道中にて
第24話 道中にて(その1)
翌日町を離れる前に一行は酒屋に寄った。途中の野宿に備えて日本酒もストックしておこうというのはコウの提案だった。実は飲み屋ではなく酒だけを専門に売っている店というのは、4人ともハポンに来て初めて見た。それほどまでに、ここハポンでは日本酒が深く生活に根差しているのだろう。
「で、ここでお勧めの酒はどれなんだい?」コウは店主にそう尋ねた。
「お客さんたち異国の人だよね。やはり酒と言えばキートの『まつとも』がお勧めだね。だが生憎と今ここには在庫がない」
「お、キートならこれから行くところだぞ」店主の答えにコウの瞳が輝いた。
「ああ、キートまで行けばまだ残っている店もあるかもしれないね。うちにはもう新酒の季節までは入らないだろうな…」店主は残念そうに語る。
「あの研ぎ師の言ってたことは本当だったな。これはキートに行くのが楽しみでしょうがない」コウは満面の笑みを浮かべて他の三人に同意を求める。グレゴリーとクニオはうんうんと頷いているが、コルビーは店の中の方に興味を奪われていて反応しなかった。店内には酒が大量に展示されているが、何も置かれていないカウンターが会計場所の横にしつらえてあった。
「店主さん、このカウンターは何をするところですか?」見た目は子供のコルビーの質問に店主は優しく答える。
「これはね、立ち飲みと言ってちょっと一杯飲みたい人は、ここで軽く飲んでいくんだよ」それを聞いてコウとグレゴリーが反応する。
「なんだよ。それを早く言ってよ。よし、一杯だけ飲んでいこう」
「素晴らしい仕組みですな。これはハポンだけに留めておくのは勿体ない」
クニオはこれはガイド本に使えそうだと、立ち飲みカウンターのスケッチを始めてしまった。相変わらずこのパーティーにはまとまりというものが無い。
朝から飲酒はどうなんでしょうかと、真面目に突っ込むコルビーに対して、一杯だけだからと二人は飲み始めてしまった。クニオもそれに従う。前世ではそういう店で朝から飲んでいる人を見ては、それは流石にまずいだろうと思っていた。しかし今は、何でも経験だと思っているので罪悪感はそうない。
いや、違う。これはとても楽しい…日が高いうちから飲む日本酒というのも最高だった。しかし三人とも流石にお代りはまずいと思ったのか、器の半分から先はちびちびと飲んでいる。そこに店主が話しかけてきた。
「そういやお客さん冒険者みたいだけど、キートまで行く道に出たヒュドラ退治なのかな?あ、なら酒なんか飲まないか」
「ん?ヒュドラが出るのか?全然知らないぞ」コウが答える。
「ギルドにクエストが出ていたでしょう?ここ数年あれが出るようになってから、キート産の酒を仕入れるときは回り道をしないといけない。時間がかかるしお金もかかる」店主はぼやく。キュリオシティ―ズは冒険者パーティーなのに、立ち寄る町ではギルドには寄らずに酒場にばかり顔を出していた。当然そんなクエストが出ていることなど知る由もなかった。
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