アヴァロ邸でのお茶会シーン
●お茶会は開かなかったことにしたため没
●ラミー子爵令嬢アリエルも存在を匂わすだけに変更したため没
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水を打ったような静寂とは、こういうことを言うのだ。それに奇妙な感動を覚えつつ、レベッカはどうしたものかと眉尻を下げた。
うららかな日差しの元で、和気あいあいとしていたアヴァロ邸でのお茶会は、鶴の一声で凍りついていた。
「まあ、アリエルさん……。わたくしは、この靴のデザイン素敵だと思いますけれど……」
「そうですわよね。それにこちらは殿方用でしょう? 品があるのに華やかで、夜会にぴったりではありません? 珍しい柄ですし、夫が履いてくれたら鼻が高いわ」
「こちらの靴はこのレースがふんだんにあしらわれていて、まるで足にもドレスを着ているようで素敵ですわよ?」
口々にレベッカの靴を褒めてくれる婦人方の声。しかし、場を凍り付かせた本人は不快そうに顔をしかめただけだった。
アリエル・キンバリー。ラミー子爵令嬢でレベッカと同い年の十七歳。小柄だが輝くような金髪と美しい顔立ちは、天使が実在するならばこうだろうと思えるほどだ。
しかしその美しい顔は、今は不機嫌に曇っている。
レベッカは貴族のご婦人方を招いて、邸宅でお茶会を開くようになっていた。それもこれも、レオンが夜会へと同伴してくれたからだ。
アリエルは、今日が初参加だった。最初から不機嫌な様子ではあったが、靴自体はいいデザインだと褒めてくれたのに。
「ええ、靴は素敵です。それは認めます。ですけど、やはり平民がわたしたち貴族に靴を売るなんて図々しいにも程があるわ」
強い口調で放たれた言葉に、皆二の句が告げなくなっている。
相手は貴族、多少の反発もあるだろうとは思っていた。それでも、面と向かって言われるとこたえる。
レベッカは、レオンと婚約破棄になれば一生平民のままだ。それは変えられない事実。婚約破棄を破棄してもらえるよう頑張るしかないが、それでも駄目ならもう努力しても報われる域ではないのだ。
「一緒に行きましょうと誘われたから仕方なく来たけれど、やっぱり平民に直接物を売りつけられるなんて屈辱だわ」
苛々した様子で、アリエルはぷいと顔を背けた。
「でも、平民が働いてくださらないとわたくし達が着飾れませんし……」
「そういうのは、商いをしている貴族に任せれば良いのよ。わたしたちは、その貴族から買う。それが当然の慣例だわ」
「そうですけれど……アヴァロ男爵のご息女ですし、全くの平民とは違うのでは……」
しゅんとうなだれた婦人が、名残惜しそうにレベッカの靴を見る。彼女は子爵婦人で、レベッカの靴を大層気に入ってくれていた。お茶会には毎回来てくれ、もう何足か予約してくれてもいる。
ここでレベッカが引けば、彼女にも申し訳が立たない。
「あの、アリエル様。図々しく思われたのなら申し訳ありませんわ。お茶会に足を運んで下さって、靴を褒めて下さり感謝申し上げます」
「心にもないことを……」
「平民に物を売りつけられるなんて不快ですわよね、理解致しますわ。気に入らなければご購入して頂かなくて大丈夫なのです。全員に売ろうとか思ってませんの、お気に召した方だけ買っていただければ……」
「じゃあ、貴族相手ではなくて平民相手にやったら良いでしょう。それならわたしだってなにも言わないわ」
「……そう、ですわね……おっしゃる通りなんですけれど……」
良い物を売りたい。それは別に靴ではなくても良い。高い物を売りたいわけでもない。庶民向けの、安価で見栄えのするものや実用品を売るのだって素晴らしいと思う。
だが、これまでの二年間、レベッカは貴族相手の商売をするのだという未来を思い描いて来た。それが夢だった。
その夢が潰えそうな今、なにもせずに諦めたくはない。
レオンの話を出す
それが一番気に入らないとアリエル。レオンは自分の婚約者になると宣言。
アリエル退場。
お茶会再開、軍靴大量納品の噂話
シヴァ公国と戦でもするつもりかしら怖いわ
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