3-6 ティエスちゃんは遊ぶ①
「よし、今夜は遊ぶぞ」
「開口一番がそれ!?」
国境の町レイフェンにやってきたティエスちゃんだ。現在半舷休息中。
レイフェンに着いたのがそろそろ日の傾いできたころ合いで、お偉方をホテルに送り届けた俺たちは、キャリアをレイフェンの基地に停めさせてもらって夜の街に繰り出した。もっとも半舷休息ということで、厳正なじゃんけんの結果俺たち1班が今夜の休みを勝ち取ったわけである。レイフェンには明日の昼過ぎまで逗留予定であり、第2班の休憩は明日の早朝から出発前まで。おかわいそうなことだ。
レイフェンは国境の町、流通の要でありつつ護りの要。王国にとって重要な要衝だ。華やかなのはまさに夜で、昼はみんなせっせと働くばかりで楽しめるような店もない。
とはいえそれを悔しがりそうなちゃらんぽらんどもは第1班に集中していたので、じゃんけん一発勝負に惜敗した副官を責める者はいなかったようだ。1班だったら俺は今頃袋にされてるところだ。
むろん返り討ちにするが。
「なかなか華やかじゃない。王都やエライゾ本領に比べると、少し粗野だけど」
「ばっか、歓楽街なんてのはこれくらい下品なほうがいいんだよ。なぁ少年」
「俺に聞くなよ未成年だぞ……」
そんなわけで、俺たちはレイフェン一の歓楽街にやってきていた。メンツは俺とエルヴィン少年とニアである。ハンスはいの一番に夜の街に駆けこんでいったので、今回は別行動だ。
サイケデリックなカラーに明滅するネオン管が店々の軒を飾り、軽薄な音楽が幾重にも重なりあってノイズと化し、行きかう人々はみな浮ついた顔をしている。うん、ザ・歓楽街って感じだ。実にバブリー。
表通りはまだかろうじて健全な酒場が軒を連ねているが、一歩路地を入ればウフンでアハンな特殊飲食店が立ち並ぶピンクゾーンである。ちょうどエルヴィン少年のご実家みたいな。
「なに言ってんだ。こんなかじゃお前が一番本職だろ」
「いや、俺だってたまに酌をしたくらいでそんなに詳しかねぇから。それも母さんの知り合いだっつーおっさんが来た時くらいで」
「んだよ、だったらおねーさんが夜の街の楽しみを一から教えてやるとしますか!」
「あのねえ、これでも私たちは任務中なのよ? あまり羽目を外しすぎないでよね?」
ニアが腰に手を当ててお小言を述べる。たまに真面目ちゃんぶるんだよなこいつ。うちの隊いちばんの破天荒ガールの癖しやがって。
俺は鼻で笑った。
「ずいぶん真面目だこと。任務中にカモに身ぐるみはがされかけた奴は言うことがちげーよなー!」
「ムムム……!」
ニアは苦虫を噛み潰したような顔をした。エルヴィン少年にコテンパンにやられた卓はハーヴェスター襲来でわやわやになり、またエルヴィン少年の格別の慈悲によって負け分はノーカンになったらしい。まったくビギナーにやられてちゃ世話ねーぜ。
「そ、そこまで言うなら勝負よ! 私が弱いんじゃなくて、エルヴィン君が強いだけだってこと、思い知らせてやるわ!!」
「それ、言ってて悲しくならんか?」
「えぇ……? 俺も巻き込まれんの??」
こいつほんとこういうとこあるよな。俺とエルヴィン少年はそろってドン引きした。まぁ内訳は違うかもしれんが、誤差だ誤差。
ニアはエルヴィン少年の肩にガッと腕を回すと、最寄りのカジノに引っ張り込んだ。まぁカジノとはいっても前述の通り、この世界ではカードゲームがそれほど地位を得られておらず本流の娯楽ではないため、設置してあるのは当然のように雀卓である。つまりは雀荘やね。
俺も仕方なく、エルヴィン少年を引きずるニアの後を追って入店する。自動ドアをくぐると、受付の奥には全自動卓と普通の卓が十数脚ずつ並び、ほぼ満席だった。背中の煤けた連中がざわざわしながらどんどんじゃらじゃらしている。いいねぇ。染み付いた煙草の匂いが年季を感じさせるぜ。
「よう嬢ちゃん。見ねェ顔だな」
ニアが受付をしているのをやれやれ感たっぷりに眺めていると、ふと後ろから声をかけられた。ナンパか? と一瞬思ったが、違うのはすぐにわかる。振り返った先に立っていた声の主は、パリッとした黒シャツをまとった初老の男だった。目を見ればわかるんだが、こいつぁ堅気じゃねぇ。
「ああ、ちょっと森域に用があってね。せっかくだから遊んで行こうってことになった」
「へぇ。旅打ちかい?」
「そんなトコ」
肩をすくめながら親指でニアを指す。なんだか受付ともめてるようだ。満席だったんだろうか。
「ほう、そいつはいいな。どうだい、見たところ連れは二人、嬢ちゃんを入れても三人だ。メンツが足りねぇんじゃないかい?」
黒シャツのおっさんはニィと笑った。下衆な魂胆は微塵もない、それでいて明らかな挑発である。おれを玄人と見込んで声をかけてきた。そんな感じ。いやまあ俺は職業軍人なので玄人ではないんだが、それでも俺の中の雀士魂ににわかに火が付いた。
俺は自然と口の葉を吊り上げながら、言葉を返した。
「いいぜ。レイフェンの
そういうコトになった。
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