047 商会長


 畠の改良は貧しいばかりのデニーホッパー村に明るい話題を提供することになった。

 ヨゼフ父さん、チャンおじさん、ニャンタおじさんの3人が夜に楽しく飲む機会も増えたみたいだ。


 ちなみに飲む家は順番で、酒は芋から作った自家製焼酎みたいなもの。肴は干し肉や蒸し芋等の持ち寄りである。

 デニーホッパー村には食堂はおろかお酒が飲める店は当然無い。


 「この村の暮らしもずいぶんと良くなったなー。それもこれもアレク君のおかげだな。ガハハー」


 「ああ、畠も周囲の森も整備されていけば、今よりかなり安全になる。よい意味で俺の狩りの仕事も減るな。もっと魔獣狩りに連れてってくれと言うアレク君にはつまらんだろうがな。ワハハ」


 「チャン、おまえも村長として忙しくなるぞ。ワハハー」


 「この村も賑やかになるぞ。村に店も欲しいよな。お前ら何の店が欲しい?」


 「「「酒が飲める店!」」」


 ワハハー



 ▼



 村が100戸を超えることになった。そしていよいよ村民が待ち望んだ商店ができることになった。


 商店は先日のバザーでも出店していた王都のミカサ商会の出張店だ。俺でさえも名前だけは聞いたことのある大商会がなんでこんな開拓村に商店を開いてくれるんだと思う。が今は素直に嬉しい。



【 ミカサ商会商会長side 】


 古くからの友ディルがふらりと店にやってきた。教会会議とやらで王都に来たという。北の地方に行った奴とは3年ぶりに会う。それでも40年からの付き合いはそんな時間の経過さえ感じさせないが。


 思えば奴も私も志がデカいだけのただの若造じゃった。行商人として商いの道に入ったばかりの私が初めて成立させた商いの納品。その道中での護衛をギルドへ依頼して来たのが、3級冒険者になったばかりのディルじゃった。歳も同じ、話も合うことからすぐに仲良くなった。魔獣に襲われたり、盗賊団に追われたりと何度も死にかけたが旅は面白いものじゃった。夜は毎晩のようにお互いの夢を語り合った。奴の夢は王国の騎士団に入ることであり、私の夢は店持ちの商店を営むことじゃった。


 長い年月を経て、奴は念願の王国騎士団に入り副騎士団長の地位にまで出世した。私も王国有数の大商会といわれるまでに上り詰めた。今はお互いが後進に道を譲った。奴は教会の神父に、私は名ばかりの商会長になっている。


 今日は久しぶりに会う友の田舎暮らしの話でも聞きながら飲もうか。




 ▼




 「ディル、田舎はどうじゃ?辺境のヴィンサンダース領の開拓村じゃったかの?」


 「ああ。貧しいが村の皆が前を向いている良い村じゃよ。数年もすれば王国中でも評判の村となるぞ」


 「おお、そうかい。では私の商会も店を出さねばの。ワハハ」


 お世辞混じりでこう言った私だが、その後のディルの話に思わず聞き入ってしまった。


 荒れた開墾地を改良してわずかな期間で味にも優れた農作物の収穫量がこれまでの倍にもなったとか、70戸足らずの村の周囲は盗賊団でさえ困るであろう、ちょっとした町レベルの塀で囲まれているとか、教会のバザーでは初めて食べる美味い串焼があったとかいうのだ。


 (このバザーの串焼きの話は、うちの若い衆からも聞いたの。若い衆はあれは売れると力説しておったが)


 しかもそれらはわずか4歳の子どもが立案したんだという。


 私は一代で築き上げた商会の長という自負もあるが、それなりに人より鼻が利く自信もある。商いの基本は人に先んじることだからじゃ。


 「ディル、もう少し詳しくその子の話をしてくれんか?」


 「ああ」



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