゃん大丈夫?」
「大丈夫だヨハン。心配するな」
ニッコリと笑ったジャンお兄ちゃん。
ジャンお兄ちゃんがもう一度扉を掴んだんだ。
ジュー
ジャンお兄ちゃんの掌から音がする。
「開け、開け、開くんだー!」
ジャンお兄ちゃんが懸命に扉に手をかけたんだ。
ギギギー
扉が開いた瞬間。
地下室に一気に空気が入り込んだ。
その空気を追いかけるように勢いをました真っ赤な炎が迫ってきたんだ。
中の皆を庇うように両手を大きく広げたジャンお兄ちゃん。
ジャンお兄ちゃんに炎が襲いかかる。
ダメだ!
ダメだ!
ボクは無意識のうちに、叫んだんだ。
「ディーディーちゃん!」
ボクが叫んだその声に水の精霊ウンディーネのディーディーちゃんが応えてくれた。
「ヨハンちゃん、待ってたよ」
ドゥッ
井戸の下から圧倒的な水柱が上がったんだ。
その水柱をもしアレクお兄ちゃんが見てたら、それは水の精霊ウンディーネのディーディーちゃんそのものに見えただろうね。
蒼く透明な、澄んだ水の塊の女性、ディーディーちゃんに。
ジャンお兄ちゃんの前に立ち塞がった水の塊は、あっという間に炎を鎮火してくれた。
そして3軒の家で燃えていた炎もまたたくまに鎮火した。
炎で焼け爛れたジャンお兄ちゃんの掌を包んでくれたディーディーちゃん。
シュワーーー
水泡が見る見るうちにジャンお兄ちゃんの掌を包み、火傷は治っていったよ。
▼
「助かった‥」
ヘナヘナと倒れ込むジャン。
「ディーディーちゃんありがとう!」
「ヨハンちゃん‥」
マリアとスザンヌがヨハンを抱き寄せる。
「ヨハン、精霊さんね」
スザンヌが言った。
「うん。水の精霊ディーディーちゃんだよ」
「ディーディーちゃん、助けてくれてありがとう!」
井戸の方を見るスザンヌに、もう一度水の塊となったディーディーちゃんが微笑んで手を振っていた。
▼
ヨハンと水の精霊ウンディーネは、その後長くヨハンの友として共に過ごすことになる。
次回 一閃 11/20 12:00更新予定です
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます