第26話 チートで神話を紐解く

地下一階の乾燥庫が完全に埋まった。


バラン師匠がホプキンス部材会社時代に取引があったミーティア精肉会社との引き取り契約は締結されているが、向こうも人手不足である為、明後日まで身動きが取れない。




買取を停止して、魔石払いの解体にのみ応じる態勢にシフト。


何人かのお客様に軽く叱られる。


「アンタの買取に期待して熊退治してきたんだぞ!」


と。


仕方ないので皮を渡そうとするが、胆嚢を要求される。


そう。


誰だって手運び出来て単価の高いものが欲しい。




夜には向かいのセントラルホテルでエルザちゃん達とちょっとした食事会を行う(要はバラン師匠のプロポーズが受け入れられたということだ)予定なので、今日は遠出をしない。


『作業が入ったら声を掛けて下さい』


と皆にお願いして、部屋で読書に励む。




ゴードン夫人に頼んで手に入れた神話の本。


グランバルド人は初等教育で習うらしい。


可愛らしい挿絵が入ってる。


帝国の教育制度では学童一回生で神話を、学童二回生で古代史を習う。


俺はこの世界の常識を全く知らないので、急いで基礎知識を身に付けなければならない。




『スキル発動。』




【心を読む能力】は翻訳にも有効である。


文意だけを正確に伝えてくれるので、出来るだけ名文家・碩学の書いた書籍を読むことが好ましい。


先日スラムの壁に書かれた落書きを【読んだ】が、支離滅裂で何を訴えたいのかよく理解出来なかった。


余談ながら、グランバルド史屈指の大文学者と呼ばれる4000年前の文人チェルネンコの詩を【読んで】みたところ、非常に平明な言葉で政治の神髄を解説しており、この世界に全く縁のない俺が思わず落涙してしまった程である




丹念にメモを取りながら、学童用の神話を読み進める。


5歳の頃のバラン師匠達もこの絵本みたいなのを読んで勉強したのだろうか?


ちょっと微笑ましいな。


さてとメモをしていくか






---------------------------------------------------------




【グランバルド神話】  要約:伊勢海地人




・この世界は神が作った。


・神々は天より遥か○○○○○に住まう


・グランバルドは神が人間種に与えた土地である。


・人間以外の種族は神に仇なす悪魔の僕である。


・神は人間に叡智を授け、更に素質ある者・鍛錬を重ねた者にスキルを与える


・人間は神への恩返しとして異種族を平定し、グランバルドに平和をもたらす義務がある。


・精進し貴重なスキルを身に着けた者は褒賞として神の地へと招待され、至高の英雄となる。




---------------------------------------------------------






何だ?


これが神話?


【神々は天より遥か○○○○○に住まう】


何でここだけ文字化け?


どこに住んでる?


住処を隠したい?




大体、神話というよりも。


いや… 


戦争プロパガンダだろ、これ…




この論法、どこかで…


標準座標≪√47WS≫だ!


これ、俺が最初に出逢った自称神の言い分に似てるぞ!?




思い出せ…


アイツ、俺になんて言った?






「汝が今から向かうのは剣と魔法の地・グランバルド!


生まれ育った場所とは全く異なる異世界に汝は転生する!


魔王を倒しグランバルドに平和を取り戻すのじゃ!」




「それでは伊勢海地人よ!


いざゆけ! 剣と魔法の異世界・グランバルドへ!


正義の刃で魔王を倒し、平和をもたらすのじゃ!」






魔王って何だ?


その…


神話に記載されている、《異種族》のこと?


そうだ、標準座標≪√47WS≫は《蟲毒》という表現を使っていた。




【ぷぷぷのぷーーww


実はワシの仕事って蠱毒に投げ込む全種族に同じセリフを言うだけなんだけどねーーwwww


これで成果が上がるんだから楽な商売やでぇwww


どいつもこいつも真に受けすぎいいいwwww】




俺はあの時に【読み取った】標準座標≪√47WS≫の心中を思い出す。


そう…


アイツは人間も含めた色々な種族を戦わせようとしていた。


他の種族…


そう、この街に来てから頻繁に聞く《リザード族》。


アイツらにも同じことを言って、人間と戦わせようとしている。




そして、奴らの目的は書籍に記載している通り。


《精進し貴重なスキルを身に着けた者は褒賞として神の地へと招待され、至高の英雄となる。》


つまり言い換えれば、奴らの望むスキルを身に着けた個体を回収するということ。




【次元跳躍プログラムと、元素複製プログラムは引き当てたから


後は狂戦士プログラムだけ回収出来たら、ワシも出世出来るんだが。


要は知的生命体に無思考で殺し合いをさせたいだけなのよねーw


早くそういうプログラム発見されないかねー?


スキル名は多分、狂戦士バーサーカーだと思うんだけどさあw】




奴らは既に2スキルを回収済み。


そして最後に《狂戦士プログラム》を探している。


狂戦士バーサーカー、戦争奴隷を欲しがっているアイツらが如何にも欲しがりそうなスキル名だ。




『俺の勝利条件って何だ?』




頭を整理する為に言葉に出してみる。




『狂戦士プログラムを奴らに渡さないこと。


多分、それが俺の為すべきこと、だよな。


蟲毒って表現をアイツがしたということは、異種族間戦争を繰り返せば繰り返すほど…


スキルが生まれてしまう可能性が多い…


そうだよな?


