第13話 歌と花の都
須藤を乗せた馬車は開かれた道を馬車でゆっくり走行していた。
周りはヨーロッパ風の街並み。『領』内にも沢山の花が所々に咲き誇り、何処からか愉快な演奏が聴こえてくる。そして楽しそうに人々が練り歩く。
フラット公爵の馬車を見た一人達は「公爵様の馬車だ!」「ローズ様お戻りになられたのですね!」と声が上がる。
須藤達を乗せた馬車が門に近付くと近くにいた門番が合図を送る。そして門が開く。そこをダニエルが引く馬車が悠々と通る。
途中、ダニエルが門番と何か話し合っていたような感じがしたが、自分が馬車に乗っていることは特に何も言われなかったので安心した。
「――スカー殿。心配いりません。『伝達の魔道具』で既に門番にも父上達にもスカー殿のことは伝えてありますので」
「そうなんですね」
知らない単語が何個か出てきたが、今はローズの説明に頷く。
ローズの説明もなんとなくはわかる。
恐らく『伝達の魔道具』とはその名の通り遠い場所でも特定の人、又は同じ『魔道具』を持っている人と話せるのだと。
ローズが『魔道具』らしきものを使っていたところは見ていないので、ダニエルが伝達したのだろうと思う。
にしても、『伝達の魔道具』ねぇ。やっぱりこの世界にも『魔道具』はあるんだなぁ。まあ魔石があるから自然……なことなのかもしれないが。ただ全く知らないから、流れに任せるか。
そう思い下手な真似はしないことを誓う。
◇
「――到着しました」
『公爵領』内を数分走行していた馬車はゆっくり止まる。そして御者席にいたダニエルからの言葉を聞いた須藤はローズとの話を止める。
「もう着いてしまったのか、まだスカー殿と話したいことがあったのに……」
不満顔を隠すことなく御者席にいるダニエルを睨む。
その際、須藤は助かったと安堵する。
「ははは、ローズお嬢様。お屋敷でも話せますので。まずはレイン様とマリー様にお会いするのが先決かと――その時にエルザット殿のことも話せますし」
「そうだな。そうしよう!」
ダニエルの話を聞いたローズは笑みを深める。
話を聞いていた須藤はどうせ後でまた話があるのか……と、肩を落とす。
須藤とローズの二人はダニエルの補助の元地面に降り立つ。
「――大きいな、そして……」
ローズの後に馬車から降りると目の前の白と赤の城――お屋敷を見上げて嘆息する。そして屋敷の門の前を見て少し引く。
門の前には何人ものメイド服を着た女性や執事の服を着た男性――使用人が頭を下げて待っていたのだから。
(地球にいた時にテレビや漫画で見たような光景だが……本当に実在したんだな。まあ、公爵家のお嬢様や騎士を見てる時点で予想はしていたが――)
そんなことを思っていると、ローズが楽しそうに須藤を屋敷内に誘う。
「ふふっ。スカー殿。屋敷の中も中々だぞ。さぁ、早く入ろう!」
先に堂々と文字通り胸を張って歩いて行ってしまうローズ。
ローズが近付くとメイドや執事は一斉に――
『『『ローズお嬢様、お帰りなさいませ』』』
と、頭を下げたまま大きな声で挨拶する。
「うむ!
