第32話 奇襲&救出



「――魔物が沢山いる理由とか色々と気になる点もあるが、。どうせこういうパターンは親玉がいるはずだ。そしてマナちゃんはそこにいる」


 諸々の準備を済ませた須藤は【空間掌握ルール】で夜の宙そらに浮き魔物の動きを観察していた。「隠密のローブ」のおかげで魔物達にバレていない。そもそも人が宙にいるのなんて想定していないだろう。なので今は文字通り高みの見物だ。


 既にマナの居場所も見つけている。後は作戦を決行するだけ。準備に30分の時間を浪費したが、魔物達を一網打尽出来る手筈は整っている。


「今日は夜風が出ていてグッドタイミングだな。お、後少しで。残り10秒か」


 スマホで時間を見ながら呑気に呟く。


「――5、4、3、2 ――」


 やる気なさげに数字を数える。そして後1秒となる。


「――1――【ロック解除】!」


 言葉を合図に少し置いて――ズドーン! ズドーン! ズドーン!――と大きな爆音が「たどの森」の周辺で響き渡る。


 周りから「グギャッァァァォ!」「ギャォォォッァァァ!」「ギギッッッィォォ!!」という魔物達の叫び声、断末魔が聞こえる。


 そしてあちこちで黒い煙が上がる。【空間把握サーチ】で黒い煙が発つ場所を見ると大半の赤い点が減っている。その事から赤い点=魔物なので――沢山の魔物を殲滅出来たことがわかった。


「ご愁傷様。ま、この世は弱肉強食だ。もし恨むならお前らを招集した奴を恨むんだな」


 状況を確認した須藤は作戦が成功したことを確信し、【空間把握サーチ】で見たマナの元へ向かう。



 須藤が使った作戦は誰にでも考えられる至ってシンプルな物だ。


 まず魔物の軍団が三ヶ所あることに気付いた須藤は【隠密】の効果をフル活用して魔物達の近くに忍び込む。【インベントリ】から取り出した沢山の「小麦粉」の封を開ける。それを【ロック】で宙に浮かせる。なるべく距離を置いて高くにだ。

 それが終わったら【メルカー】で「地球」経由で買った「ダイナマイト」要は「時間式爆弾」をこれまた【インベントリ】から取り出し【ロック】の力で宙に浮く「小麦粉」の下にふんだんに置く。ケチってもあれだと思い一ヶ所に10個設置。

 そして最後に多くの魔物達を誘き寄せる為にダイナマイトの近くに「くさや」を置く。「くさや」を置いた理由は魔物も動物も関係なく『臭い』に敏感だと思ったからだ。


 それを三ヶ所行った後に時間を見計らって【ロック】を【解除】して「小麦粉」が空にばら撒かれる。少し時間差を作っておいた「時限式爆弾」が爆発し――人為的『粉塵爆発』を起こしたのだ。



 粉塵爆発


 可燃性の粉塵が大気中に浮遊した状態で着火、爆発を起こす現象。



 俺だからこそ出来た作戦。魔物達も何故か動きがあまり見られなかったから安心した。正直「くさや」を仕掛けたのは何もやらないよりはマシだと思ったから。俺はそれよりも「小麦粉」が大気中に広まってくれることを願った。夜風が出ているという最高のポテンシャルで運も味方をしてくれたようだ。


 『粉塵爆発』に巻き込まれてしまった動物達や周りにある木々達には申し訳ない気持ちはあるが、これも人を助ける為だ、と思う。



 ◇



 マナに「魔族」と呼ばれた人物は不快そうに顔を顰める。それでも調な事から余裕を見せる。


「人間風情に魔族と呼ばれるのは不愉快だが、寛大な我は許そう。なんせ我は魔族の――「ズドーン!」――ぬ、なんだ?」

「きゃっぁぁぁーー!!」


 自分のことを「魔族」と呼び。真名を伝えようとしたその時、突然大きな爆音が遠くから聞こえてくる。それと共に洞窟内に大きな振動も伝わる。


 マナもその爆音と振動に悲鳴を上げる。その際ゴブリン達はいの一番先に洞窟から外へ避難していた。


 自分達の運命がここで終わると知らずに。


「人間、貴様が何かをしたのか?」

「(ふるふる)」


 声を出せないマナは首を振る。


「なら誰が――この子供を助けに来た――」


 魔族は考え込む。そして人間マナに目をやる。だがそこには既に人間マナの姿はない。


「む? 何処にいった――」


 ほんの少し目を離しただけだった。なのにその姿は蜃気楼の様に姿を消した。そして周りを見ようとしたが――異変に気付くのが遅過ぎた。


「【ふっ飛べ】」

「ぬ、ぐぅ!?」


 何処からかが聞こえてくる。気付いたら後方からやってくるに飲まれ、洞窟の奥に吹き飛ばされる。


 魔族を吹き飛ばした人物は生死を確認することはせず洞窟内から直ぐに離れる。そして被っていたフードを取り、抱えていたマナの頭を撫でる。


「よく頑張ったな。もう安心だぞ」


 流れについていけず終始目を瞑っていたマナはその聞き覚えのある優しい声に顔をあげる。そこにはいつもの優しい須藤の顔があった。


「す、スカーお兄ちゃん……」


 須藤の顔を見て助けて貰ったことに安心したマナは体を脱力させてしまう。


「おっと、危ない」


 落ちそうになっていたマナの体を支え、強く抱きしめる。


「本当に頑張った。頑張った。後は全部俺に任せていいからな」

「うん。うん。信じていた。スカーお兄ちゃんがマナを助けに来てくれるって」

「当然だろ。俺は君の君の――お兄ちゃんだからな!」


 少しでも安心させる様にニカッと笑いかける。



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