4-8 ティエスちゃんは説明したがり②
「そういえば、エルフと人間の違いってなんなんだ?」
「ん?」
山盛りのパンケーキをお替りしてきたティエスちゃんだ。パンケーキ呼びが世間に広まった頃、ネットで「しゃらくせえホットケーキやろがい!」と噴きあがるオタクどもを高みの見物していたのが今では懐かしい。ほら、俺って楽しいムーミン一家世代だからパンケーキのほうが耳馴染みあるんだよね。木苺のジュース飲みたい。
そんなわけで仕切り直しの開口一番は、エルヴィン少年の疑問符から始まった。
「いやほら、だって見た目的にさ」
「耳の形と髪色くらいしか違いがないって?」
「そうそう」
ま、エルヴィン少年の疑問は当然だろう。もそもそとパンケーキを食む。人間・獣人の区別を学ぶ上で一番最初に引っかかるのがこの見た目問題だ。とりあえず森域の四大氏族に限ってみても、オーク・ゴブリンは明らかな異形だが、エルフ・ドワーフは若干の差異こそあれかなり人間に近い見た目をしている。しかし分類としては、どちらも獣人だ。人間じゃない。
「まあ、この辺難しい問題ではあるんだよな。そもそも人間と獣人ってのは、そこまで別種の生き物ってわけでもないんだよ。交配もできるしな」
「あー、それもそうか。犬と人間とじゃ子供は作れないもんな」
「そゆこと」
なんだっけか、類まで一緒だったら交配できるんだっけ? ライガーみたいな。それでも人間とチンパンジーとじゃ交配できないから、見た目はあれだが生物的にはほとんど一緒。せいぜいアジア人と欧米人程度の違いしかないってこった。……ほんとぉ? 俺は自分で解説しておきながらひどく懐疑的な気分に陥る。容姿どころか、生態や寿命だって全然違うのに? うーん。この世界、こういう無理が通り過ぎてんだよな……こわこわ。
「じゃあ何が違うんだよ」
「ん、ああ。
「魔導鎖?」
思考の沼にはまりかけていた俺を引っ張り出したエルヴィン少年の問いに、簡潔に応える。魔導鎖ってのは前にも出てきたと思うが、いわゆる魔法版遺伝子みたいなもんだ。詳しいことまでは俺も知らんがね。専門分野が違う。
「魔導鎖ってのは、要するに生物の一個体に対して一個だけ発行される重複なしのシリアルナンバーみたいなもんでな。これを解析することでいろいろなことがわかる」
「え、誰が発行してんの?」
「いや、ものの例えだが……考えてみりゃあすげえ話だよな。誰が管理してんだって話だ」
エルヴィン少年の少年らしいピュアな問いに半笑いになりながらも、言われてみれば面白い話だ。一卵性双生児とかの例を除けば、原則全員に異なった遺伝子が備わってるってのは、確かに妙な作為を感じることもある。しかもこれ、
「ま、それはともかくだな。その魔導鎖ってのは個々人で違うものではあるんだが、それでもその生物ひとまとまりには共通するコードがある。これが人間と獣人では違うわけだな」
俺はベリーソースにどぶ漬けしたパンケーキを飲み込むと、ちょっとズレかけた路線を修正した。
「それって、人間と獣人のハーフとかだとどうなっちゃうワケ?」
エルヴィン少年はちょっとそわそわしながら聞いた。まぁそうだよな、自分もその当事者なわけだし。きになるわな。
「あんまり有意な傾向は出てないらしいな。その個体によって、共通コード部分が混ざりこんだり、片親の方だけ発現したり、スパッと半分ずつになったり、まったく別のコードが発現したりとまあ、様々らしい」
「それってその、なんかこう、体に影響とかは?」
「ない。……いや、断言できるほど解明されてるもんでもないんだけどな。とりあえず今のところは、魔導鎖が健康面に及ぼす影響はないってことになってる。ま、この辺は今後の研究次第だろうな」
結局のとこ、この世界の文明は一部突出してる分野こそあれ、
「あれ? じゃあこの髪の色とかってのは何で決まってんの?」
「それはおまえ、普通に遺伝情報だろ」
生まれてきた赤ん坊の肌の色でワイフがほかの男とファックしてたのがわかった、みたいな笑い話といっしょだよ。
「えっ、じゃあ寿命とかも?」
「統計によると、両親のうち優位なほうを引き継ぐ確率が三割。劣位なほうを引き継ぐのが五割。その他二割」
「その他がこえーよ」
エルヴィン少年が半笑いになりながらパンケーキを口に運ぶ。ま、強く生きろ。あと遠慮せずにもっと食っていいからな、パンケーキ。
「あれっ、じゃあ魚人と人間が交配したら……」
よくてインスマス、悪けりゃ窒息だわな……。
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