第5話 ルリナは床に座る
日も出てきたため、さっそく王宮へ向かう。
かなりの距離を歩いて足がパンパンになってしまったが、なんとか王宮の入り口までたどり着けた。
「なにものだ?」
「えぇと、ルリナと言います。ニルワームさんのところへ――」
「無礼者め! 『ニルワーム王子』もしくは『ニルワーム殿下』と呼べないか!?」
「す、すみません。えぇと、ニルワーム王子のところへ行きたいのですが」
「殿下から話は聞いている。だが、念のために確認をさせてもらう。殿下の飼っている鳥の名前を言ってみろ」
「ナツメちゃん」
警備のおじさんはにこりと微笑み、頭を深く下げてきた。
「大変失礼いたしました。殿下からの許可は降りてます。こちらへご案内いたします」
「え? 馬車まで用意を?」
「ここから殿下のいる王宮までは距離がありますからね。客人を招き入れるのですから当然のことです。どうぞ足元に気をつけてお乗りください」
昨日、お父様から『乗れ』だの強引に馬車の中へ投げられたことがひどい仕打ちだったんだなと、よくわかった。
王宮の入り口に到着すると、今度はまた私のことを出迎えてくれる何人もの人たちが……。
こういったことに慣れていないため、なんて言えば良いのかわからなかった。
「こんにちは」
私がそう言うと少々動揺していたようだったが、昨日のような感じではない。
なにごともなかったかのように私は王宮内へと案内され、ニルワーム様が待っているという部屋まで誘導された。
「ルリナ様がお見えです」
「あぁ、開けて構わない」
部屋の中からはニルワーム様の声が聞こえた。
一緒についてきてくれたおじさんがドアを開けた。
「あ〜、ニルワーム王子さん〜!」
先ほど王宮の門で教えてもらったことを早速試した。
ニルワームさんには『王子』と付け加えなければいけないようだったから。
すると、ニルワーム王子さんは首を傾げながらクスリと笑う。
「昨日よりも言葉遣いがおもしろくなったな」
「あれ……こう呼ぶのが良いのかと思って……」
どうやら違ったらしい。
言葉選びって難しいなぁ。
「私のことは『ニルワーム』、もしくは……『ニル』でも良い」
「じゃあ……ニルと呼んでみます」
「念のために言っておくが、私以外の者がいるときは『殿下』と呼ぶように」
「わかりました。教えてくれて助かります」
そう言いながら、ナツメちゃんのことが気になっていた。
ニルの部屋はものすごく広いため、パッと見ただけではどこにいるかわからない。
「やはりきみは私よりもナツメちゃんのことが気になるようだな」
「はい。とっても! 動けるようになりましたか? それとも……まさか……」
「やれやれ……こんなことを言われたのは初めてだよ……。なかなか心が痛むものだな」
「え……? 私またなにか?」
「いや、かまわぬよ。ナツメちゃんはそこの鳥小屋の中だ」
指差した方を勢いよく振り向く。
すると、目を開けて小屋から出たがっているような素振りを見せる元気なナツメちゃんの姿だった。
『ピッピッピーーーーー!!』
「よかった〜!!」
私は心の底から声に出して喜んだ。
「そこまで喜んでくれると、私も嬉しい。ひとまず座りたまえ」
「あ、はい」
私は言われたとおりにその場所に座った。
「誰が床に座れと言った……? こちらにソファーがあるだろう……」
「そふぁー? あ、ニルが座っているやつですか?」
「ソファーも知らぬのか……。どうなっている……。ひとまずソファーに座りたまえ」
「はい」
ここで再び選択肢。
ソファーはニルが座っているところにひとつ。
そして、その正面にも同じようなものがひとつ。
どっちに座れば良いのだろう。
私は苦悩の末、ニルの真横に座った。
「おい……」
「えぇと、もしかしてそっちのそふぁー?」
「いや、こちらでかまわぬ……」
予想が当たってホッとした。
「だが、くれぐれも私以外の者とこういう場面になった場合は向こう側に座るように」
「へ? はい。わかりました」
なにが違うのかがわからない。
あまりにも知らないことが多すぎるから、勉強しないとダメだな。
どこかで学習できれば良いんだけど。
「いくつかきみに聞きたいことがある」
横にいるニルが真剣な表情に変わった。
「まず、なぜきみは昨日と同じ格好をしている?」
「えぇと、他に服がないので」
「な……? きみは公爵令嬢だろう?」
「それも昨日までだったみたいで、今はえぇと、なんていうんだっけ……。野生人(やせいじん)?」
「意味がわからぬ! つまりきみは一晩公爵家へ帰らず外で野宿を?」
難しい言葉が多すぎてどういうことなのか理解できなかった。
「えぇと……、昨日お父様が私を捨ててなにか手続きが終わってどうのこうのと……。私のようなゴミは捨てるとか」
「ばかな! きみを修道院へ送るような噂は聞いたことがある。だが、あの公爵がキミのことをゴミなどと言ったのか!?」
ニルが信じられないといったような顔をしていた。
しばらくなにかを考えていたようだが、やがて静かに口にした。
「まさか……、まさかとは思うが、迫害を受けていたのか?」
「はくがい?」
「いや、いい。こちらで勝手に調べさせてもらったほうが早そうだ。もうひとつ聞きたいことがある」
「はい、なんでも」
「このあと、王宮を出たらどうするつもりだ?」
この質問で初めて言葉を失った。
答えがわからなかったからだ。
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