おやじパンクス、恋をする。#7

 親父、お袋、俺っていう三人だったウチの家族は、外食に行くと親父とお袋が並んで座って、その向かい側に俺っていうのがルールだった。いや、ルールなんて固いもんでもねえけど、まあ普通に毎回そうだった。空いた席は荷物置き場になって、カバンとかコートとかが置かれてさ。


 家族向けの飲食店は、だいたい四人席だろ。親父お袋、そんで向かい側に俺と荷物、そういう図式な。で、親父たちは上座っていうのか、店の入り口から遠い方の席に座る。俺は下座。


 なんでこんなことを詳しく説明するかっていうと、つまりこの店「キッチンクリハラ」に来た時も、俺はいつも窓側を向いて座ってたってことを言いたかったからだよ。


 この店は奥に長い長方形で、入り口から入って店の中ほどまでは厨房やらトイレやら棚やらが占めていて、客席はその奥に集中している。もともとテーブルが十もない小さな店だ。どのテーブルに案内されても、俺は窓の外の景色を見ることができたわけだ。


 モヒカン頭でヘビースモーカーの今からじゃ想像もつかねえだろうが、三十年前の俺はいわゆる「真面目くん」ってやつだった。


 勉強以外に脳がねえっていうか、我ながらテンションの低いつまんねえ野郎だったよ。運動はからっきしだし、絵とか彫刻とかそういうののセンスもゼロだし、そもそも性格が暗いしであんま友達もいなかったな。


 小学校高学年ともなれば、そろそろ色気づいた話も出始める頃だが、俺はクラスの女子と楽しくおしゃべりするどころか、目を合わせることすらできねえチキンでさ。


 だからって興味がなかったわけじゃないんだぜ。いやむしろそういう意味では早熟だったんじゃねえかな。クラスの可愛い子とあんなことやこんなことって、スケベなことを妄想して、悶々としてたんだから。


 で、当時の俺には休みの日に一緒にバカやる仲間もいねえし、親に誘われるままホイホイこの店にも来てたわけだ。


 毎週とは言わねえが、月に一回か二回、そう、決まって土曜の夜、毎回わざわざ電話で予約してさ。とはいえ、当たり前だが親との話が面白いはずがねえ。それも、通い慣れて新鮮さのかけらもない店なら、なおさら退屈だ。


 だから、慣れねえワインで饒舌になっている親父の話を聞き流しながら、俺はいつも親父の向こう側の、窓の外の景色をボンヤリ眺めていたわけだ。


 そんなある日、俺は彼女を見つけたんだよ。

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