第69話~希望の遺跡、裏5階層~
「本当に大きいですね」
ヴィクトリアがぽつりと呟く。
何の話かと言うと目の前に広がる地底湖のことである。
そう、ここ裏5階層は地底湖エリアだった。
ここの地底湖はとても広く対岸が見渡せない程であった。
また、この辺りはヒカリゴケという光を放つ植物が自生しており、非常に明るい。
そのおかげで湖の中までよく見えるが、ここの湖は余程底が深いのか、底の方までは見えなかった。
俺たちはこのエリアを湖に沿って歩き続けている。
他に行く当てがないからだが、同じような景色が続いて少々退屈だった。
あまりにも退屈だったので、暇を持て余した女性陣がおしゃべりを始めた。
「ここがカイザー湖だったら、ボートとか出して楽しめるのに」
「カイザー湖ですか?」
「ええ、私の故郷のヒッグスタウンの南にある湖です。風光明媚な場所で、観光客も多いのですよ」
「カイザー湖か、聞いたことはあるね」
「まあ、有名ですからね。私、あそこには幼い頃、旦那様と行ったことがあります」
「「ほほう」」
エリカの話にリネットさんとヴィクトリアが食いついてくる。
「それは是非とも聞いてみたいな」
「ワタクシも聞きたいです」
二人とも、野次馬根性丸出しだ。
そんな二人にエリカはふふふと笑いながら話し始める。
「いいですよ。ただし、恥ずかしので1個だけですよ。それでもいいですか?」
「「是非!」」
「それでは、話しますね」
エリカはおもむろにコホンと一つ咳払いすると、話し始めた。
「あれは私と旦那様が、5つか6つの頃でした。私たち一家と旦那様一家が連れ立ってカイザー湖側の我が家の別荘に旅行に行ったのです。その時、旦那様と二人きりでボートに乗って、旦那さんが一生懸命ボートを漕いで沖まで行ってくださって。それで、私が湖の中を覗き込んだ時に湖に落ちてしまいまして、それを旦那様が湖に飛び込んで必死に助けてくれたのです。あれ以来、私は旦那様にぞっこんになってしまいました。その後、帰ったら両親に怒られたりもしましたが、私の中では一番の思い出です」
「「うわあ、いいですね」」
エリカの話を聞いたヴィクトリアとリネットさんが歓喜の表情を浮かべているが、横で聞いている俺は正直勘弁してくれと思った。
エリカが話していることは概ねその通りなのだが、人に話されるとちょっと気恥ずかしく感じるのだ。
だが、喜んでいる3人にやめてくれとも言えず、俺は黙って聞くのみであった。
★★★
「貸しボート小屋?」
しばらく湖に沿って歩き続けると変化が現れた。
小さな掘立小屋があったのだ。
小屋の入り口には小さな看板があり、『貸しボート小屋 利用料銀貨1枚』と書いてあった。
ボートを借りるのに銀貨1枚とか、ちょっとお高いな。
……って、違う。問題はそこではない。
こんなダンジョンの奥深く、冒険者以外誰も来ないような閑散とした湖に貸しボート屋があるのは実に不自然な光景だった。
俺たちは小屋を抜けて奥の方に移動してみた。
すると、そこには湖に面して桟橋が設置されており、ボートが鎖でつながれていた。
ボートの横にはご丁寧に『料金箱』と書かれた箱まで置かれていた。
「これは、ボートを借りて湖の沖の方まで出ろという明示なのかな?」
「多分、そうじゃないのかな」
「ワタクシもそう思います」
「他に手もありませんし、ここはボートに乗るほかないのでは?」
どうやら全員ボートに乗るしかないと考えているようだ。
「よし」
俺は財布から銀貨を1枚取り出すと料金箱に入れる。
チャリン。と、料金箱の底に硬貨が当たった乾いた音がする。
そして、再びボートを見ると、ボートを繋いでいた鎖が跡形もなく消えていた。
「それでは、行くとしますか」
俺たちはボートに乗り込んだ。
★★★
湖の上では敵が出た。
魚タイプやワニタイプといった水棲の魔物たちだ。
だが、どれも大して強くない。
「『天雷』」
「『電撃』」
水棲の魔物は、大抵の場合、電撃の魔法が弱点なので俺がエリカの電気を放つ魔法で、サクサク倒して行けた。
もちろん、ワイルドアリゲーター(肉が高く売れる)、竜麟魚(鱗が防具の素材として高く売れる)のようなお金になる魔物は回収してはいるが。
