いざ、食事会へ

 食事会が開かれる大広間の近くにあるかわやへ行った後、トーコはまた緊張が高まってきた。

 かわやの出入口の前で、何度も大きく深呼吸をすると、彼女は何とか心の準備ができたようだ。そして、早歩きで大広間に向かっていくのだった。



 

 食事会場に入ると、オスカーとハンナ、そしてジョンがすでに着席していた。

 トーコはジョンの近くに行くと、彼の左隣に静かに座った。


 しばらくすると、グレースも急ぎ足で会場に入ってきた。


 食事会が始まる直前、現国王のアイザックとイザベラ妃、その次にジュリアンと十五歳離れたミア姫が、にぎやかに登場した。

 トーコはミア姫を久しくを見かけてなかったので、知らないうちに九歳に見えないくらい、大人びた雰囲気になっていたので、少しだけ驚いたのだった。


 口髭くちひげが特徴的なアイザック王は席に座ると、ガブガブと豪快に、グラス二入った水を一気に飲んだ。

 その後、軽く咳払いをすると、「ジュリアン、ソフィア。入ってきなさい」と、近くにある部屋の出入口の方を見た。



 すると、ジュリアン王子と婚約者らしき女性が入ってきた。

 二人はアイザックの右隣まで行くと、立ったまま、着席していた王家の関係者に向かって微笑みながら、堂々と見渡した。


「今日は皆、よくぞ集まってくれた。次期国王となる我が息子が、ようやく身を固める決心をして、婚姻まで辿たどり着いたことを報告する。……実に、めでたいことだ。

 さて、ジュリアンの横に立っている者が、妃となるソフィアだ。……長年付き合いのある我が旧友、現財務官のフィンを知っている者は居るだろう。ソフィアは、彼の娘だ。縁あって、ジュリアンに嫁いでくれた」


「ソフィアと申します。至らぬところもあるとは思いますが、今後とも、よろしくお願い致します」


 アイザックがソフィアのことを紹介した後、ソフィアは高くて上品な声で挨拶をした。ソフィアは二十六歳だそうだ。


 「座ってよいぞ」とアイザックが声をかけると、ジュリアンとソフィアは静かにイスに座ったのだった。



 一方で、トーコはソフィアに釘付けになっていた。

 見惚みとれ過ぎて、身分の高い人々に囲まれた故の、ものすごい緊張感も一気に無くなった。一瞬だったが、苦手なグレースも眼中に無いくらいになったようだ。


(何て、美しい人なの……。女神様かと思っちゃった!)


 ソフィアは、超絶美人なだけでは無かった。

 透き通る雪のような白い肌。淡い金色の、長くて真っ直ぐな髪。そして、宝石のアパタイトのようなあおい瞳……。

 はかげな印象もあるが、背も高いためか、存在感がとてつもなかった。


 酒のさかな……とは違うが、ソフィアを自然な感じでながめることで、トーコは前菜からデザートまで、全てペロリと食べきってしまった。

 珍しく、グレースを変に意識しなかったことが、トーコの食欲を後押ししたのだろう。


 

 トーコが食後の茶を飲み終わり、我に帰ると、いつの間にか食事会が終わっていた。

 「かわやに行ってから、乗馬場の方に行くね」とジョンに伝えると、トーコは足早に部屋の外に出たのだった。

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