式鬼の怖さを知りました
月影の指先がかすかに震えた。
閉じられていた瞼がゆっくりと開かれ、薄暗い天井が視界に広がる。
「……ここ……は……」
掠れた声が喉から漏れる。
すぐ傍で緑青が顔を上げた。
「やっと目ぇ覚ましたか」
口調はぶっきらぼうだが、その声には安堵が滲んでいた。
月影は視線を巡らせ、壁際に立つ浅緋を見つけた。
彼はただ黙ってこちらを見ている。
淡紅色の瞳に宿るのは、どこか怯えにも似た不安げな色。
だが口を開くことはなく、目が合うとすぐにうつむき、白い髪でその表情を隠した。
「ここはあんたの部屋よ」
秘色がすっと歩み寄り、長い袖を払って月影の額に手を当てて、軽く眉をひそめる。
「まだ熱いわね。……おとなしく寝てなさい」
緑青が横から補足するように言う。
「露草が運んでくれたんだよ。
今ちょうど医生が帰ったとこだ。
命に別状はないってさ、安心しな」
そう言いながら、彼の視線はちらりと浅緋に向けられる。
その視線を受け、浅緋の華奢な肩がかすかに揺れる。
月影は苦しげに息を吐きながら、弱々しく呟いた。
「まじで死ぬかと思った……。
あんたたち……何が起きたのか、……ちゃんと説明なさいよ」
かすれた声で訴える月影に、緑青は深いため息をついた。
「……お前が訓練場で絡まれたのは覚えてるだろ。
浅緋が勝手に憑いたんだよ。
おかげで団員どもをまとめて叩き伏せたが――その代償でお前がぶっ倒れた。
そういうこった」
月影は浅緋に目をやる。
壁際に立っている浅緋は、うつむいたままだった。
秘色が声を重ねる。
「昔話をしてあげましょうか。呪われた一族の話よ」
月影のまぶたがかすかに震える。
「呪われた、一族?」
秘色は長い睫毛を伏せたまま、淡々と語る。
「その一族はね、人々から恐怖と憎しみを一身に浴び続けてきた。
やがて一人を残して滅ぼされたの。
理由は――霊を従える力を持っていたから。
……今のあんたと同じ」
私……?
月影の胸の奥が冷たく締めつけられる。
秘色はさらに言葉を重ねる。
「式鬼っていうのはね、ただそばにいるだけの存在じゃない。
主に憑いてその力を振るうの。
式鬼の力を引き出せるのは主だけ。
私たちはそういう関係なのよ」
月影の瞳が不安げに見開かれる。
その様子に緑青が気づき、低く制した。
「もうやめとけ、秘色。今言うことじゃ」
秘色は涼しい顔で肩をすくめ、月影を覗き込み、唇の端を冷たく歪めた。
「この子がきいてきたのよ。
それに。
もう知らずにはいられないでしょう」
月影は言葉を失い、指先をぎゅっと握りしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます