孤高のぼっち王女に見いだされた平民のオレだが……クーデレで理不尽すぎ!?

佐々木直也

第1章

第1話 そうですか。ではさようなら

「つまり、王族から追放ということですか」


「誰もそんなことは言っておらんだろう!?」


「分かりました。では出ていきます。今までお世話になりました」


「ちょ、ちょっと待ちなさい!」


 きびすを返したわたしに、お父様が慌てて声を掛けてきます。


 ですがわたしは無視をして、お父様の執務室を出て行こうとしましたが、お父様の側近に行く手を阻まれてしまいました。


 わたしは仕方なく振り返ると言いました。


「今さらなんのご用でしょう? わたしはすでに勘当された身だというのに」


「だから追放とか勘当とか言ってないだろう!? なぜそうなるのだ!」


「わたしにとっては言われたも同然ですが?」


「ぜんぜん違う! わしは『ちょっと外の世界を見てきなさい』と言っただけだろうが!」


「カルヴァン王国第一王位継承者にして王家唯一の嫡女であり、おまけに超絶天才美少女であるわたしが──」


「いやお前、自分で超絶天才美少女とか」


「──そ・ん・な・わたしが、外の世界を見る必要などありません。ゆえに王族追放だと判断したわけですが?」


「ほんと……そういうところなんだよ、まぢで……」


 お父様は盛大にため息をついてから言ってきました。


「確かに、今この国が繁栄しているのはお前のおかげだということは、誰もが認めることだ。お前が文武両道の天才だということは間違いない」


「美少女をお忘れですよ?」


「いやだから……そういうことを自分でいうものじゃないんだよ……」


「謙虚とは、行きすぎると嫌みになるものです」


「そういう話をしたいのではない! とにかく、お前が天才なのは認めるが、だからこそなのだ」


「と、言いますと?」


「お前は……天才であるがゆえに、臣民は元より王侯貴族の感情というものがまるで分かっておらぬ」


「そうですか。ではさようなら」


「おい待たぬか!?」


 わたしは再び退室しようとしたのですが、やはり執務室の扉は閉ざされたまま。側近が三人も、両開き扉の前で立ちはだかります。


 彼らを蹴散らして出ていってもよかったのですが、王族追放された身では誰も庇ってくれないでしょう。そうなると、追っ手を巻くのがいささか面倒ですね。


 冷静なわたしはそう判断すると、やむを得ず、再びお父様と対峙しました。


「お父様は、いったい何をおっしゃりたいのです?」


「いや……もうぶっちゃけるよ……」


 お父様は、なぜか疲れ果てた感じで言ってきます。疲れているのはわたしのほうだというのに、優しいわたしは文句一つ言わずに耳を傾けました。


「お前、人の気持ちがぜんぜん分かってないから、王宮を出て見聞を広めてこい」


「それで?」


「え……?」


 わたしの問いに、しかしお父様は言葉を詰まらせます。


 仕方なく、わたしはため息交じりに補足しました。


「つまり結論としては、わたしがこの王宮から出て行くことに変わりないわけでしょう?」


「ま、まぁ……そうだが……」


「だからお世話になりました、と言ったのですが?」


「いやだからその物言いでは、お前はもう二度と帰って来ないかのような──」


「ええ、二度と帰ってくるつもりはありませんよ? 勘当の上、王族追放なのですから」


「な、なぁ……もしかして、怒ってる?」


「何をおっしゃってるのです? 人の気持ちが分からず無神経でデリカシーのないKY娘と罵られたくらいで、わたしが怒るとでも?」


「怒ってるよねそれ! しかもそこまで言ってないが!?」


「というわけでお父様。これまでお世話になりました。もう二度とお会いすることもないでしょうけれどもお元気で」


 そうしてわたしは三度きびすを返すと、通せんぼしていた側近に睨みをきかせます。


 さすがに三度目の顔は持ち合わせていないですよ? という気迫を放つと、側近達は青ざめて道を空けました。


「お、おい! 待つんだ!!」


 背後からお父様……いえ、かつてお父様だった国王が声を掛けてきますが、わたしは無視を決め込み執務室を出ます。


 こうしてこの日──カルヴァン王国第一王女として国のために尽力してきたわたしは、理不尽にも王族追放されたのでした。


 さて、これからどうしましょうか。


 わたし個人でいえば、今や、一生掛けても使い切れないほどに私財もありますし、だから慌てて仕事をする必要もないのですけれど。


 しばらくは休暇と思って、様々な場所を観光でもして回りましょうか──


 ──などと、このときは考えていたのですが。


 まさかこのあと、追放された王城に舞い戻るはめになり、いわんや無能な王侯貴族を巻き込んでの大乱闘になることなど、いかに超絶天才美少女のわたしと言えども、さすがに夢にも思っていなかったのでした。


 しかもたった一人の男──甲斐性無しで平凡で冴えなくて、この王城から追放されたアイツのせいで!

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