第21話 新たな方向
それから僕は新たな方向を考えた。
ギターに関してはもう、一歩距離を置く事にし、シンガーソングライターとして一人で活動してみようと思った。
以前から、バンド用以外にもちょこちょこ曲は作っていて、この機会に、それを使って自分一人の力、センスを試してみたくなったのだ。
そして僕は、シンガーソングライター(弾き語り)の活動を始めたのである。
七月にはシンガーソングライターとしての初めての弾き語りのライブも行った。
僕はそれまでずっとバンドで活動してきて、ここにきていきなり一人での活動というのは、色々と戸惑う事も多かったが、ライブも積極的にやり、その結果云々は別にして、なんだかんだ、僕は前向きに活動していた。
この頃の僕は、自分で言うのは変で気持ち悪いが、人生の中で一番「いい奴」だった時期である。
最もそうあろうとしていた時期、とも言えるが。
その具体的な内容は、例えば、所謂飲み会とかそういった催しを自分からどんどん開き、みんなにまんべんなく気を遣い、いつも場を盛り上げようと努め、自分の事よりもまず周りの空気、全体の空気を一番に大事にし、たとえ自分がどんなに疲れていて、元気が無いときでも、無理矢理にでも明るく振舞い、相手を気遣い、相手を笑わせ楽しませる事を常に最優先し、とにかく、僕はいつも明るく楽しく優しい、いい奴だったのである。
シンガーソングライターの活動をしながら、僕はしばらくこの「いい奴」の時期を穏やかに過ごしていた。
が、やがてこの「いい奴」とその穏やかさは、実は自分にとって、道化と抑圧でしかない事に、後になって僕は気づかされるのである......。
一人での活動を始めてから三年経ち、二十八歳の春。
ふと、僕はこのままでは駄目だと感じた。
ここ三年間ひたすらライブ活動を続けてきたが、このやり方では駄目だと思ったのだ。
それなりに楽しい日々だったが、やんわり疑問を感じ始め、それまでも考えていたが、また改めて将来を考えるとジワッと不安になり、ある日、急に目が覚めたように「変えないと!」と、半ば焦りながら思ったのである。
僕は本当に真剣に将来の事を考えると、必ず両極端な未来を想像してしまう。
「成功。充実感に満ちた輝かしい未来」
「孤独死。箸にも棒にもかからず路頭に迷った挙句に一人野垂れ死ぬ」
この両極端な未来。
つまり、希望と絶望を頭の中で行ったり来たりして、僕の心は、楽しくなったりたまらなく怖くなったりを繰り返すのだ。
この揺らぎは、ハッキリ言ってストレスである。
結局不安である。
なのでなおさら「なんとかしないと!」と思うのだ。
そこでまず考えたのが、それまではライブばっかりになってしまってやらずじまいだった、ある程度しっかりとしたCD(アルバム)の制作である。
とはいっても一人な上お金も無いので、現状でできうる方法で最大限やってみようと決め、誰の手も借りず全てを自分一人の力でやる事にした。
なぜ自分一人の力でかというと、自分には本当に才能があるのか?という自身に対する試験の意味もあったからだ。
これでしょーもないものしかできなかったら、もう音楽は辞めようとも考えた。
この作業がきっかけとなり、本当の意味で、深く、真の意味で、僕は自分自身と向き合う事になるのである。
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