第3話 カノンの誤解

 入学式を終えた私は、来賓として出席していた二人とまた馬車に乗って帰る。

「へぇ、じゃあ初日でもう友達できちゃったのねぇ」

「友達……と呼んでいいのかは分からないけど」

「それは友達だよ」

 柔らかな微笑みとともにブルーノにそう言われると、そうなのかなと安心する。

「ねぇ、私たちの挨拶はどうだった?」

 来賓として参加していた二人は学園長の後にそれぞれ挨拶をしていた。短い挨拶だったけどその間はシルヴィだけでなく他の生徒も目を輝かせていて、やはり二人は魔術を志す者にとっては憧れの存在なのだと改めて思った。

「二人ともちゃんとしてるなって、思った。私もいずれはこういう挨拶しなきゃいけないんだろうけど、出来るのかな……」

「少なくともカノンが学園に通っているうちは代わりに出るから大丈夫よ。それに私たちもたまにしか頼まれないし」

 そうか、在学中に公の場で挨拶をすれば顔が判る。それを見ていた人が学園に一人でもいれば、たちまち噂は広まってしまう。

「そういえば今回の来賓はカノンも呼ばれてたのよ、私が断ったけどね」

「カノンが来られないと聞いて落胆する学園長の顔は見ものだったよ。入学式に生徒として参加する予定だったとは夢にも思わなかっただろうな」

「ほんと、笑いを堪えるのに必死だったわ」

 大きな口を開けて楽しそうに笑うクレアとブルーノ。よく塔の魔術師が二人はお似合いだと話しているが、私もそう思う。

「挨拶の途中に前から見てて気付いたけど、パスカル殿下と同じクラスになったみたいね。殿下とはもう話した?」

「まだ……殿下に私が塔にいるところを見られてたら、正体がバレてるかもしれない。だからあんまり関わりたくないかな」

 私がそう答えると、クレアがそんなことを気にしていたのかとでも言うように喋りだす。

「基本的に直系の王族は王城から外に出ないよ──特に子どものうちは暗殺を警戒してね。だからあんまり心配しなくてもいいって」

「……そっか、じゃあ大丈夫だね。明日から安心して学園に行けそう」

 たしかに血が絶えてしまわないように王子を外出させないのは当然のこと。大きな心配が消えて気が軽くなった。

 すぐに正体がバレて学園生活は二日で終了なんてことはひとまずなさそうでよかった──そう肩を撫で下ろす私を見て、ともに馬車に揺られている二人も安心しているようだった。




「おはよう、カノン」

 翌日、あちこちに貼られた案内にしたがって教室まで行くと、昨日も聞いたよく通る声が私の名前を呼ぶ。おはよう、と短く挨拶を返したところでシルヴィがすでに席に座っていることに気が付く。

「カノンはあたしの前の席ね──ほら」

 シルヴィが視線で指した先にはでかでかと貼りだされた座席表があった。見れば同じ列にシルヴィと私の名前が書かれていて、さらに私の左隣にはパスカル殿下の席がある。昨日は警戒しなくてもよさそうという結論になったが、だからといって隣の席というのは運命の悪戯だと思う。

 とりあえず机の横に鞄を置き、椅子に腰を下ろす。今日からいよいよ学園生活が始まる。

 せっかく同じ時間いるなら学園ですること全てを楽しもう。クレアも言っていたけど、塔のみんなもそれを望んでいる。そして同時に学園の中で何か新しい魔術のヒントになるものがないかも探しておこう。

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