思い出せ。 


アイツ、腹の底で何て言ってた?』






【まあ、どうでもええわw


どのみちさあw


月に閉じ込めた奴らが計画に気づいた上で、地球にこの情報を伝えない限り


ワシらの立場は絶対に揺るがないんだからねwww


まw


未開星人共がワシら高等文明人様の計画を察知するなんてぜーーーたい無理だけどねww


全部族に結託されたら流石にこっちが詰むけどww


翻訳装置も無しで未開星人同士の協議なーんてぜーったいに無理だしwwww】






そうだ、全部覚えてる。


あまりにムカついたから全部覚えている。


奴らの優位はあの魂胆を地球に伝えることによって揺るがす事が出来る。


全部族に結託されたら…  あっちが詰む?


アイツが言った《部族》って他種族同士ってことだよな…?


何か、俺のやりたいことが見えて来た。


わかったよ。


どうして俺が異世界ラノベ好きで、あんなに夢中になって読み漁ったのかを。






『あー、そうか。


俺、異世界とかあんまどうでも良くて…


悪者を倒すヒーローになりたかったんだ。


男子はみんなそうかもな。


女は知らんけど。


…俺、やってやるぜ!』






そう決意してふと本から見上げると、ゴミでも見るような目でベスおばが俺を見下ろしていた。






『うわっ! 何だよいきなり!!』




「呼び出したのは貴方でしょう。


ほら、ちゃんと返しましたからね。」




『あ、ああ。 貸してた古書。』




「注釈のメモ、わざわざ書いて下さったのね。


助かりましたわ。」




『どういたしまして。


後、俺のフルポ勝手に飲むなよ!』




「グビグビ


ああ、失礼。


ほらワタクシ天下の帝都育ちでしょ?


たまに都会の物を口にしないと体調崩れてしまいますのよ。


学生時代は後輩を小突いて買いに行かせたのですけど。


小突く相手が居ないと調子狂いますわ。


グビグビ」






マジかよ。


ブ〇は心まで○スだな。




『じゃあ、この【七雄の実態】は次の配達でゴードン夫人に返却しておくから。』




「どういたしまして。


ああ、これ。」




『ポーション?


くれるの?』




「取引って言ったでしょう。


当然対価は支払いますわ。」




『ん?


こんなドス黒いポーション初めて見たけど。』




「そりゃあそうでしょ。


ロストテクノロジーなんだから。


伝説の捨身薬しゃしんやくよ。」




『捨身薬?』




「飲めば戦闘力1万倍。


どんなヒョロガリ君でも最強の戦士に変身出来る魔法の薬ですわ。」




『おお!  じゃあこれを飲めば俺も!!』




「まあ上がり過ぎた戦闘力に耐え切れなくて、どんな豪傑でも2分もしないうちにのたうち回って死ぬんだけど。」




『うわっ!!!


うっかり死ぬところだったぞ!』




「それを持ってるって周りに言っちゃ駄目ですわよ。


時代が時代なら所持しているだけで縛り首ですのよ。」




『本当にゴミだな。』




「まあ、それは実験ですしね。


これで太古の秘薬を再現出来る事が証明されましたわ。」




『ああ、それで古書を探してたんだ。


昔のレシピを探す為に。』




「御名答w


まさか翻訳家まで見つかるとは思いませんでしたけどww」




『翻訳家?』




「伊勢海君のお仕事よ。


古典の翻訳家になりたいのなら、仕事紹介してあげますわよ。


仲介料は頂きますけどw」




翻訳家ねえ…


確かにやってる事は翻訳だよなあ。






【翻訳装置も無しで未開星人同士の協議なーんてぜーったいに無理だしwwww】


【翻訳装置も無しで未開星人同士の協議なーんてぜーったいに無理だしwwww】


【翻訳装置も無しで未開星人同士の協議なーんてぜーったいに無理だしwwww】






…。






『ねえ、ベスさん。


翻訳する為の薬って存在するの?』






「ハア?


そんなの貴方にやらせればいいじゃない。」






『その…


異邦人同士で会話する為の薬とか…』






「そんなの通訳の仕事でしょ?


もっとも、今は言語も統一されてるし、通訳なんて職業も百年前には消滅してますけどねw」






『じゃあ…  動物と会話する薬とかの記録って無いかな?


記録上だけでもいいんで。』




「なあに?


貴方… 獣医とか御者にでもなりたいの?」




『ある?』




「昔… 皇帝時代くらいの話だけど…


政敵を陥れる為に、家畜に尋問する装置を作らせた愚かな貴族が居ましたわね…」






『家畜と話せたってこと!?』






「原始的なウソ発見器よ。


一応、見覚えの有無を調べたりはできたみたいよ。


もっとも法廷で証拠として採用されなかったから、その愚か者は世の笑いものになったそうだけど。」




『詳しい事が解かれば教えて欲しい。』






「わかった。


アンテナを張っておくわ。


その分の対価はこれでいいわよね?」






それだけ言うとベスおばはフルポの空きビンを俺に押し付けるとどこかに行ってしまった。




…さあ、エルザちゃん達との食事会だ。


誰かさんの顔を見ちゃった口直しをしなくちゃね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る