第2話 ルリナは迫害されていたことに気がつく
公爵邸の中は、私の住んでいるゴミ捨て場と比べても明らかに格が違う。
雨が降ってきても濡れることはないだろうし、地面がとても綺麗だ。
「なに見惚れてるのです? お父様の部屋は上ですわよ」
「すごい……。木よりの登りやすそうな地面ね」
「ほんっとうに無知ですよね。こんなんで交流会へ行ったらどれだけ馬鹿にされることか楽しみですわ」
ニヤリと笑っていて、シャインは上機嫌のようだ。
お父様の部屋へ入ると、庭とは反対側の外の景色が一望できて、私が見たこともない世界が広がっていた。
外の空気が中へ入ってきていて心地よい空間である。
「ルリナよ……先日おまえは十四歳の誕生日を迎えた。それに伴い身体になにか変化はあったか?」
お父様と会うのも久々である。
お父様は、苛立ったような態度をしながらも冷静に私にそのようなことを聞いてきた。
「変化と言われても……。あ、胸が少し大きくなったことですか?」
堪忍袋が切れたのか、お父様は机を激しくバンっと叩いた。
「そうではない!! ルリナを産んだと同時に当時の妻は死んでしまったが、あいつは聖なる力を持っていた。もしやと思い、聖なる力を本格的に使えるようになる十四までかろうじて生かしておいたのだが……」
「せいなるちから?」
「そうだ。素質を持った者は遅くとも十四歳になるまでには力に目覚め、異能力のような不思議な力で国を守ったり人々に幸せを恵むことができるという。その様子だと聖女ではないのだな?」
「そもそも……、どうやったらせいなるちからを使えるのかがわからなくて……」
「あいつは確か……、手を合わせて目を瞑り空に向かって祈っていた。試しに、今やってみろ」
横でシャインはそわそわとした態度をしていた。
祈ると言っても、なにを願ったらいいのやら……。
あ、そうだ!
『おいしいご飯がいっぱい食べられますように』
手を合わせて目を瞑り、心の中で願ってみた。
こんな感じで良いのだろうか。
「どうだ? さっそく効果が出てきただろう?」
「いえ、まったく……」
「このゴミめがぁぁぁ!!」
お父様は机を何度もバンバンと叩く!
横にいたシャインはホッとしたような素振りをしながらお父様に近く。
「ほら、私の言ったとおりだったではありませんか。こんなクズなんか早く追い出して、私がこの家の長女としてより良い婚約をしたほうがいいと」
「そうだな。妻のためにも早急に手を打とう。だが明日、残念なことに貴族界での交流会がある。立場上、十四になってしまったルリナを参加させねばならぬのだ」
「こんな無知な女を交流会などに参加させてはいい笑い者になりますわ。それは楽しみですけれども、さすがに公爵家に傷がつくのでは?」
「だから今までコイツはどうしようもできない人間のクズと広めておいた。初めて顔を合わせれば皆納得するだろう。その上で公爵家から追放させればよい」
どうやら、私はこの家で邪魔者らしい。
大人になったら一緒にこの家で楽しく暮らせると思っていた分、ショックは大きかった。
お父様は、私がせいなるちからというものを使えることに期待していただけだったのかもしれない。
真実がようやくわかってきて、私はポロポロと涙をこぼした。
そのときだった。
『ビーーーー♪』
あ、友達の小鳥が私のところまで追っかけてきてくれたらしい。
もう少しで私の肩の上へ乗っかる直前、信じられないことが起こった。
――バァァアアアン!!
『ビィィ……!!』
突然お父様が小鳥をおもいっきり平手打ちしてしまった。
小鳥が衝撃で地面に落ちてしまい、その上で踏んづけようとした。
「やめてください!! 私の友達なんです!!」
「ばかものめが。我が高貴な公爵家の中へ無断で入ろうとするような害虫など始末するに決まっているだろう!」
説得しても踏んづけようとしたため、私は必死になって小鳥をかばった。
その結果、私は蹴っ飛ばされ、地面に倒れる。
だが時間が少しは稼げたようで、小鳥は起き上がって怖がりながら外へ逃げていった。
「聖女でないとわかった以上、役にも立たぬゴミ同然だ。食用にもならぬ害虫と仲良くばかりしているから聖女としての素質すら失ったのかもしれぬな……」
「ルリナ義姉様は木登りまでされていましたよ」
「まるで野生のサルだな……。ますます公爵家には不要な存在だ。明日の交流会で皆を納得させねばな」
激しい衝撃を身体に何度も浴びせられてズキズキと痛む。
それでもすぐに小鳥が無事かどうか確認したくてなんとか立ち上がる。
部屋から出ていこうとしたとき、お父様たちはゴミを見るかのような目で嫌味を言ってきた。
「言っておくが、これは正当な行為だ。我が公爵家は新しい妻を迎え入れ、シャインが誕生した。ルミナは公爵家にとっては邪魔な存在なのだよ。だが、聖なる力があるのならお前も迎え入れようとは思っていたが……。役たたずでは意味がない。明日の交流会で恥さらしをアピールしてとっとと貴族界から消えるのだな」
「ルリナ元義姉様がこのことを言ってしまわないでしょうか……」
「言ったところで誰も信用はせんよ。それくらいに私の評判は高いのだからな」
「それもそうですね。あ〜明日が楽しみですわ。ようやく公爵令嬢の長女として振る舞えるのですから」
用件が済んだようで、私はふたたび外へ放り出された。
こうりゅうかいってどんなものなのだろう。
このあと、私は小鳥の行方を必死に探したが、姿を表すことはなかった。
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