5-16 ティエスちゃんは徹夜確定
「それマジで言ってる?」
「大マジよ。でなきゃ私がわざわざこんなところまで来るもんですか」
若干引き気味のティエスちゃんだ。そんな南斗人間砲弾! みたいなことすんの? 俺が?
だいたい、この世界において空は不可侵の領域だ。ロボットだなんだが闊歩してるのに飛行機械の一つも見たことがないんもんよ。俺の研究が差し止められたのから鑑みても、意図的に航空分野の発展が制限されてるんだろう。なんでだかは知らんけども――。
『残念だがそれはない。何しろミルナーヴァにはまだ、宇宙が存在しないからね』
……不意に、以前アマリエルから聞かされた産地直送真実が頭をよぎる。うわーアイデアロール成功しちまった気分だぜ。つまりなにか? 宇宙無い=仮初の空だってことが露見しないように規制してたってことか? もしかして映像系の技術ツリーが著しくおかしいのも、詳細な観察をさせないため……???
うっわ、こんなん素面で言い出したら陰謀論者一直線やんけ。俺は強く激しく頭を振って邪念を振り放った。去れっ魔女よ!
「ちょっ、なにしてんのよ」
「一時的狂気:奇行」
「はぁ?」
シャランがひどく怪訝そうに片眉を上げる。気にすんなってまだ不定の狂気には至ってねー。
俺は気を取り直した。
「てかよ、これブースターの先端に火薬と誘導装置つけて直接打ち込んだほうが早くねぇ?」
「ええ。だから
うわこいつ旧日本軍みたいなこと言いだしたぞ。今からでもブースターの名前チェリーブロッサムとかに改名したほうがよくねぇ? いや流石に不謹慎だなそれはな……
「そもそも、そんな高性能な誘導装置なんてこの一週間で作れるわけないでしょ。理論すら出来上がってないのよ? 私だって出来たらそうしたかったわよ。でもこんな短時間じゃ、筐体を設計製造するだけで手いっぱいだったの」
「一週間ン!?」
シャランが吐き捨てるように言った内容はなかなかにヤバいものだった。どうしよう、あまりのデスマっぷりに何も言えなくなってしまう。というかよくそんな短時間でロケットなんか作れたな。やっぱこいつ天才だわ。
俺が怖れと同情と感嘆をないまぜにした視線を送ると、シャランはキッと俺を睨みつけた。
「だから、あんたに同情される謂れはないっての。……そもそも、一週間でこれを完成させられたのだって、その……あんたの理論が完璧だったからだし……」
「えっ、なんだって????」
「うるせーバカ!」
鈍感系難聴主人公ムーブをかましたところ、横っ面を張られた。おーいた。これが現実か。暴力系ヒロインはきょうび流行らんよ。俺は頬をさすりながらも、思わず口の端を綻ばせた。別に痛いのが好きな性分ってわけじゃねーぞ。ビンタをご褒美と感じられるほど人生終わっていないつもりだ。誰だって褒められりゃ嬉しいモンだろ。
まあ、没になったとはいえ実証実験手前まで行ってたわけだからな、あの研究。そもそも基幹の理論とかロケットの仕組みなんてのは前世で聞きかじった知識チートの賜物なわけだから、俺が凄いんじゃなくて地球の先人たちがすごいのだ。
とはいえ、地球のロケットをこの世界の技術基盤である魔法準拠に置き換えて論文化したのは俺の功績なので、俺も十分に鼻高々なのだが。
「ともかく! そんな半端な誘導装置をつけて使い捨ての爆弾にするよりも、あんたって言う一騎当千の戦力を送り込む移動手段として使ったほうが有益だって判断されたのよ! これ一機つくるだけの製造費だってバカにならないんだからね」
「お、おう」
「何照れてんのよ、ガラでもない」
「うっさいやい」
こうもストレートに評価されると何とも面はゆいぜ。相手があのシャランだってのもあるしな。
俺はひとしきり照れ照れして、それでも誤魔化しきれない懸念点に眉根を寄せた。
「けどよ、だとしたってひとつ問題があるぜ」
「今度は何よ」
シャランが腕組みをする。いやいや、かなり前提条件な話だと思うんだけども。
「俺、空飛んだことないんだけど」
「ああ、その件ね」
誘導装置とか付いてないんだろ? さすがの俺もロケットの操縦なんてしたことねーぞ前世含めて。せいぜいフライトシムゲーで遊んだ程度だ。プレステ3のコントローラー持ってきてもらえる??
しかしシャランは俺の発言に、なんだそんなことかとでも言いたげな顔をした。白衣の内ポケットから煙草の箱でも取り出すような気軽さで、一枚の板切れを取り出した。外見がMOディスクスクにクリソツなそれは、強化鎧骨格の内臓コンピュータに使われている記録媒体だ。俺の予想が正しければ、そいつはおそらく――。
……ところでMOディスクってわかる? でかめのMDみたいなやつなんだけど……えっMDがわからない? まぁ割と短命だったしな……。とにかく、透明な正方形のケースの中に円盤が入ってる感じのガジェットだ。超未来感あるデザインで俺は好きだぜ。
シャランはその記録媒体を口許に持っていくと、挑発するように笑んだ。
「もちろん、掴んでもらうわ。今夜のうちにね」
マジでぇ????
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