「おや、あれは何ですか?」
湖の上を進んで行くと、ヴィクトリアが何かを発見した。
ヴィクトリアの指さす方を見ると、どうやら島っぽいものがあるらしかった。
「よし、行ってみるか」
俺たちは島に上陸した。
★★★
「遺跡ですね」
「一つ目巨人ですね」
島に上陸すると、裏4階層で見たような巨大な祭壇型の遺跡があった。
そして、その前にはこれまた巨大な一つ目巨人が陣取ってきた。
「しかも、何だか余裕ぶってますね」
しかも一つ目巨人は、ヴィクトリアの言う通り、余裕こいて寝ていた。
多分こいつはこの遺跡の門番なのだろうが、無警戒にもほどがあるなと思った。
「こいつが寝ているすきに横を通って行かないものかな?」
リネットさんが願望を口にするが、それは無理だと思う。
「皆武器をとれ」
俺は全員に指示を出すと、ゆっくりと一つ目巨人に近づいて行く。
パチッ。
俺たちの気配に気が付いたのか、一つ目巨人が目を覚ます。
やはりな。
俺は自分の判断が間違っていなかったことを知り、安堵する。
「『天雷』」
俺は一つ目巨人の目に向けて電撃の魔法を放つ。
こういった目のでかい怪物の弱点は目と相場が決まっているからだ。
電撃は一直線に一つ目巨人に向かって行く。だが。
バチイン。
一つ目巨人がその太い腕で電撃を防いだ。すさまじい音が周囲に響き渡る。
まあ、さすがにそう上手く行くはずがないか。
俺は作戦を切り替えることにした。
「俺とリネットさんで突っ込むから、エリカとヴィクトリアは援護してくれ」
「「「了解です」」」
作戦が決まったのですぐさま準備する。
「『神強化』」
「『筋力強化』、『防御効果』」
いつものように支援魔法をかけてから突っ込む。
俺たちが一つ目巨人に接近していくと、突然一つ目巨人の目が怪しく光り始めた。
「怪光線?」
すると、一つ目巨人の目からビームのようなものが放たれ、俺とリネットさんに襲い掛かってくる。
「くっ」
俺はリネットさんの前面に出てその光線を受け止める。
魔法で強化しているおかげでダメージはそれほどなかったが、それでもピリッと来た。
そんな俺たちを見て、一つ目巨人は立て続けに怪光線を放ってくる。
「リネットさん、俺が光線を防ぎますので奴に一撃加えてください」
「心得た」
俺は空中に飛び上がり、全力で光線を防ぎにかかった。
バチン。バチン。
光線が盾に命中するたびに凄まじい音が鳴り響き、俺の体が揺れる。
そうやって俺が一つ目巨人の攻撃を防いでいる間にリネットさんが一つ目巨人に迫っていく。
「ちぇすとおおぉぉぉぉ」
十分に一つ目巨人に近づいたリネットさんが飛び上がり、一つ目巨人の向う脛に一撃を加える。
やったことがある人はわかると思うが、何かの拍子にここを当てたりすると滅茶苦茶痛い。
それは一つ目巨人も例外ではなかったようだ。
「ぎゃああああ」
と、大気が引き裂けそうな勢いで悲鳴をあげ、膝を抱えてうずくまる。
「今だ!」
俺は隙だらけになった一つ目巨人に接近すると、その目に剣を突き刺せにかかる。
それを見て、一つ目巨人が目を閉じたが、そんなのは関係なかった。
何せこいつの瞼には、依然戦ったキングエイプほどの強度は無いのだ。
ドスッ。
俺の剣は一つ目巨人の瞼を貫通し、その目に突き刺さる。
「ぎょおおおおお」
一つ巨人が再び大きな悲鳴をあげる。
急所である目をやられて一つ目巨人がのたうち回るが、もちろんこれで終わりではない。
「『天雷』」
俺は一つ目巨人の目にめがけて電撃の魔法を放った。
膨大な量の電撃が一つ目巨人の体を駆け巡り、バタンと一つ目巨人が地面に倒れ伏し、動かなくなった。
だが、まだ心臓の音が聞こえるので、かろうじて生きてはいるようだ。
これで、一つ目巨人は動けないただの肉隗になり果てたのだった。
「このまま放っておくのも何だかな。せめてもの情けだ。楽にしてやろう」
このまま放置して苦しませるのもなんだと思った俺は、一つ目巨人の頸動脈を切ってやった。
斬られた血管から大量の血液が流れだし、一つ目巨人は息絶えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます