第7話【ニルワームSide】調査が必要だな
「ツバキよ、ルリナの様子を見てどう思った?」
「噂では『自分勝手、傲慢、無知、欲深さ、人としてもクズ』だと聞いていました。確かに無知という点は認めざるを得ませんが、それ以外は感じませんね」
ルリナが昼寝を始めてから、メイドのツバキはニルワームの部屋へ移動し、状況報告をしていた。
「昨日の交流会のあと、口を揃えてみなルリナはとんでもない奴で貴族としてダメな人間だと聞いた」
「テーブルの食事を手掴みで食べていたそうですね」
「確かに秩序が乱れている。だがおかしいと思わぬか?」
「たしかに。あの公爵様がはしたない行為を黙って放任するようなことをするとは思えませんが……」
ツバキがニルワームにお茶を用意してから正面のソファーに腰掛ける。
ニルワームが一口お茶を飲んでから、文鳥のほうをチラリと向いた。
「もしも人としてクズが本当だとしたら、ナツメちゃんのことをあれほど心配してくれるとは思えんが」
「ニルワーム様の異様な動物好きを抜きにしたとしてもそれには同感です」
「しかも本人に自覚はないようだが、ナツメちゃんが元気になったのは聖女の力を使っていたのではないだろうか」
ニルワームは文鳥を助けてくれたことに深く感謝していた。
それだけでなく、祈りの素振りをしていたから目を覚ましたのではないかと思っていた。
「たしか、彼女の母親は他界されていますが、聖女だったと聞いたことがあります」
「だとしたらルリナが聖女の力を持っていても不思議ではない」
「しかし、私の記憶では聖女の祈りは即発動されるはずです」
「やはり偶然か……祈る素振りをしていたものだから」
そうだとしても、ニルワームはルリナに対しての感謝は変わらない。
どうしてルリナが公爵令嬢でありながらあまりにも常識がないのかを知りたかった。
「私の予想では、公爵家ではルリナは迫害されていたのではないかと推測している。だが、矛盾も多い」
「聖女である彼女を迫害する理由などあるでしょうか」
「全くわからぬ。ひとまず、ここで話していても解決には繋がらぬ。ツバキよ、例の準備はできているか?」
「はい。公爵家に視察人と調査を送る準備は整っております」
ニルワームの独断でツバキに命じている。
そのため、国王や周りの者はこのことを知らない。
だが、もしも調査をするなどと言えば即やめるように言われることは理解していた。
覚悟の上での行動である。
「くれぐれもバレぬようにな。もしも公爵がシロであれば公爵の面目が悪くなってしまう可能性がある」
「バレればニルワーム様もただでは済まないのでは……」
「私のことはかまわぬよ。もしも私の予想通りだったとしたら許せることではないからな……」
「ふふ……。よほどルリナ様のことが気になっているようですね」
「大体は権力や地位目当てで近づいてくる。だが、あのように人として話をしてくれるような者は初めてだったからな……。ルリナは私などよりもそこのナツメちゃんに夢中のようだが……」
ニルワームが悔しがりながら文鳥をジロリと眺める。
「でもよかったではありませんか。婚約相手は絶対に動物を大事にできるような者でないと認めないと言っていましたよね」
「あぁ。私は生き物を大事にできないような者を好まぬからな……」
「ではニルワーム様の初恋に御加護あれ」
「まて……。まだ私はルリナに惚れているなどとは言っていない……」
ニルワームの顔が真っ赤になる。
それをみたツバキは口に手をあてながらクスクスと微笑むのだった。
「こんなに焦るニルワーム様を見たのは、長年あなた様の専属メイドを続けていて初めてですよ」
「からかいすぎだ。だがツバキのような頼れる者が近くにいてくれたことには感謝する。おかげで容易に公爵家の調査ができるというものだ」
「くれぐれも、ルリナ様にも私が表向きにはメイド、裏では諜報部隊だということは言わないようにお願いしますよ」
「当然だ。しばらくの間は私でなくルリナの世話係として頼む。むろん、ルリナの無知な行いに対しても容認し、都度報告するように」
「承知しました」
ツバキのルリナ観察と、調査団の派遣がはじまる。
当然のことながら、このことを公爵たちは全く知らなかった。
さらに、ルリナが王宮でくつろいでいることも……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。