貴方が嫌い過ぎて、嘘をつきました。ごめんなさい

仲村 嘉高

第1話:オッペンハイマー侯爵家

 


 侯爵家の第二子である長女として生まれたフローレス・オッペンハイマー

 オッペンハイマー侯爵家の特徴の色濃く出た白銀の髪に、淡い水色の瞳。

 近寄り難い雰囲気の、涼やかな整った顔。


 貴族の義務として通う魔術学園に入学する頃には、無表情で冷たい人間だと評されていた。

 そして、中身の伴わない傲慢な女だとも。


 フローレスは、第二王子の婚約者だった。


 侯爵家の長女だからと幼い頃に結ばれた、第二王子との婚約。

 まだフローレスも第二王子も5歳の頃である。

 当時7歳だった侯爵家の後継者である長男からは「自分の為に役に立て」と、第二王子のフォローをして絶対に逆らうなと言われた。


 既に後継者教育の始まっていた長男、ホープ・オッペンハイマー。

 髪はフローレスより青味が強い色で瞳も青い、冷たくも美しい美貌の持ち主だった。

 性格も冷たく、利己主義の塊のような人物だった。



 フローレスには、一つ下に妹がいた。

 ルロローズ・オッペンハイマーである。

 第三子であり次女のルロローズは、淡いピンクの髪色に同色の瞳をしていた。

 オッペンハイマー家には珍しく、大きな瞳の甘い顔立ちをしており、子供の頃から「可愛い」と甘やかされて育っていた。

 そのせいで我儘な性格に育っていたが、大人達は「子供だから」と許してしまっていた。

 何せ、オッペンハイマーには珍しい可愛い容姿なのだ。

 親戚一同で甘やかしていた。




 人の判断など、視覚での情報に大きく左右される曖昧なものだ。


 ツリ気味の水色の瞳に白銀の髪のフローレスは、表情も感情も無い冷たい人形のようだと周りに思われていた。

 実際に側に仕える使用人達は、そんな事を一切感じていない。

 何かをすれば「ありがとう」と笑顔でお礼を良い、美味しい物を食べれば笑顔を浮かべ、苦手なピーマンには眉を顰める。

 年相応の、可愛い女の子だった。

 厳しい王子妃教育のせいで走り回ったり、飛び跳ねて喜ぶような事は無かったが、決して感情の無い人形のような令嬢ではなかった。


 逆に一つ下のルロローズは、大きなピンク色の瞳にピンク色の髪色のお陰で、優しくて素直で可愛いと評されていた。

 しかし、使用人からの評判は、実はとても低かった。

 物心ついた時から可愛いとはやされ、我儘が許されてしまう環境にいれば、しょうがないのかもしれない。

 使用人にお礼など言った事が無い。

 やってもらって当たり前だから。

 美味しい物を食べるのが当たり前。不味い物は食べないどころか、親や兄の目が無い所では、給仕メイドに皿ごと投げつけたりもした。



 12歳になり、フローレスの成人前の王子妃教育が終了した。

 異例の速さだったが、それを褒めたのは教えた教師だけだった。

 王妃は「第二王子妃だから教育が甘いだけでしょう?王太子妃とは比べ物にならないわ」と言っただけだった。

 自分が15歳まで掛かったので、認めたくなかったのだろう。


 王妃の言葉を真に受けて、オッペンハイマー侯爵夫妻も「王子妃教育の手を抜くとは何事か」とフローレスを叱った。

「今更教育のやり直しも出来ないから、成人してからの教育再開でボロが出ないようにしなさい」

 侯爵夫人は、フローレスに王子妃教育の復習を強いた。

 毎日、食事以外の時間の殆どを、部屋での勉強時間としたのだ。


 フローレスは理不尽な環境に、不満をつのらせていた。



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