私が魔女になるまで

橘スミレ

森へ脱走

 どこに、行こうか。私は今、小学六年生になるまでの人生初、つまり十二年間の人生で初めての自由だ。自我がない頃は自由も何もない、ただ本能に支配されていた。自我が生まれれば、親にルールの中に押し込まれ、自由の「じ」の字もない管理された時間の中で生きていた。友人と遊びにもいけず、学校の休み時間も渡された問題集を解かなければならなかった。もし終わらなければ、両親の機嫌を損ねてしまう。そうすればマシな時で平手打ち、酷い時は包丁を持って襲いかかってくることもあった。

「このままでは危ない、死ぬ」

 ある日、本気でそう思った私は学校に行く途中で通学路を無視してひたすら走った。途中、公衆トイレで制服とランドセルに潜ませておいた私服と着替え、同じく潜ませていたリュックに着替えと図工で使ったカッター、水筒を入れた。ランドセルは隠してまた走った。ただひたすらに走って、逃げた。親の拘束から逃げるのはものすごく怖く、心臓が路上のペットボトルみたいに潰れそう。だが、逃げなければ死んでしまう。どうせ死ぬなら自由な時に死にたい。自由への憧れが私を突き動かす。走って、途中歩いて、また走って。そうしてとうとう町のはずれの森まで来た。

「ここまでくれば、少しくらい休憩してもみつかるまい」

そう思い、私は森の中へ進んでいった。

 森の中は薄暗く、肌寒い。長袖の服を持っていればな、と思う。親は滅多に服を買ってくれない。そのせいでくたびれたからは肌が透けることもある。それにより、クラスの男子によくからかわれた。嫌な記憶だ。振り払おうと、首を左右にブンブン振ると、切り株が視界に入る。そこだけ陽が当たって明るく乾いていた。

「よし、あそこで休憩しよう」

 切り株はとても大きく、寝そべっても足が少し出る程度で特に問題無い。虫は気にしないことにした。家にいる親の方がよっぽど怖い。切り株の周りには色とりどりの花も咲いていて本当に心地よい。気づけば私はそこで無防備に寝ていた。

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