第26話 道中にて(その3)
店主の言った通り町を出て一番キートに近い道には、しばらく行くと通行止めの看板が真ん中に立ててあった。ヒュドラは四六時中出現するわけでもないだろうから、通るのは勝手だけども危ないよというニュアンスで警告文が書かれていた。
「何だよ、通っても出なかったらがっかりだな。酒をもらった手前、店主にも申し訳が立たない」そういうコウに
「まぁ神のみぞ知ると言ったところでしょう。とにかくいってみましょうぞ」そういってグレゴリーはガハハと笑った。
しかしコウの心配は杞憂であった。進む事数時間。道の真ん中にはヒュドラが我が物顔で鎮座していた。通常ヒュドラと言えば大きくても10mぐらいなものだ。しかしこの個体は軽く3倍はありそうだ。体に比例して9本ある首の太さもかなりのものだった。刀などの武器ではその一本だけでも、一撃で切り落とすのは難しそうに感じる。
「あの首を9本同時に切り落とすんですか?4人じゃ無理ですよね?」クニオは言った。
「確かに魔法も効かないとなると難しそうですな。力自体は大したことが無いでしょうから、数十人が毒消しでも使いながら一斉に攻撃すれば何とかなるでしょう。我々は引き返しましょうか?」グレゴリーがまたもやまともな事を言っている。コウはコルビーの方を向いてこう言った。
「この一週間疑問だったんだけどさ。コルって魔王だろ?魔物や魔獣って魔王に従うんだよね?こいつにどこか他に行けって言えばそれでいいんじゃないのか?」
「確かに成体になれば魔王の権能で、殆どの魔物や魔獣をつき従わせることができます。でも今はまだ無理ですね」コルビーが答える。
「じゃあしょうがないか。確かヒュドラの首は、同時に全部落としても9本目は不死身に近くて完全には死なないんだよな」コウがコルビーに聞く。
「そんな感じですね」コルビーがそう答えるのを聞いて、コウは両腕を上にあげた。それをヒュドラに向かって下ろすと、ヒュドラのまわりには空気の歪みでそうとわかる、半球形の囲みが現れた。
「魔法攻撃が効かなくても、周囲の空気を抜いちゃえばいいんだろう?真空を保つのは疲れるから、酸素と二酸化炭素を抜いて窒素だけにしよう」そう言ってコウはヒュドラに向けていた手を右腕だけまた上にあげた。
先ほどの話からすると、囲いの中の空気の成分を変えているのだろう。特に最初は何の反応もなかったが、数分が経過してヒュドラの首はそれぞれがもがきだした。そうして更に数分するとぐったりとして動かなくなった。しかし1本だけはその眼光を失わず、こちらを睨みにつけている。そうして8本の首を垂らしたまま、胴体をバタバタと動かし始めた。
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