38話-③
「もしよろしければ、皆さん――――ここ、神威家で一緒に住まわれませんか?」
あまりにも驚きの提案で、詩乃やひなが立ち上がってしまう程だ。
「ええええ! ひぃ姉と一緒に暮らせるの?」
「お母さん!?」
「恵梨香さん!?」
「ふふっ。昨日連絡頂いた時にうちの人とも相談しまして、神威家なら護衛もしっかりしてますし、何より……私達にもメリットが多いのです」
「恵梨香さん達にメリットが?」
「はい。以前ひなから聞きました。翠さんのところで泊まった際に隣の部屋でも日向くんの力で何も気にすることなく泊ることができたと……」
おばさんの視線を俺に向く。
「今では……私と娘は一緒にお風呂に入ることもできます。ぜひ皆さんを神威家総出で迎えたいと思っております。もちろん、無理強いはしません。ホテルに泊まられるのであれば、神威家で経営しているホテルをすぐに用意させていただきます」
彼女の笑顔からは心の奥から誠心誠意が伝わってくる。
それはきっと俺だけじゃなくて、この場にいる全員が感じたと思う。
「日向はどうしたい?」
「母さん……俺は……」
ふと目が合ったひなも――――どこか晴れた満面の笑みを浮かべていた。
「母さんと凛とルナが大丈夫なら、いいと思う。元々できるだけ凛を守りたい想いがあったから……そこか神威家の屋敷なら願ってもないよ」
「お兄ちゃん!」
凛が俺に抱き着いてきた。
「ひぃ姉と一緒に暮らせるの! すごく嬉しい!」
「日向くん。ありがとう。これからもうちの娘共々よろしくお願いね」
そんな中、詩乃がジト目で俺に近付いてきて、俺の腕をツンツンと押す。
「ひなちゃんと一緒に暮らすの~日向く~ん」
「し、詩乃……」
「うちに住んでくれてもいいのよ?」
「それは嬉しい提案だが……詩乃の家は斗真さんが許してくれないと思う」
「あ……バカ兄……」
「あはは、ありがとうな。詩乃の気持ちは本当に嬉しい」
「えへへ~でも私も毎日ひなちゃんの家に迎えに来てるから、これで日向くんとも毎朝一緒に学校に行けるね」
「えっ」
「ん? 日向くんも一緒でしょう?」
「そ、そう言われてみればそうだった……」
そもそも誰かと一緒に登校するのは想像したことがなかったな。
一応小中と同じ方向だったのもあって、妹と毎日一緒に通ってはいた。
でも友達と一緒に登校するなんて想像だにしなかった。
「あれ? もしかして日向くんってもう寮生活じゃなくなるのかな?」
「そうだよ~」
「うぅ……となると僕一人になっちゃうのか……」
「ふふっ。でも午後からはまたみんなで一緒にダンジョンに入れるし、いいんじゃない?」
「それもそうだね。じゃあ、日向くんの分の朝ごはんも僕が食べよっ~と」
「結局宏人くんは飯が食べればいいんじゃん!」
それにみんな笑い声が上がった。
「俺からも一つ、みんなに言わないといけないことがあって……以前相談していた女神島勉強会の招待なんだけど、受けたいと思う。もしよかったら……」
「「「行く!」」」
言葉が終わるよりも速く手を上げる三人。
事前に相談していたとはいえ、女神島という知らない場所にまで一緒に来てくれるなんて、俺は本当にいい仲間を持ったな。
「ああ。よろしく頼む」
みんなで女神島の勉強会に参加することが決まって、次の大きな目標ができた。
用意してくれた俺達の部屋を確認して、持ってきた荷物を出したり荷解きをした。
神威家の屋敷は普段からメイドさんが行き来しているからプライベート的な問題があるのかと思いきや、俺達が過ごす部屋は別館のようなところを用意してもらえた。
初めて知ったことなんだけど、横開きの和風扉は魔道具の作りになっていて、開けれるのは登録した人のみだという。
もちろん力で壊すことはできるけど、それらもセンサーが働いてるから、何かが盗まれる心配はないみたい。
部屋は廊下から見て一番左が母さんの部屋、隣が茶の間、その隣は凛とルナの相部屋、その隣が俺の部屋となっている。さらにそれぞれの部屋は廊下に出ずとも、お互いの部屋の壁も襖になっているので、行き来しやすくなっている。和風屋敷ならではの作りだ。
うちの実家は洋風の作りになっていて、部屋がそれぞれ壁で遮られていたから、とても新鮮な気持ちになる。
魔道具の一種でもある襖だからか、見た目と違って音が漏れることはなく、耳を澄ましても隣の部屋の音を聞こえてこなかった。
まあ……詩乃なら聞けるかも知れないけど。
それと、俺の部屋の隣にもう一つ部屋があるのが気になる。ちゃんと中には家具が並んでいたから。
「おばさん? こっちは誰の部屋ですか?」
「そっちは――――うちのひなちゃんの部屋よ」
「ひなの部屋!?」
「私の部屋?」
本人も目を丸くする。
「ええ。日向くんの近くなら普通の部屋で生活も眠ることもできると聞いて……できるなら私達にも普通の部屋で過ごしてもらいたいから……」
「日向! 恵梨香さんの言う通りよ」
母さんだって知らなかったはずなのに賛同なんだな……。
ま、まぁ扉はお互いに開けないと開けないようになっているし……同じ部屋で寝るわけではないから問題ないのか……?
ひなは、絶氷がすごい勢いで出していて顔を赤く染めていた。
思わず、俺まで顔が熱くなるのを感じる。
もちろん、また詩乃から肘でツンツンと押されたのは言うまでもない。
その日の夕方にはおじさんも帰ってきて、俺達を歓迎してくれた。
翌日。
いつもなら寮から登校するのだが、今日からは神威家からの登校となる。
寮に関しては既に母さんが学校側に連絡をしてくれた。
ただ、探索者支援の学校なのもあり、寮の部屋はそのまま三年間使うことができるそうだ。
でもこれからはあまり泊まることもないだろうし、清野さんに先に挨拶に行かないとな。
「おっはよ~」
茶の間で朝食をご馳走になってから少し待っていると、詩乃がやってきた。
「おはよう! 詩乃ちゃん」
「わあ~朝からひなちゃんの笑顔が見れるなんて~幸せ~」
朝一番に抱き合う美少女二人はそれだけで絵になるな。
「凛。学校終わりは必ず迎えに行くからな」
「わかった!」
凛も誠心高校近くにある誠心中学校に通う手続きを今日行う。
妹の成績なら問題なく編入できるだろうし心配はない。
終わる時間は大体把握してあるし、迎えに行けば問題なさそう。
となると……自然とパーティーでダンジョンに潜る時間も減ってしまうが、これに関してはみんな納得してくれている。
念のため、凛にはスキル『状態異常無効』を『絆ノ糸』でコピーしておく。
母さんやメンバー達にも試してみたんだけど、凛以外の人にはスキルをコピーさせることはできなかった。
厳密には、テディもできたので、テディにも『状態異常無効』を与えている。
「「いってらっしゃい~」」
凛とルナに見送られながら俺達は神威家を後にした。
「それでね~今日は新商品が~」
「すごく美味しそう~」
「今日帰りに寄ってみよ! 凛ちゃんもきっと好きになると思う!」
前方を歩く二人は、どうやら今日発売の新商品の話のようだ。
いつもだとこうして笑顔で話しながらの登校はできなかったんだよな。
そう思うと、神威家に住まわせてもらったのも良かったのかもと思えた。
さすがに初日は緊張感もあったが、スキルのおかげで眠りに関しては問題ない。
「日向くんも行くでしょう?」
「ああ。詩乃が美味しいというのは、美味しいからな」
「えっへん!」
それにしても、校舎前なのもあって大勢の生徒からの視線が集まる。
いつもだと無表情のままの二人だからな。いつもよりも注目している気がする。
宏人はもうクラスに入ったのだろうか?
クラスの前に着くと、詩乃が惜しそうに「またお昼ね~」と手を振る。
詩乃も宏人も同じクラスだったらな……まあ、ないものねだりをしても仕方がない。
丁度クラスに入った時、扉から一番近い凱くんと目が合って、相変わらずの舌打ちをされた。
通常授業が終わり、俺達は屋上でいつもの昼食を食べてから、校長先生の執務室を訪れた。
「あれ? 誰もいないみたい?」
ノックしても返事が返ってこなかった。
その時、後ろから馴染んだ声が聞こえた。
「何だ。お前達か」
黒鉄先生だ。
「先生。校長先生に会いに来たんですが……」
「校長はちょっと出かけててここしばらく帰ってきてない」
「そうだったんですか」
「もしかして、勉強会の件か?」
「はい。今回の勉強会……ぜひ参加させて頂きたくて」
「ほお。決意が固まったようだな。そちらの一件は俺に一任されている。引率も俺になっているんだ」
「そうでしたか! 先生が一緒に来てくださるなら心強いです!」
「そう言ってくれるのは嬉しいぜ。他の招待状はどうするんだ?」
「メンバーのみんなも一緒に参加します」
「わかった。では日向とメンバー三人で一緒に行くことにしておく。まだ二週間程あるから、それまでに研鑽を積むようにな」
「はい……!」
こうして俺達の女神島への勉強会が決まった。
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