第10話 ぽんこつ聖女の奮闘
煌めく炎の光線が宙を奔ります。
仮にも女のわたしに向かって容赦のないまっすぐな一撃です。
まともに喰らえばわたしは真っ黒に焦げ付いて死んでしまうでしょう。
──わたしの推し、負けず嫌い過ぎるんですが!?
『今から触りに行ってやろう』
ていうか今から推しが来る!? え、触ってくれるんですか!?
どうしましょうちゃんと身体は洗ってますけど汚くないですか大丈夫ですか!?
あぁ~~~ドキドキして口元がにやける……!
駄目です。推しは今、真剣なんです。笑っちゃダメです。
さぁ、まずは目の前のことに集中しませんと!
「さてどうしましょうか」
目の前に迫る炎を見ながらわたしはため息をつきます。
ギルティア様が予想以上に天才でビックリしました。
まさか第四世代魔術を二年前に完成させていたなんて……。
わたしの秘策は未来でギル様が開発した魔術を使うことだったんですけど。
この身体で魔術を使えたことにホッとした矢先だったんですけど。
ギル様本気出しすぎでは?
そんなにわたしのこと嫌いですか? 何気に凹みますよ?
まぁ、どの派閥にも属さないギル様が教会派の代表とも言えるわたしを嫌うのは分かりますけどね。枢機卿からもギル様の情報を出来るだけ送るように言われていますし。教会から追放しておいて命令するってどういう神経してるんですかね?
ともあれ、わたしは枢機卿に従うつもりはありません。
推しの邪魔をするほど野暮な女じゃありません。
わたしは出来た女です。
なにせ二度目ですからね。
まぁ、とりあえずは全力で足掻いてみることにしましょう。
とってきの神聖術を披露しますよ。
「いと尊き太陽神よ。魔を祓う……………」
突然、頭が真っ白になりました。
だらだらと冷や汗が出てきてわたしの頬を伝います。
……。
…………。
……………………大変です。
詠唱の続きが、思い出せません!!
今まで散々聖女として唱えてきたはずですが……。
あわわ。え、炎がもうこっちに迫ってます!?
「どうした、あれだけ大口叩いておいて何も出来ないのか!?」
こ、これはまずい……!
慌てたわたしを叱りつけるように推しは言います。
その瞬間、『一度目』の人生で推しがおっしゃった言葉が脳裏をよぎりました。
(諦めが悪い女は好きだ)
す、と頭が冷えていく感覚がありました。
……そうですよね、ギルティア様。
たとえあなたが相手であろうと、諦めちゃダメですよね。
わたしの推し活はまだまだ始まったばかり。
たとえ一撃で倒れるにしても、足掻いてから倒れるほうが断然いいです。
「『
その瞬間、肌が焼き付くような熱が消えました。
焔の熱線が消えて、呆然とした顔で立っている推しが見えます。
「馬鹿な……」
ギルティア様はつぶやきました。
「俺の魔術を、一瞬でかき消した……?」
「ふふ。この程度、わたしには造作もありません」
嘘です。
推しが驚いている以上にわたしが驚いてました。
だって、
『浄化の光』は聖女の祈りの一つで誰でも使えます。
瘴気を払ったり、毒物を取り除いたりできますが……。
ギルティア様の本気の魔術を打ち消すような力はありませんでした。
「……今、なにをした?」
「えっと」
推しの言葉にわたしは返事がまごつきます。
なにをと言われましても、わたしのほうがわたしに聞きたいんですけど。
「何をしたんでしょうね……」
わたしが大聖女だったのは過去の話。
今のわたしは身体にガタが消えていて、こんな神聖術を使える筈がないです。
だからこそ神殿で雑務に励んでいたわけで。
あ、分かりました。
分かりましたよ。これこそが唯一の答えです。
「むふ。手加減してくださったんですね、ギル様!」
「……!」
わたしが手を合わせて言うと、ギル様は図星を突かれたように顔を歪めました。
ふっふふふ。なるほどそういうことでしたか!
わたしごとき聖女の『
「つまりあれは
なんというお優しい心でしょう!
口では聖女のことを嫌いだと公言しつつも、わたしのような者にも手加減する慈悲深さ!
「尊い……尊いです。推しの優しさで頭が溶けてしまいそうです」
推しは頬を引きつかせています。
ハッ、わたしったらなんてことを!
「申し訳ありません。わたしごときが推しの真意を口にしてしまうだなんて」
「……っ」
「本当は胸にそっと秘めておくべきでしたね。次からは……」
「………………もういい」
ごごご、とギル様の背後にめらめらと魔力が揺れています。
なんだかすごく怒っていらっしゃるような……?
いえ、これはきっと手加減をやめた証ですね。
「これほどの屈辱を味わったのは初めてだ。悪女め。貴様はここで潰す!!」
…………待ってください。これかなり本気のやつでは?
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