異世界転移して鍛冶ガチャを手にいれたので、大商店でなり上がろうと思います

サカイヌツク

第1話 スキル鍛冶ガチャ

 この春、俺は第一志望の大学受験に打ち勝った。

 来春からは夢のキャンパスライフが待っている、もう最高の気分だ。


 だのに、帰路の途中ブレーキが利かなくなったトラックにはねられた。


 視界は一瞬にして暗幕、俺は死んだ。


「天草ツルギさん、今回は不運でしたね」


 暗幕した視界が開けると、俺は雲の上で神々しい光と対峙していた。

 光の射す方向から声が聞こえ、声は俺の名前を呼んでいた。


「もしかしてここは天国って奴ですか?」

「人の思想で言えばそうですね、ですが貴方はここで暮らせませんが」


 せっかく天国にエスコートされたと思えば、俺はここにはいられないんだとさ。

 じゃあ、俺が向かうのは地獄? 地獄の針山で苦しめばいいのか?


「天草さんの命が助かる方法があります、元居た世界とはちがった異世界アルダバースに転移すればいいのです」


「アルダバース? 異世界? そんなものが本当に実在するんですか」


「えぇ、多少文明が異なり、住んでいる種族も多種多様に存在します。私は貴方の人生を評価しています、ですから、アルダバースに向かい、そこで余生を健やかに暮らしてもらうよう努力いたしますよ」


 ……今、対峙している人物が本当に神だとして。

 俺はもう二度と日本に戻れないのか、というのと。

 アルダバースという聞きなれない新天地で生活できるのかという不安があった。


「不安そうな表情をしていますね」

「ええ、普通に不安ですよ」

「なら、貴方に特別なスキルと、仲間をさずけましょう」


 といい、神は光の玉を差し出した。

 光の玉の一部は俺の胸に吸い込まれ、体に得体の知れない力が宿った感覚がよぎった。


「神様、今のは一体」


「スキル、鍛冶ガチャです。スキルに要求された素材を集めることによって自動的に鍛冶が始まり、神話級の武器防具が作れてしまう優れものですよ」


「あ、ありがとうございます」


「それと貴方には元奴隷だったルリという名の女の子と、従魔としてサンダーウルフのゼルを仲間としてつけますよ。どうかこの二人のこともよろしくお願いいたします」


 言われ、両脇に女の子と毛並みのいい狼が並んで立っていることに気が付いた。ルリと紹介された女の子を見ると、アケビ色の毛髪からキツネのような耳がぴょこんと生えている。年頃は七、八歳ていどで、無垢な子だった。


 とにかく二人にこれからよろしくお願いしますと口にすると、白銀色の狼のゼルが賛同するように一度吠えた。


 その光景を見ていた神様は安堵した様子で、俺たちに口を開いた。


「では、早速アルダバースに向かいましょう。貴方達の幸先を祈り、ちょっとだけテコ入れしておきますね」


 神様はそう言うと、また光を出し、俺たちを光の玉に包んでしまう。

 光の中にいると、胸中が暖かくて、先ほどまで覚えていた不安が霧散されていくようだ。


 して、光に誘われた俺たちは広い草原に立たされていた。

 丘陵の草原の向こう側にはうすらと街が見える。

 一見して日本とは違ったファンタジー世界の街が見えていた。


 ルリが新天地にたどり着き、漠然とした現状に不安になったのか俺の服のすそをぎゅっとつかんでいた。彼女の奥隣りにいるサンダーウルフのゼルは鼻をすんすんと鳴らし。


「あの街に食料がありそうだ」


 と、人語で語りかけてきた。

 俺は服のすそを掴むルリの手を取り、二人にこう打診した。


「えっと、じゃあ一先ず街に向かおうか?」

「はい」


 幼い容貌ではあるがルリの声は綺麗で聞き取りやすかった。


 俺たちは街を目指して靴底で草原を踏みしめ始めると、向こうから人がやって来る。挨拶とかした方がいいのかな? と逡巡していると、その人は俺たちに近寄って来る。


「そこの、見慣れない連中だな。この先の帝都に用があるのか?」


 その人は長身痩躯で、藍色の髪を後ろで一本結いにしている精悍な男性だった。

 赤い鉄の胸当てと、両肩にも同じく赤い防具とそれに付帯した白マントを装備している。


「はい、俺は天草ツルギと申します。とりあえずここら辺の人間ではないので、一先ず街へ向かい、ここがどんな世界か見識を広めに行こうかと思いまして」


「つまり旅人という訳だな、俺の名はハイド、帝都で近衛兵をやっている。お前たちは邪悪そうではないが、帝都に近づく不審者は極力排除しなければいけなくてな、しかるに、今声を掛けたわけだ」


 じゃあ、俺たちは不審者として処分されるというのだろうか?