微笑を携えたローズは顔色一つ変えず労う。
「――」
(うわっ、俺もあそこ通るのかよ。でも大丈夫だよな。あれはお嬢様のローズだけで俺はただの客……みたいなもんだから何もないだろ)
内心で色々葛藤する。そんな須藤の肩を横から優しく触れるダニエル。
「エルザット殿。ローズお嬢様に続いて下さい。私は馬車を戻してきますので。では」
「――」
ダニエルは満面な笑みだけを残し、須藤の元を颯爽と離れる。
いや、お前も一緒に行こうよ。馬車なんて誰かにやらせてさ。使用人がこんなにいるんだから――
そう思っても既にダニエルの姿はなく。
しょうがないと決心を決め、自然な姿を装い、使用人達の間を歩く。
「――」
そうだ、無心だ。それに俺の姿は地球の俺じゃないんだから、そんなに恥ずかしがることは――
『『『スカー・エルザット様、この度はローズお嬢様達を助けてくださり、ありがとうございました!!!!』』』
「ッ!!?!!?」
突然使用人達が顔を上げると満面な笑みでお礼を伝えてくる。
驚いたがなんとか声を上げないことに成功する。だが、流石に危なかった。
――そう。そんなに恥ずかしがることはないと思っていた。思っていたのに――現実はそんなに甘くないようで。
いきなりはマジでやめろ。心臓に悪いから。
これで本名でお礼を言われていたら死んでいたと思いながら愛想笑いを浮かべ、頭を下げて通る。
その間も使用人達の顔は輝いていた。
うん。多分使用人の鑑ってこういう人達のことを言うんだろうな。知らんけど。
未だに心臓をバクバク言わせながらローズの背中を追いかけるように歩く。
「スカー殿! こっちですよ!!」
ローズのその声に導かれる様に屋敷内に入る。
始めに目に入るものは床に敷かれる真っ赤なレッドカーペット。そして上階に繋がる螺旋階段。外の日を室内に優しく送り込むステンドグラス。天井に釣り下がる大きなシャンデリア――そして最後に、ローズの隣にいる銀髪の美人な女性。
その人物が誰かわからなかったが、そのままローズの方に足を向けた時、【
【右から何かが来る】と。
「――」
なので無言で右手をその『何か』にぶつける様に出す。
バシュ!
自分の右手に『何か』がぶつかったと共に熱気が四散し、『何か』が爆ける音が屋敷内に響く。そして須藤の右手から煙だけが上がる。ただそれだけで、無傷。
「――」
須藤が無言でそちらをチラッと横目で見ると右手を前に突き出したままの執事服を着た老人が驚愕した顔で見ていた。
須藤は老執事を無視すると流れる様な仕草で、上げていた右手を下ろし、その右手で腰から片手剣を鞘を抜かずに抜刀する。そして自分に向かってくる白銀の刃を目で確認せずに鞘で軽く受け止める。
「――なっ!?」
須藤に向けて隠し持っていたナイフで攻撃した――銀髪のメイドは声を上げて驚く。そのまま動きを止める。
そんなメイドに須藤はつまらなそうな目を向ける。
「――で、貴方達は……誰ですか?」
魔法を受けてもナイフでの奇襲を受けても顔色一つ変えず、微動だにしない須藤はそうクールに伝える。
まぁ、内心では――
(――ヒ、ヒィィィィーーー!!!? あ、頭おかしいだろ!!?!!? 何、いきなり攻撃してきてんねん! 「攻撃しますよ!」って言ってからしろよ、アホンダラ!――俺が【
絶賛奇声を上げているが。
その仮面の下は暴言を吐き、バレない様に震える一般人代表須藤。
須藤は【
本当に神様様様だが、油断も隙もねぇとわからされた瞬間だった。
「――だから言っただろ。スカー殿の実力は本物。私達を助けてくれた、と」
そんな時、ローズのそんな声が響く。
その声を聞いたメイドは須藤の片手剣に当てていたナイフを素早くしまう。そのままその場で土下座。
気付いたら自分に魔法を当ててきた老執事も目の前で土下座をしていた。
『恩人に対して試す様な無粋な真似をしてしまい、申し訳ありません!!!!』
そして、大声で謝られる。
「――」
須藤は状況がわからないままも片手剣を腰のバックルに戻す。自分に土下座をする二人を一瞥して、ローズに顔を向ける。
「すまないスカー殿! 二人がどうしてもスカー殿の実力を試したいと……私も言い聞かせたのだが、納得をしてくれず……」
自分にすまなそうに頭を下げてくるローズ。その話を聞いて納得する。
「――そうですか。ただ別に構いませんよ。自分にも被害はありませんし。『旅商人』として旅をしていると、こういうことは日常茶飯事でしたから――ですからお二人も顔を上げて下さい」
二人を無償で許す。
本当に気にしていない。それにここで『良い人』又は『凄い人』それか『旅の商人』と思って貰えば、ことが進みやすいと思ったからだ。
なので二人に笑みを見せながら余裕の態度を崩さない。
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