第58話 洞窟にて(その3)

 次の瞬間4人は円陣を組む前の状態に戻っていた。先ほどの戦いの場にいたドラゴンを見ると、前と同じく目を閉じて横たわっている。


「コル、このパラレルってのは面白いね。100回くらい繰り返せば、1回ぐらいアダマンタイトも持ち帰れるんじゃないか?」コウは楽しそうだ。


「この権能は今の姿で使えるのはせいぜい日に1回です」コルビーは答える。

人間が蒸発する瞬間を体験してしまったクニオはしばらく声が出なかった。

「こいつは難しそうですな。『アカギツネ』にはお帰り頂いて正解でした。新酒も飲んでみたいですし、それまで待った方がいいかもしれませぬな」そういってグレゴリーはガハハと笑う。


 どうしようかと4人が議論を重ねていると、頭の中に声が響いた。

『理(ことわり)を超える者たちよ』

4人は驚いてそれぞれを見回すが、誰の声でもなかった。ドラゴンの方を見ると上半身を起こしてこちらを見ている。


『こちらへきて話をせんか』ドラゴンは直接4人の頭の中に話しかけているようだ。

「パラレルはアンカーの設置に関わったものしか、記憶は残らないって説明だったよね?なんかバレてないか?まぁ面白そうだから行ってみよう」コウはそう言って、三人が返事をする前にドラゴンの方に向かって歩き出した。


 ドラゴンの前に4人が立つと、今度は頭の中にではなく直接人語で語りかけてきた。

「パラレルを使うという事は、お前は魔王だな。いや、今は魔王は不在だと聞いているので、魔王になるべき存在か」このドラゴンはどうにも事情通の様だ。

「そうだ。お前と戦う気はない。ただこの洞窟にあるアダマンタイトを少々頂きたい」コルビーは物怖じすることもなくドラゴンに話す。流石は魔王である。


「魔族は自分より強いものにしか従わぬはずであろう。なぜこの者たちに付き従っている?」ドラゴンはコルビーに問いかけた。

「従っているというのは少し違う。戦闘能力の話でもない。ここにいる建築士のクニオに私は弟子入りしているのだ」コルビーは率直に答えた。


「…うむ。戦いよりももっと上の物を計り始めたという事か。…それでここへ導かれてきたのかもしれんな」ドラゴンは少し考えて、そうしてまた話し始めた。

「儂は別にここでアダマンタイトの番をしているわけではない。もっと大きなものを守護している。それはこの世界のどこにでも存在しているが、次元が上なので認識することはできない存在だ。その存在がこの世界の人間と関わるには媒体が必要になる。この洞窟の奥にはその媒体が存在している」そう言ってドラゴンは一度洞窟の方を振り返り、またコルビーの方を見て続けた。


「戦いのもっと上の理(ことわり)に触れたお前には疑問が沸いたのであろう。洞窟の奥に進めばその疑問の答えが見つかるかもしれない。特別にここを通してやろう。アダマンタイトは採りすぎるなよ。自然生成する量を越えて採掘すれば枯渇してしまう」


「こぶし大で二かけらだけ頂ければ十分です」クニオが答えた。

「先ほど…というかあの世界線ではすまなかったな。ここで見張っているのも退屈で、たまにお前らの様なものもいるので暇つぶしに相手をしている。体の一部だけ残して蒸発した時には、本当に蘇生できるのか少々あせったぞ」どうもドラゴンは最初から、侵入者を殺すつもりはなかったようだ。


「さぁ洞窟に入って聞いてくるが良い。但し魔王と…その建築士だとかいうクニオだけだ。後の二人はここで儂の話し相手にでもなってもらおう」

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