2-26 ティエスちゃんは訓練する(ダイジェスト)②

2.格闘訓練


「おらァ! どうした? 味方に援護してもらわねぇと動けねぇのか!?」


「こんのっ……!」


「ハン、脇が甘いっ!」


 格闘訓練でいい汗流してるティエスちゃんだ。現在はペアで組み手をやってるところ。はーい二人組作って~、あぶれたニアちゃんは先生と組みましょうね~。ということで軽くもんでやっている。いやまあローテーションだけどな。

 強化外骨格乗りが生身の格闘術なんて訓練して意味あんの? と聞かれれば、意味は大ありだ。拡張思考によってマシーンの手足を自分の手足のように動かすという操縦方式を採用している強化外骨格の性質上、パイロットの技量やセンスがストレートにマシーンの戦闘力に直結するからな。

 ……そこいくと、ニア・テッテンドットという女は一言で言ってしまえばセンスがない。センス十割の俺とは真逆のタイプだ。

 いやまぁ、そこだけ聞くと悪口みたいに聞こえるかもだけど、それでも現状、ニアは中隊でも五指に入るつわものだ。実力はあるんだよな。家柄だけで勤まるほど小隊長という職責は軽くないし、よしんばそういうえこひいきがあったとしても、俺の中隊にいる以上は通用しないわけで。つまりこいつはそのセンスのなさを、理屈と努力と根性で補っているわけやね。

 ああすればこう、こうすればああ、といったパターンを頭の中に詰め込んで、その場その場に見合ったパターンを出力する。それは本来人間が無意識でやってることだけど、それが壊滅的に苦手なこの女はそれを意識下でやりまくって、ようやく現在に至るまでの実力を構築し、維持しているということ。雨だれ石を穿つみたいな話だ。

 もっとも、そんなだからこういう軽いフェイントに引っかかったり、一瞬迷ってしまうわけで。


「っ……らあッ!」


「バカめ、手元がお留守だぞッ!」


「あっ!?」


 挑発に乗って突き出された訓練用の刀剣(硬質ゴム製)を、掬い上げるように弾く。その精度と練度は目を見張るものがあるが、とはいえ俺くらいになるとパターン化されたモーションなんてのは見切るのもたやすい。

 つくづく、この女は文官にでもなったほうがよっぽどその特性を活かせただろうに。家がそうはさせなかったのだから可哀想な話だ。その家を出奔してきた今になっても、こんな辺境くんだりで身を立てるにはその家で学んだ武技を前面に売り出すほかなく、まぁ実際そんなことはないのだが、本人がそう固く信じてしまっているので俺からいうコトは特にない。

 できるのは、少しでも強くしてやることくらいだ。それは、上司と部下という関係からくるものだけではなく、歳のほど近い友人としての情けでもあった。


「このっ……!」


「勝負ありだ。そのガッツは買うが、まだまだだな」


 両手の剣を飛ばされてなお徒手空拳で立ち向かってきそうなニアの首筋に剣を突き付ける。ニアは虚を突かれた顔から一瞬悔しそうに唇を噛み、何かをまくしたてようとしてそれを踏みとどまり、二度目の悔しそうな顔を経て、ついにすっかり脱力した。


「なによあの動き。初めて見るんだけど」


「そりゃ、ついさっき考えた動きだからな。やってみたら思いのほかうまくいった。おまえさ、初見のモーション見たら硬直しちまう癖、直したほうがいいぞマジで。何回も言うけど」


 ニアが唇を尖らせながら尋ねてくる。さっきのフェイントのことだな。なんとなく引っかかるかなーと思ったら見事に引っ掛かりやがった。よくないぞ。実戦じゃ死んでんだからな。俺はお説教した。


「何回も言うけど、そんなことできるのってあんたとか親父みたいな化け物連中だけなのよ。もうちょっと自覚してくださらない?」


「その化け物連中と戦ってもらわにゃならんのだ。この程度じゃまだまだ」


「勝手にそういう流れにしないでくれない!?」


 何甘っちょろいこと言ってんだ。お前も化け物になるんだよ! ……まあ実際問題として将来的にテッテンドット卿に比肩しうるかといえば、それは難しいとは思う。近衛の連中はなんていうか、規格外だからな。俺から見てもそう思うよ。

 だからと言って鍛錬をさぼっていい理由にはならないんですねぇ。だいじょぶだいじょぶ。前世むかしに通ってた高校の美術教師が言うには、感受性やセンスなんてもんは大体後付けで何とかなるもんらしいからな。俺たちを砥石にして、おまえのセンスをビンビンに砥ぎ磨き上げろ。胸はいくらでも貸してやるからな。あたたかい目~~。

 そういう気持ちを一身に込めた表情を向けると、ニアは心底気持ち悪そうな顔をしてドン引きしていた。なんだよぅ。


「あんた、その顔ほかのみんなの前でしないほうがいいわよ。信用失いたくなかったら」


「そこまで言う!?」

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