 ここに来た経緯を説明しようにも、信じてもらえる保証はないし。


 ハイドさんは説明を終えたあとも、俺たちを疑わしい目で見詰めていた。


「お前たちはどんな一行なのだ? 見受けた所、とくに連想できないが」

「……俺たちは新米鍛冶屋なんですよ、新米といっても腕は立ちます」


 そこで俺はとっさに神様から与えられたスキルから鍛冶屋を名乗った。

 まだ俺のスキルは判然としてないが、語った以上、後には引き返せない。


「ふーん、なら、俺の剣を修理してくれないか?」


 と言い、ハイドさんは古びた短剣を俺に手渡した。

 鞘も所々装飾が剥がれていて、刀身はかびているのか鞘からの抜き心地が悪い。


 すると、脳裏に電撃が走った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

・錆びた鉄の短剣(RANK C-)

 この剣にスキルを使用するには以下の素材を要求します。

 1:薬草100グラム

 2:水1リットル

 3:砂鉄50グラム

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 今の覚書みたいなビジョンはなんだ? 神様から貰ったスキルが見せたのか?


「どうした? 君が言ったことが正しければ、修理ぐらい訳ないだろ?」


 ハイドさんは俺を否定するように試している。お前には無理だ、と彼の目が物語っていたので、俺はすぐさまルリとゼルの二人に今のビジョンで見えたスキルに必要な素材を集めるよう指示した。


「ルリとゼルにお願いがあるんだ、薬草を100グラムほど獲って来てくれないか。俺は他二つの素材を調達するから」


 ゼルはわかったと言うとルリに「背中に捕まれ」と、ルリを背中に乗せて街とは反対にある森へと向かっていった。俺は水1リットルを汲むために、ハイドさんが腰に持っていた水袋に目をやった。


「ハイドさん、水袋の中の水を頂けませんか? それともし持ってたら砂鉄を少し分けてください」


「……これはこれは、お手並み拝見と行こうか」


 ハイドさんはそう言うと、素直に所持していた水袋と砂鉄を寄こしてくれた。

 しばらく待っているとルリを背中に乗せたゼルが疾走しながら帰って来る。


「主よ、言われたとおり薬草を獲って来たぞ」

「ありがとうゼル、ルリ。後は上手くいくよう神に祈ってくれ」


 そう口にすると、ハイドさんが失笑をこぼしながら両手を広げていた。


「おいおいおい、鍛冶道具も持たずに修理するのか?」

「ハイドさん、これから何が起こるのかわからないので、下がってて頂けませんか」

「天草殿、もし修理できないようなら帝都には今後近づかないでもらうよう願うよ」


 で、俺はみんなから少し距離を取り、ハイドさんの錆びた短剣と用意した素材を目の前に置いた。すると脳裏に再び電撃が走り。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

・錆びた鉄の短剣(RANK C-)

 にスキルを使用しますか?


 YES/NO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「――イエスだ」


 答えると、俺のスキルは発動されたみたいだ。


 目の前の地面に置かれていた短剣が光だし、何重にもわたる光の輪に包まれ、短剣は神々しい光を放ちながら見えなくなるほどの高度まで登っていくと、空から一振りの短剣が地面に突き刺さるように落ちた。


 先ほどまでとは違い、鈍色に錆びた短剣は今は末恐ろしい切れ味を秘めた光沢を放っている。どうやら今回の鍛冶ガチャは成功したようだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

大成功

・錆びた鉄の短剣(RANK C-)は無事に処理され

・魔剣フラガラッハ(RANK SSR)に昇華されました

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 俺はその短剣を拾い上げ、遠巻きに見ていたハイドさんに持っていくと。


「鍛冶は上手くいきました、これが生まれ変わったハイドさんの短剣です」

「……いや、お、お前、これは俺の短剣じゃないぞ。これは恐らく魔剣クラスの代物なのではないか?」


「魔剣フラガラッハというらしいです」

「う……」


 ハイドさんは口を噤むと、ごくりと喉を鳴らして生唾を飲み込んでいた。


「嘘だろ!? 単なる錆びた鉄剣が、魔剣に生まれ変わっただって!?」


 ありえないありえない、とハイドさんは繰り返し、今起きた事が信じられないと言った様子だった。

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