プリンアラモード 2
結局皆はレストランに入る事になった。
「俺達、現世に来てまだファミリーレストランに
行った事が無いんだ。」
と鬼が無邪気な事を言ったからだ。
豆太郎はすっかり調子が狂っていた。
今まで見て来た鬼と彼らは全然違う。
だが、油断はできない。結局は鬼だからだ。
鬼は人を喰う。
それは古来から決まっている。
「プリンアラモード4つね。」
「お、俺は食わんぞ。」
「いいよ、残しても。僕が食べるから。」
「いや、俺様が喰う。」
言い合う二人を見て豆太郎は不思議な気持ちになった。
「ところで豆太郎君。」
一角が真剣な顔をして豆太郎を見た。
「どうして
「なぜそんなことを聞く。」
「そこから出て来るのを見たからさ。
俺達もあそこに用事があるんだよ。」
「お前達も行けばいいじゃないか。」
「それがさぁ……。」
二人が渋い顔をする。
「あそこは鬼除けの結界がばっちり張ってあって入れないんだ。」
「結界?」
「それにこの前僕達はあそこで
「赭丹導?なんだそれ。」
豆太郎が聞く。
「
この世界を清浄に導くらしい。」
「世界を
紫の顔色が変わる。
「赤い玉って、紫垣さんの中にあるあれですか。」
三人は紫を見た。
その時アラモードが来る。
「お姉さん、見えるの?」
「ええ、前に見た時より紫垣さんの中の玉は大きくなっていました。」
そして彼女は身を震わすが、
一角と千角はアラモードをぱくぱく食べている。
「口から溢れるように赤い粒が出ていました。」
「ほら二人も食べなよ、美味いよ。」
紫の話を聞いているのかいないのか、
千角がフォークでアラモードを指した。
豆太郎と紫は顔を見合わせた。
確かにプリンアラモードは美味しそうだった。
二人は恐る恐る食べだした。
「それでお姉さん、」
「紫です。」
「紫さん、その粒だけど出て来たものは他の人の体にも入って行った?」
一角が聞く。
「はっきりとは分からないんですけど、すごい量でしたから。
あそこの会社にいる人はみんな赤い粒が体の中にあります。」
「豆太郎君、これを見てよ。」
一角が巻物を出した。
「これって……、日本地図か。やたらと一か所光ってるな。」
「ああ、この場所は紫垣製菓だ。」
「えっ、どうして。」
「これは大大大秘密の巻物だが
豆太郎が息を飲む。この巻物はいわゆる秘宝だ。
「この前まで所々に光があったんだが、それが全部そこに飛んで行った。」
「ばあちゃんが言うには玉を増やして、
その赭丹導が何かやらかすんじゃないかって。」
豆太郎が唸る。
「それって人を滅ぼして清浄な世界にとか言っている
赭丹導と言う奴が行動を起こす前兆って事か。」
彼は腕組みをして考えた。
そしてプリンアラモードをがつがつと食べだした。
「なあ、お前ら、一角と千角。」
豆太郎は口を拭きながら彼らを見た。
「お前達、どうしてそんな重要な事を俺に話す?
なにか魂胆はあるのか。
俺達を陥れる気なら協力はせんし、むしろ払う。」
一角がにやりと笑う。
「魂胆も何も僕達はあの逆数珠が欲しいんだよ。
あれは鬼には勝機を見出すものだ。
だからそれが増えたりしたら価値は下がるし、
しかもそれが人の手に渡るのも悔しいんだ。
それに赭丹導にはうちのおばあちゃんと因縁があるみたいでね、
あいつらに徹底的に嫌がらせがしたいんだ。」
「それを使って人の世に何かする気なのか?」
二人は思わぬ話を聞いたような顔になる。
「せっかく手に入れた宝だぞ、どうして使うんだ。」
さも当たり前のように千角が言った。
それを聞いて豆太郎はしばらく考えた。
「分かった。」
豆太郎は立ちあがりレシートを取った。
「その赤い玉に関しては協力しよう。
だがそれ以外は俺は鬼とは慣れ合わんからな、
とりあえずここは俺が払う。」
だが気が付くと手に持ったレシートは無く、
なぜか自分のスマホがそこにあった。
「良いよ、ここは僕達が払う。」
鬼二人は既に立ち上がり先を歩き出していた。
一角がレシートをひらひらさせる。
「連絡はラインか通話するから。」
千角がスマホを見ている。
すると豆太郎が手に持ったスマホが鳴った。
「お前ら、いつの間に……。」
「『ふれんどしんせーいヨ・ロ・シ・ク』だと、
あいつら、なんか知らんが腹が立つ。」
豆太郎は再び座りぶつぶつ言いながら登録を済ませた。
「あの、豆太郎さん。」
紫が恐る恐る言う。
「あの人達、本当に鬼なんですか。」
「あ、ああ、鬼だよ。人とは雰囲気が違うだろう。」
「まあ、何となく怖いと言うか、でも……。」
紫の目の前には食べかけの自分のプリンアラモードがある。
鬼達は綺麗にそれを食べて空っぽのガラスの器だ。
「何だか自分が思っていた鬼と違う。」
彼女は手首に巻いた透明な玉の数珠を見ながら呟いた。
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