4-22 ティエスちゃんは大立ち回る

「あわせろ。3、2、1……今ッ」


「……ッ!」


 スリーカウントで地を蹴って、這うように姿勢を下げ、一足飛びに姫とライカ君を追い越して敵の囲みに突っ込んだティエスちゃんだ。現在鉄火場ちゅう。

 オティカは手練れだし俺も天才的に強いが、即席で連携とかできるほど手の内は知らないので各々好きに暴れまわろうと、まあそういうことやね。言ってる間に前を囲ってた数人が吹き飛んだ気配がする。オティカ、鬼つえー。ま、その間に俺も4人ばかしダルマにしてるわけだが。

 急増品の剣とはいえ、さすが俺。いい切れ味だ。毀れた刃はすぐに修復しちゃえばいいからな。靭性とか特に考える必要なく薄く鋭くできる。なんちゃって単分子カッターだ。これぞ土魔法剣士の本領だな。俺以外にできるやつは数人しか知らんけど。

 切り飛ばした四肢からは血の一滴も滴らない。代わりにケミカルな色合いのオイルと、スパークが散る。なるほど、0号機ってことはそりゃ量産型がいたっておかしかねーわな。

 賢狼人が盟主氏族から漏れているその最大の理由は、手勢の少なさだ。なんかなかなか子供ができないらしいんだよね。それでいて寿命も人間並みでエルフほど長くないから、個体数は減少の一途だ。ゴブリン戦争のときは族滅寸前まで行ったらしいしな。それを考えりゃよく持ち直したもんだが。

 戦いは数だよ兄貴。悲しいけどこれ戦争なのよね、というやつである。まあ、それでも個々人のパゥワーが数と拮抗できるくらいものすごいから滑り込みで陰の実力者ポジに甘んじていたわけだが。こういう方法で数が増やせるならいよいよ、ってところか。なるほどね。オティカがカギになるってのもわかる。

 俺は追加で10人? 10体? ばかしをなます切りにしながらそんなことを考えていた。タワーディフェンスっていうかオフェンスだよもうこれ。敵の囲みが動き出す前にほとんど終わっちゃったからな。こっちはそろそろ品切れだ。

 ときたま俺の動きに反応できるやつはオティカと同型のブレードパンチ(便宜的な命名)を繰り出してきたが、甘いなァ。踏み込みが甘い。そんなもんひょいッと切り払って返す刀でスパッですよ。こいつら量産型のくせしてオティカほどの性能はないようだ。ドラグーンじゃなくてジムって感じ。は? ジムは強いが? 要は乗り手次第なんですねぇ。強いやつが乗ればリックドムだって一刀両断よ。つまり何が言いたいかというと、筐体の性能は同等でも制御システムの方がオティカほど成熟してないんだな。言葉通り赤子の手を捻ってるようなもんだ。つまらん連中だぜ。ただの案山子ですな。

 ま、それはベネットとかメイトリクスとか俺とかくらいの手練れから見ればって話で、ライカ君くらいの使い手からすれば十分難敵だろうけどな。いや別にライカ君を特別侮ってるわけじゃないぞ。俺は俺以外を等しく侮ってるからな。実際にやりあってないから正確な実力のほどはわからんが、少なくともうちのハンスに匹敵するくらいの腕前はある。ハンスはうちでこそ下っ端だが、王国軍全体から見れば十分上澄みに食い込む有望株だ。じゃなかったら選抜になんて連れてきてない。それと同等程度の能力を持つライカ君でもきついってことは、こいつはなかなかにヤバめってことだ。

 とはいえ俺の敵ではないがね。

 用がなくなったので剣を魔力に還元する。その辺にポイ捨てするわけにもいかんからね。さらっとやってるが実はこれもできるやつがなかなかいない絶技だ。ドヤドヤドヤァ。

 姫とライカ君の様子をうかがうと、二人ともぽかんとした顔をしていた。俺があまりにもあっけなく襲撃者たちをバラバラにしちゃったもんで仰天してるって感じだな。よせやい照れるぜ。しかしライカ君はともかく、雇い主の姫がその顔ってのはちょっと不安だぜ。履歴書ちゃんと読んだ? 書いた覚えはないけど。

 オティカのほうもほとんど片付いたらしい。周りには己の兄弟機が死屍累々だが、覚悟キマっちゃってるオティカは特に気にする素振りはない。残るは敵の隊長格だけだが、オティカのブレードパンチが炸裂する1秒前って感じ。勝ったなガハハ。


「ヌゥッ……【転移】!」


 と思ったらなんか敵の隊長格、何事かを叫んだかと思うと光って消えちゃった。オティカのパンチが勢いよく空を切る。おい俺が変なフラグ立てたせいだぞどーすんだこれ。知らんがな。というか、空間転移? 人間サイズの質量を? 俺は風魔法のちょっとした応用で周囲500メートルを走査した。特徴は覚えたからな。しかしヒットなし。おいおい、やってくれるじゃねーの。


「…………逃がしたか」


 拳を振りぬいた体勢でしばらく固まってたオティカが何事もなかったかのように姿勢を正し、黒いフードをかぶりなおした。

 妙に図太い野郎だ。嫌いじゃない。俺はそそくさと逃げの準備をしているオティカに問いかけた。


「おいお前、これからどうするよ」


「………………」


「まだ姫の略取を狙うなら、俺は今ここでお前を無力化せにゃならん。言っとくが、俺はお前よりもだいぶ強いぞ。今度は逃がさん」


「…………」


「もしか、何か考えあってどこぞに消えるつもりなら、俺は手を出さん。証拠なら、こいつらでも十分だろうし」


「……」


「なんかいえよぅ」


 無口キャラは事故のもとだぞオイ。俺は何の気なく地面に転がってる人間大強化鎧骨格のなれの果てを蹴っ転がす。癖みたいなもんだな。瞬間、オティカが動いた。姫に向かって飛びかかるように、全力で地を蹴ったのだ。


「なっ!?」


 その動きは、この俺の目にもとらえられない……ほどではなく、反応が間に合わない……こともなかった。なんなら今からだってオティカを叩き落すことは造作もない。しかし、俺は驚いた。驚いて、姫をかばうどころではなくなった。なんでって、そりゃ――。




 中央市場の倉庫街に、派手な爆発音が響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る