学校内の怪物  1





何時頃いつごろからか、その教室では盗難が続いていた。


それは小さなもの、消しゴムや鉛筆、ノートや室内履き……。


被害に遭った人は多かったが誰が盗んでいるのか全く分からなかった。

そして無くなった物も二度と出てこなかった。


灯乃芽てのめちゃん、持って来た?」


人のいない教室の真ん中で一人の少女が

びくびくしながら入って来た女の子に声をかけた。


「持って来たよ……。由空ゆくちゃん。」


灯乃芽と呼ばれた子はポケットから小さな髪飾りを出した。


「ありがとう!これ欲しかったんだ!」


由空と言う少女は満面の笑みで

灯乃芽から髪飾りをひったくるように取り上げた。


「可愛いわねぇ、私が持つのにぴったりでしょ。」


灯乃芽は死んだような目で人形のように頷いた。




「玉はあの学校の中だなあ。」


千角が手を額にかざして遠くを見た。


二人きりで来た初めての現世を楽しみながら数日後、

一角と千角は小高い丘の公園から街並みを見降ろしていた。

そこは新しい住宅が立ち並ぶ住宅街だった。


その中で街の中心辺りには大きな学校があった。

休み時間なのだろう、校庭で遊ぶ子供の姿が見える。


「あの中に3つ玉があるみたいだ。2つは大きい。」


一角が巻物を開いて言った。


「たーっぷりと邪気を吸ってるんだろうな。おいしそー。」


千角がよだれを拭う真似をした。

一角が笑う。


「おばあちゃんはこの一尺いっしゃく鉤針かぎばりで引っぱり出せと言っていたけど

どうやって使うんだろう。」


一角が先に返しがある30センチ程ある金色の針を出した。

見た目は編物のかぎ針にそっくりだったが、

違うのは針の反対側に赤く長い糸がついている事だった。


「おばあちゃんは玉に突っ込めと言っていたけど。」

「まあやってみなきゃ分かんねぇよ、とりあえずやってみようぜ。

しかし、どうして俺様が学校に行けないんだ。」

「そりゃ……。」


いつの間にか一角が背広を着ている。


「臨時の理科教師として中に入るんだから

僕に決まってるでしょ。」


一角はメガネを指で少し押し上げる。


「へいへい、先生さま、俺はこっそりとのぞかせていただきます。」


千角がふざけた様子で片手を額に当てた。




「ねえねえ、灯乃芽ちゃん、新しい先生見た?」


キラキラした目で由空が灯乃芽を見た。


ふわふわした少し赤みががった髪の毛、

大きな瞳でいわゆる美少女と言えるだろうか、

人目を惹く容姿の由空が灯乃芽に話しかけた。


「うん、見たよ、若い先生だよね。」

「前の先生が病気で辞めちゃったから心配したけど

若い先生だからうれしいな。

おじさんより若い人の方が良いもんね。

……欲しいなあ。」


灯乃芽はどちらかと言えば地味な顔立ちだ。

由空がにこりとして灯乃芽を見た。

灯乃芽の顔が凍る。


「……由空ちゃん、先生は人だよ。」

「ねえ、私にぴったりでしょ。格好良いんだもん。」


由空は全く灯乃芽の話は聞いていない。

夢見るようにどこかを見ている。


灯乃芽はそれを薄暗い目で見た。

そしてそっと教室から出て行った。







一角は理科教室の準備室にいた。

棚には標本がいくつも並んでいる。


「こう言うものを飾って楽しんでいるんだねえ。」


一角は眼鏡を指で押し上げた。

人間はこう言うものが好きだ。

死んで腐り土に還るものを取っておく。

一角には理解できなかった。


彼は別の棚にある薬品をいくつも見た。

鍵もかかっているが彼には関係ない。

彼がそれに触れると鍵は一瞬にして壊れた。


「これとこれを混ぜると気体が出来て毒になるなあ。」


彼は小さな二つの薬品の瓶を手に取る。


「ふふ、面白そうだ。」


その時だ。


「先生。」


扉の外からか細い声がする。

一角は扉を開けた。


「ああ、君は、」


教室で後ろの方で座っていた少女だ。


「灯乃芽さんですね。」

「はい。」


灯乃芽は何も言わず立ったままだ。


「どうしましたか。」


灯乃芽はすうと手を差し出し一角の手に触れた。

一角の目が細くなる。


そして灯乃芽は一角の手を少しひく。

彼はそのまま歩き出すと、灯乃芽に連れられて歩いて行った。





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