第16話 アトラク=ナクア

「よしっ、カルっ来い」


 シズカさんは丘の向こうに隠れていたカルを呼び寄せて飛び乗る。

 私はミィちゃん、エリカさんはオサダゴワに乗ってウルムを連れている。


「今回は私が先頭だっ、文句はないな?」


「ええ。お願いします」


 カルカロドントサウルスは防御力も高く最高の壁役でもあり、アタッカーだ。 

 敵からの攻撃も怪獣が肩代わりしてくれて、アトラク=ナクアは騎乗者へ直接攻撃するスキルを持っていない。


 シズカさんの危険度はそれほど高くないだろう。

 そのまま丘を駆け下りて一気に強襲を掛ける。

 アトラク=ナクアへあと十数メートルまで迫るとこちらを認識したようで、奴は戦闘態勢を取る。


 突進するカルに対して爪を振るうが、わずかに傷を付けただけでその勢いを殺せない。

 そのままカルは体当たりをして、数メートル後退させる。

 先程生き残っていた子蜘蛛達がエリカさんを取り囲んで攻撃しようとした。


「ウルム、やって!!」


「キシャッ」


 エリカさんに付き従っていたウルムが溶解液を周りに撒き散らす。

 それにより子蜘蛛達が吐き出した糸と蜘蛛自身が溶かされていく。

 さらにウルムは噛みつき攻撃に移行し、エリカさんの駆るオサダゴワと共に子蜘蛛にトドメを刺していく。


 私は爪の失われた右側に回り込むと、足を攻撃することにした。

 先程のコマのような攻撃をされると厄介だからだ。

 アトラク=ナクアの足へミ=ゴの爪を何度も振り下ろさせる。


 ミ=ゴはたい昆虫の攻撃力アップのスキルを持っている。

 通常の怪物では堅い甲殻に阻まれてあまり傷を与えられないが、ミ=ゴの攻撃はかなりのダメージを与えているようだ。


 しかし、さすがにボスだけあってなかなか足をへし折る事ができない。本体の接地して体を支えていない足が爪を突き刺して攻撃して来る。

 神経をすり減らすような回避と攻撃を繰り返し、永遠とも言える数分の後、アトラク=ナクアの右側四本の足がへし折れた。


「よしっ」


 ゴトッと右側が地面に落ちてバランスを崩す。


「カルッ、右側に攻撃だ」


 シズカさんはそれを見逃さず防御の薄くなった右側に回るとカルの爪と牙でその甲殻を引き剥がしにかかった。

 そこからはカルカロドントサウルスとアトラク=ナクアの正面からの殴り合いだ。


 私もエリカさんも巻き込まれないように少し離れて周囲を警戒する。

 傷を追っていたアトラク=ナクアに対してシズカさんのカルは有利に戦いを進めていたが、さすがにボスだけあって手強い。


 残った左の爪で地面を引きずりながらも方向転換してカルへ攻撃を重ねる。

 カルもだいぶ血まみれになってきた。少し加勢したほうがいいか。


「よしっ!!」


「シズカさん、ちょっと登らせてもらいますっ」


「えっ、なに?」


 私は、ミ=ゴをカルの地面に垂れた尻尾の方から登らせ、背中を駆け上がっていく。

 そのまま、首筋の鞍に乗っているシズカさんを踏まないように気をつけながらその頭部から飛び上がった。


「私を踏み台にっ?」


 シズカさんじゃなくてカルを、ですけどね。

 そのまま大ジャンプをしてアトラク=ナクアの胸部体節継ぎ目に重力加速度を乗せた一撃をお見舞いした。


「―――――!!」


 声になら無い悲鳴を上げてアトラク=ナクアが思い切り体をのけぞらせる。


「今だっカルッ」


 カルは無防備に顎を晒してしまうことになったアトラク=ナクアの頭部に噛みついた。

 さすがに今まで闘った怪物の様に一撃で食いちぎることは出来なかったがギギギと徐々に形を変形させられて潰れてくる。


 最後のあがきの様にアトラク=ナクアは爪でカルの上に乗るシズカさんを狙った。


「させるかっ」


 私はミ=ゴに爪を受け止めさせた。


「グッ」


 ミ=ゴは攻撃力アップほどではないが、昆虫の攻撃に対して防御力がわずかに上がるスキルもある。なんとか耐えることが出来た。


「ウルムっ」


 エリカさんがウルムに爪の関節に対して溶解液を吐き出させた。

 ボキッ。

 関節がわずかに溶けた爪をミ=ゴが力いっぱい引っ張ると引きちぎることが出来た。


 グシャアアアッ!!

 その瞬間、アトラク=ナクアの頭部がカルに噛み潰された。



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