濡れ衣
「放課後、理科室に来なさい」
先生に呼び出された。理由は多分‥あれだ。
「お前、関係ないじゃん」
まるも、あの事だと思ったんだろう。
「まぁ面白そうだから行って来るよ」
給食前の休み時間、まるとコソコソチーズを食べていたら、サキが教室に入って来た。
「ねぇ聞いた?昨日かー子達が、みい達と塚さんシメたらしいよ」
「はぁ?なんで?」
塚さんは、みい達の中学からの転校生。少し前に、かー子が塚さんを指差し耳打ちしてきた。
「ねぇ知ってる?あいつ‥ぶりっこなんだよ」
だからなんなんだ。興味がない。
「可愛いんだからいいんじゃない?あたしとあんたが同じ事しても、ぶりっこって言われないよ。可愛くないから」
それ以来、話をされる事もなく関わりはないものかと思っていた。
サキの話しによると、塚さんが前の学校のみい達に、かー子達がみい達の悪口を言っているとチクって、みい達がかー子達を呼び出し話した結果‥チクった塚さんが一番悪いとなり、塚さんを公園に呼び出し正座させ、暴行している所を見ていた人に通報されたとの事だった。
みいと言えば、瀬戸の女だと知らされたばかりだ。あんなに感じがいい子だったのに‥よりによって弱い者イジメしか出来ない、かー子の口車に乗せられたのか結託するなんて‥趣味が悪い。塚さんの事はよく知らないが、あんな大人しそうな子を寄ってたかってシメるなんて、自分の顔に泥を塗るようなもんだ。
かー子達には前にも巻き込まれた事がある。放課後いつもと違うトイレに行くと、何故だか、そこにいた子達が焦った様子だった。奥を見ると、かー子の連れがホースを持って立っていた。何かやってんな‥と思い近づこうしたら先生が入って来て、訳も解らず全員教室に連れて行かれた。あたし達は関係ないと証言があり解放された。
実はあの時、トイレの個室に一人の女子が閉じ込められていて、ホースで水をかけられていた。あたし達が入って来たから慌てて、かー子が個室に入り、騒がれないように、その子の口を塞いでいたらしい。その前の体育の時間にも、その子をマットに入れグルグル巻きにしたらしく、それを見ていたクラスの子が先生に報告して発見されたという事があった。そのやられた子も大人しそうな子だ。物言わねような子をイジメて何が楽しいのか?その時、かー子に一言、言ってやろうと呼び出したら、自分で持ってきたカッターの刃で自分の手を切り、痛い痛いと騒ぎ自滅した。カッターの刃を指と指の間に挟み、シュッと格好良く切りたかったんだろう。ドラマの見すぎた。考える事も単純で浅はかで解りやすい。雑貨屋で偶然会った時も、見知らぬ女の子を指差し『あいつガンつけてくんだけど』耳打ちしてきた。実に下らない。友達が面白がって煽ると誰にでも因縁をつける。とにかくイキリたがりで面倒な女だ。何故か不思議な事に、いつも手下みたいな友達を連れている。あたし達に関わらない以上は眼中にないから、ほっといた。そんな奴らと一緒に呼び出しを食らうあたしって‥情けない。
呼び出し上等。一泡ふかせる。
理科室に行くと案の定、かー子達が顔面蒼白で座っていた。あたしを見ると驚いて目を見開いた。黙って並んで座ると、先生が入って来て紙を配って歩いた。
「昨日あった事を全部書け」
威圧的に言った。その時、手をあげた。
「何の事書けばいいんですか?意味わかんないんですけど」
大声で言うと、先生はツカツカと目の前ににじり寄った。
「昨日あった事だよ」
バンと机を叩いた。
「何の事だか分かんないんですけど~教えて下さいよ」
先生から目を離さなかった。
いつもの生活指導じゃないな‥と思っていた。暫くにらみ合い、他の先生がその先生を連れて廊下に出て行った。かー子達を見ると皆うなだれている。五人もいたのか‥
ほとんど話した事のない面々。
「あんたら、いいかげんにしなよ。最低だな」
怒鳴ってやった。胸糞悪い。
先生が慌てた様子で戻って来た。
「もう帰っていいぞ」
「はぁ?帰っていいぞって何?どういう事ですかね?」
間もなく仲の良い先生が入って来た。
「悪かったな。とにかく教室から出てくれ」
「呼び出す時は、ちゃんと確認して下さいね。こんなアホみたいな事はしませんから」
大声で言って教室を出た。
「先生がいたらな~お前は関係ないって分かってたんだけどな。悪かったな」
この先生は、いつも何かと気にかけてくれる。一人でも違いが分かってくれたら救われる。
『お前らは筋を通せば話がわかる』といつも言ってくれていた。
「もういいよ。帰るわ」
下駄箱に行くと、サキ達が待っていた。
「大丈夫だった?」
「うん。少しイジメてきた」
アハハ…
「かー子の得意分野じゃん」
「かー子達、死んだ魚みたいな顔してたわ」
「何それ…」
アハハ…
「いや、死んだ魚のが、まだマシだわ。あいつらは食えない」
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